24.獣導師の仕事と仲間たち
キャリメラと約束した俺は身支度を整え、ギルドの前で待っていた。その際に、何度も勧誘されるが「今日は先約がある」と言って断った。申し訳なく思いながら待っていると、
「ショウヤ、お待たせ」
キャリメラの声がした方向を見る。白銀色の毛をしていた三メートルは超えるであろう狼が走ってきた。よく見ると、その背にキャリメラと猫型の獣が乗っていた。俺は驚きつつも、挨拶をした。
「おっと、おはよう。キャリメラ。綺麗な狼だね」
「おはよう、ショウヤ。そうでしょう。この子は『月狼』のルナ」
「月狼ってかなり希少な獣だったはずじゃ⋯」
「そうだね、でも私と会って最初のパートナーなの」
こんな大きな希少な月狼を手懐けてるなんて、本当に凄い子なんだな。
「さて、じゃあクエストを受けにいこうか?」
「うん、そうだね。ルナ、おとなしく待っててね」
「ガウッ」
ルナはギルドの横まで歩いていくと、邪魔にならないように身を丸めて座った。
「凄いね。こんなに大きいのに、ちゃんと邪魔にならないところで待ってる」
「ルナは賢い子で、力加減とかで壊さないようにもしてくれるの。さっ、早く行こう」
「そうだね」
そして俺たちはギルドに入った。
ギルドで俺たちは注目を浴びているが気にせず、クエストを見て選んでいく。キャリメラが取ったのは、薬草採取や運搬などの雑用を六つくらい選んだ。俺でも三つがやっとだ。そして、キャリメラはマリネアさんに声をかけた。
「マリネアお姉ちゃん、おはよう」
「おはようございます、キャリメラちゃん。ショウヤさんもおはようございます」
「おはようございます、マリネアさん。ところで、キャリメラさん、いつもこんな数のクエストを受けてるんですか?」
「そうですよ、低ランクとはいえ多くのクエストをこなしてきてDランクになったんです」
「そうなの、私凄いの。ふふん」
そう言って、キャリメラは可愛らしいドヤ顔をした。
「はい、受注しました。頑張ってきてください」
「はい。ありがとう、マリネアお姉ちゃん」
キャリメラの笑顔で、マリネアはニコニコと満面の笑みを作っていた。
そして、俺たちはギルドの外に出て、今後の動きを確認した。
「さて、これからどう動くの?」
「まずは他の仲間に協力を手伝ってもらうわ」
「どうやって?」
「それを今日見せるから。ルナ、お願い」
キャリメラが呼ぶと、ルナがスタッと静かに降りてきた。そして、キャリメラの前で身を屈めた。
「さあ、行きましょう。乗って」
「えっ、乗っていいの?」
「大丈夫、ルナはいい子だから。いいよね、ルナ」
「ガゥゥ」
ルナは顔を縦に振った。
(乗っていいんだな。)
「それじゃあ、お願いします。ルナ」
ルナはまた顔を縦に振ってくれた。
俺はルナの背に乗った。ルナの体温が暖かく、毛並みもサラサラでほっこりした。
そんな俺にキャリメラが声をかけた。
「気持ちいいでしょう、ルナの背中」
「ええ、そうですね。毛を引っ張らないように体にしがみついてるね」
「そうしてくれると嬉しい。ルナは引っ張られるのは嫌いだから、気を付けてほしかったから」
「分かった」
「それじゃあ、お願い、ルナ」
「ワォォォン」
高らかな遠吠えと共にルナが駆け出した。ルナは人にぶつからないように慎重に、目的の東の森まで走っていってくれた。
────
俺たちは東の森に着いた。
本来なら、一般の人が三十分かかる道をルナは十分から十五分ほどで走ってくれた。
「ありがとう、ルナ」
キャリメラがルナの顔と自身の顔をこすり合わせて労った。俺が見た限り、ルナも嬉しそうに見えた。
そして、こすり合いが終わり、キャリメラが腰に携えた笛を持つ。
「それじゃあ見せるよ」
キャリメラが笛を構えて息を吸い────吹いた。
その笛からは、安らぎを与えんばかりの落ち着いた音色が出てくる。そして、その旋律に思わず目を瞑り、聴き惚れていた。
俺がその曲を聴いていると、森の中から一頭の鹿が出てきた。その鹿の耳に飾りが付いていた。
「ミル、来てくれてありがとう」
キャリメラが近づいて、その鹿を撫でた。もしかしてとは思ったが、確認してみた。
「キャリメラ、その子は?」
「ああ、この子は私の獣のひとりの『森鹿』のミルよ。ミル、この人はショウヤって言っていい人よ。挨拶して」
キャリメラがそんな風にミルを近づけさせようとしてきた。ミルは少し警戒しながら、俺に寄ってきた。俺は静かに手を差し出すと匂いを嗅ぎ出して、俺の手に撫でられにきた。
どうやら、俺には警戒を少し解いてくれたそうだ。
「じゃあ、挨拶は済んだみたいだし、ミル、お願いがあるの。こっちに来て」
キャリメラに呼ばれたミルは俺から離れて彼女の元に戻った。キャリメラは鞄の中から瓶と籠を取り出した。
