25.獣導師と討伐クエスト
俺たちは食事を済ませて、南の森へやってきた。ここは四方の森の中でも害獣の被害が圧倒的に多く、剣士ギルドのクエストには、その獣の駆除・討伐を求められることがある。
今回、最初の依頼は『キバネズミ』。以前、疾剣の護衛依頼でも出てきた獣だ。この獣は荷台や農作物もそうだが、木造の建物にも齧りにくる習性があって、数十匹近くの群れで行動することがある。故に、速やかに討伐しないといけない。
「それで、これからどうする? 探すのは大変だよ」
南の森は木々が立ち並び、もはや樹海。下手に入り込むと、何日も遭難する羽目になる。
「大丈夫、リンクスお願い」
「ガウッ」
リンクスと呼ばれたルナの背に乗った獣が立ち上がった。そして、豹のような斑模様で耳が逆立った獣は、キャリメラの前に降りてきた。キャリメラはしゃがみこんで指示を出した。
「リンクス。今日はあなたの大好きなキバネズミよ。仲間を増やしていって、キバネズミを探して討伐してほしいの。いい?」
「ガウ」
リンクスは元気そうな声で返事をした。
「じゃあ、最初に群れを集めに行ってきて」
リンクスは森の方へ一目散に駆け出した。その速さに心の声が漏れた。
「はやっ」
「ルナに乗って移動するときはリンクスも一緒だけど、戦闘・探索時にはルナより速く走るの」
「そうなの?」
「うん。でも、力はルナよりも弱いから、今回は森の中にいるハーメルキャッツを集めて群れを作って倒すの」
集団戦で倒す作戦のようだ。とはいえ、懸念点があった。
「ところで、どうやって追いかけるの? もう見えないけど……」
「大丈夫。ルナが匂いを辿って追いかけるから」
「抜かりない」
そう言って、俺たちはルナの背に乗って追いかけた。結構森の奥に進むとハーメルキャッツの群れができており、その中の一匹が俺たちの方に近づいた。リンクスだ。
「リンクス。集めてきてくれてありがとう」
キャリメラはリンクスの顔を撫でる。ハーメルキャッツの群れは、およそ二十匹ほどいた。
「この数で倒すの?」
「そうだよ。でも、確実に倒すために手を尽くすよ」
「というと?」
「その前に、キバネズミを探そう。見つけた、リンクス?」
「ガウッ」
リンクスは先導して走る。森の茂みで止まり、俺たちも中に隠れてそっと覗く。そこには五十を超えるキバネズミの群れがいた。
「これをどうやって?」
「もちろん、これを使うの」
多すぎる群れに、俺はキャリメラにおそるおそる聞いた。すると、彼女は問題ないと言わんばかりに笛を握って笑う。
「じゃあ、いくよ。ルナもお願いね」
ルナは静かに頷く。そして、キャリメラは立ち上がって笛を吹く。
相も変わらず、綺麗な旋律を奏でた。その旋律に鼠たちは聴き惚れたように、その場に留まっていた。
しばらく笛を吹き続け、キャリメラが吹くのを止めた。だが、鼠たちは放心しているのか、その場で突っ立っているようだった。
すると──、
「「「「「「ガウッ」」」」」」
いつの間にか、リンクスたちハーメルキャッツがキバネズミを囲み、茂みの中から飛び出てきた。
鼠たちが驚き、散り散りになろうとした。そこから追い打ちをかけるように、
「ワォーン」
ルナの咆哮が森に響く。その咆哮に鼠たちは身を竦ませたようで、その隙を逃さんとリンクスたちがキバネズミを退治していく。一匹倒せば、動きが鈍り、その隙を別の仲間が狩る。
それを繰り返していき、一分もかからずに、キバネズミの討伐は完了した。
「いや、凄っ」
「リンクスたちは速いから。小型の群れならこれくらいすぐだよ」
すごく当然のように言ってるけど、普通の剣士ならもっとかかるし、取り逃がす。でも、リンクスたちは一匹も逃さずに事を終わらせた。
俺たちは複数のキバネズミの皮を持って帰った。
「じゃあ、次行こうか」
「そうだね。じゃあ行こう」
俺たちは次の依頼に向かった。俺は彼女の討伐を見て思う。
獣導師の討伐は『圧巻』だった。
────
俺たちは二つ目の討伐クエストを終えようとしていた。
中型の獣で、リンクスの群れを使い、一匹相手に複数で倒していく狩り方で、こちらも一匹残らずに倒した。
「さっきまで見る限り、討伐クエストも難なくこなしているね」
「まあ、リンクスやルナが強いからね」