「ミル。これとこの薬草をこの籠に入れて採ってきて欲しいの。お願いしていい?」
「キュー」
「ありがとう」
そして、キャリメラが立ち上がり、左の髪を上げた。
「ムーハ、あなたもお願い」
「キュッキュッ」
肩には小さなリスがいた。その色はキャリメラの髪と同じ桜色──いや、少しずつ茶色になってきた。
俺が驚いていると、キャリメラが紹介した。
「あっ、ごめんね。紹介が遅れちゃった。この子は『カクレリス』のムーハ。体毛の色を周りと同化することができるの。ちょっと臆病でね、懐きにくいと思うけど仲良くしてね」
「分かったよ。無理せずに、来たら来たで仲良くするよ」
「ありがとう、じゃあ二人ともお願いね」
「キュー」
「キュッキュッ」
そう言って、二匹の獣が森へと走っていった。
「キャリメラ、今のは?」
「今のは、さっき瓶の中にあった薬草の匂いを嗅がせて、取りにこさせたの」
「そんなことが出来るの?」
「昔は上手くいかなかったけど、今は意思疎通がちゃんと出来るから大丈夫だよ。あとは運搬と獣討伐だね。頑張っていこう」
笛の力で使役していると思った。でも違った。あれはあくまで位置を知らせて集めるための合図だった。本当の指示は本人の言葉や想いによる意思疎通だった。
これが獣導師の才能。
────
次に向かったのは、市場の方で依頼主はフレンメのおばちゃんだった。
「あら、おはようショウヤくん、キャリメラちゃん」
「「おはようございます」」
キャリメラは市場でも認知されてるようだった。
「依頼の確認なんですが、肉や魚を運ぶということでいいでしょうか?」
「そうね、お願いするわ」
そして、おばちゃんは大きな木箱を二つ持ってきた。キャリメラは鞄から縄を取り出して、これでもかっていうほど締め付けた。
「これをお願いするね」
「はいっ」
「こんなにも、次は誰が運ぶんだ?」
「今から呼ぶよ」
俺が聞いてみると、キャリメラが笑顔で答える。そして、笛を構え────吹いた。
森の時とは、また違った別の旋律で吹いていた。その旋律に市場の人間は離れながら、その旋律を聞いていた。
しばらくすると──
バサッ。⋯バサッ。と羽ばたく音が上空から聞こえ、俺は上を見る。そこには、今目の前にいるルナよりも大きな翼を持った鷲がいた。
「うおおおお」
「びっくりしたでしょう? いい反応見れて嬉しい」
キャリメラは笛を止め、鷲は翼を閉じ、開けた場所に降り立った。体長は百五十センチぐらいのサイズだった。キャリメラはその鷲に近づく。
「よく来たね、ノクス」
「ピューイ」
「紹介するね。この子は『頭領鷲』のノクス」
キャリメラはノクスを紹介しながら頭を撫でた。ノクスはキャリメラの体にすり寄っていく。相当懐いているようだった。
「とにかく、凄い大きさでビックリしたよ。ルナより大きかったね」
「当たり前よ。頭領鷲は翼開長で四メートルはあるんだから」
「デカっ」
「そうよね。それと仲良くしてるキャリメラちゃんはもっと大きいわね」
「そうですね」
俺がおばちゃんと感慨に浸っていると、キャリメラが現実へと戻した。
「じゃあ、改めて運ぶわね。ノクス、お願い。今回は赤い旗を振った人に送ってね」
「ピューイ」
ノクスは木箱二つを持ち上げて空へと飛び立った。
俺はあることを呟く。
「なるほど、だからあんだけ縛り付けたんだな。ところで、外すのはどうするの、受け取り人に頑張ってもらうの?」
「いいえ、ノクスがちゃんと切ってくれます」
「そうなんだ。ところで、赤い旗とは?」
「あれはフレンメおばちゃんが預けた旗を持たせて、荷物を持った人が空を見て、ノクスが来たら振ってもらうの。ノクスは目がいいから、すぐに見つける」
「その子も優秀すぎる」
「そうでしょう、私の自慢の子ですから」
キャリメラは胸を張ってドヤっていた。そんな俺たちにおばちゃんが声をかけた。
「ありがとう。依頼達成だよ」
「では、たしかに」
達成証明書を貰い受け、市場から去った。
────
それから昼は過ぎ、食事をして次の確認をした。
「次は討伐依頼が三つなんだね」
「そう、それをこなして今日は終了にしようかなって」
キャリメラは抜けているところがあると思ったけど、しっかりしていた。そういえば、また気になることを思い出す。
「了解。そういえば、ルナの背中に乗っていた猫型の獣は今披露してないけど、討伐で活躍する系なのかな?」
「そうだよ。さっきまでは護衛をしてくれたんだけど、まあ自由すぎるんだよね。大丈夫、ちゃんと強いからあの子も」
キャリメラは凄い自慢げに言う。獣たちとの絶対的な信頼を抱いているからなのだろう。
「では、ぜひ楽しみにしているよ」
俺はただ楽しみだった。