「それもあるけど、キャリメラが獣の動きを止めて狩るというやり方ができるから、なせる早業だからね、これ」
「分かってくれて嬉しいな」
獣導師の腕前を披露できて嬉しいのか、上機嫌だ。
「とりあえず、中型の獣を討伐した証拠を……」
俺は言葉を止め、剣の柄を握ってリンクスの方へ駆け出した。
ルナも威嚇しだして、気づいたようだ。
「ショウヤ、どうしたの?」
キャリメラが慌てて聞くが、答える暇もなく、
「ガォォォ」
後ろからギガントベアが吠える。俺はギガントベアの振り上げられた両腕を、振り下ろされる前に深く斬りつけた。
「ガォッ」
怯んだギガントベアに俺は胴を逆袈裟で斬り、そこから流れるように首元にトドメを刺した。
ドシンッ──
熊は唸ることなく、地面に倒れた。俺は深く息を吐いた。
「これって、最後のクエスト対象のギガントベア?」
「そうだね。そうだけど……」
キャリメラが一瞬言い淀んでいたようで、言おうとした半ば、ルナがまた唸りだした。
俺は振り返って見ると──ギガントベアが三匹いた。
「ふっ。アンコールか。厄介だな」
「話は後ね。今度は私たちも協力する。好きに動いて、ルナが合わせてくれる」
「ガォゥゥ」
「頼む」
俺は一番近くにいたギガントベアに突っ込んでいく。ギガントベアたちは突進してきており、俺は回避ギリギリの位置で突進を躱した。そして、側面から横腹を上段で振り下ろした。倒し切れなかったが、そこそこ深く入ったようで弱り出した。
俺は他二匹の突進に警戒したが、ルナが一匹の腕を食いちぎり、もう一匹はリンクスたちの群れで牽制してくれている。
(ありがたい。なら、さっさと倒す。)
目の前の一匹は俺をただ睨むが、俺はただ疾く剣を振って、ギガントベアは反応しきれず首元を斬られる。
ドサッ──
ドサッ──
どうやら、ルナも倒せたようで残り一匹。残りの一匹はリンクスたちによって弱っているようだが、決め手が欠けるようで、俺は残り一匹に向かって走った。
「ガゥッ。ガォォ」
ルナが吠えると、リンクスたちはギガントベアから距離を取った。
ギガントベアは動揺したが、俺を見るなり腕を大きく振り回そうとした。その瞬間──リンクスがギガントベアの目を引き裂いた。
ギガントベアは怯み、俺はまた疾く力を込めて斬った。
ギガントベアの首は両断され、地面に転げ落ちた。
「討伐完了だな」
「「「「「「ガゥゥゥゥゥ」」」」」」
「ワォーン」
ルナやリンクスが吠える。そして、キャリメラが俺に猛ダッシュして近づいてきた。
「凄い凄い。今まで何人かの剣士を見てきたけど、疾すぎて見えなかった。ギガントベアを一人で倒すなんて、本当に凄いよ。六剣聖の剣を教わったから当然だろうけど、本当に凄い。驚いちゃった」
キャリメラは目を輝かせて、興奮してオレにグイグイ話してくる。
「ありがとう。俺の剣も見てくれて嬉しいよ。でも、一回落ち着こう。ギガントベアの皮やら肉を持って帰ろうか」
「そうだった、ごめんなさい。何はともあれ、皆お疲れありがとう」
「「「「ガォゥゥゥゥ」」」」
キャリメラの感謝の言葉に獣たちは吠える。その咆哮は森中に響き渡った。
それから、俺たちはギガントベアと中型の獣の皮や肉を取って森から出た。
そして、帰り際に王城の外壁から回り込んで東の森でムーハたちが集めた薬草を貰い、クエスト達成報告をしにギルドに向かった。
ギルドに着いた頃には、日暮れ前だった。
「キャリメラちゃん、ショウヤさん。お疲れ、依頼達成確認しました」
「ありがとうございます。マリネアさん」
「ありがとう、マリネアお姉ちゃん」
マリネアさんが報酬金を渡して、俺に声をかけた。
「フフッ。どうだった、キャリメラちゃんの活躍」
「いや、凄かったよ。獣導師の活躍、剣士とは違った技術があって感動したよ」
「えへへっ。そう言ってくれると嬉しい。ありがとう」
キャリメラは褒められると本当に嬉しそうに笑う。その笑顔に、俺たちは癒される。
そんな風に考えてると、マリネアさんはあることを話した。
「ところで、折角ですしどうですか? ショウヤさん」
「うん? 何がだ」
「パーティーですよ。折角ですしキャリメラちゃんと組んでみたらよろしいのでは?」
俺はその言葉に驚きながらも、心が昂ぶった。




