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23.獣導師と雑用クエスト

 俺がキャリメラさんと握手していると、彼女が少し驚いた表情になった。


「えっ、もしかしてお兄さんがショウヤなの? 六剣聖の稽古を全てしたっていう剣士さん?」


「そうだね、それに該当するのは俺かな?」


 そんな風に言うと、キャリメラさんはまた笑顔になって詰め寄る。


「えっ、そうなの。すごいすごい。会えて嬉しい、アハハハッ」


 キャリメラさんはそんな無邪気な笑顔で喜んでいた。


 すると、マリネアさんはキャリメラに声をかける。


「キャリメラちゃん、嬉しいの分かるわ。でも、護衛の仕事の報告しに来たんじゃないのかな」


「あっ、そうだった。はい、依頼達成の証明です」


「たしかに」


 そう言って、キャリメラさんはマリネアさんに書類を渡した。


 マリネアさんは受付に戻って小袋を持ってきた。


「はい、報酬よ」


「ありがとう、お姉ちゃん。あと、これ受けるね」


「あら、分かったわ」


「それとマリネアお姉ちゃん、ショウヤお兄さん」


 キャリメラさんが依頼を申請すると、彼女はマリネアさんと俺に声をかける。


「あとで一緒に食事しない? 夕方頃に?」


 俺はちょっと驚いたが、笑顔で答えた。


「ええ、ぜひ受けましょう」


「私も一緒に食べにいきたい」


「やった。じゃあ、またあとで」


 マリネアさんも嬉しそうに了承した。


 キャリメラさんはすぐにクエストを受けにギルドへ出ていった。


「元気ないい子ですね」


「そうよ、今はDランクだけどCランク目前なの」


「そもそもCランクって、どれくらいでなれるものなんですか?」


「入る時期によりますが、平均的には、Eランクになるまでに十六歳くらいまでの下積みが必要ですね。Dランクなら十八歳前後。そこからさらに二年ほど依頼をこなして、ようやくCランクになる人が多いです」


「なるほど、そうなるとかなり早いペースでランクアップしてますね」


「あなたが言いますか?」


「たしかに」


 でもそうなると、紫翠が十三歳でCランクなのはもっと凄い。剣の才能が逸脱している。


 そんな会話をしていると、ギルドにいた剣士たちがぼやき出す。


「けっ、点数稼ぎしやがって」


「大した仕事を受けてねぇのに、Cランク目前なんて。何が獣導師だ」


「ぶりっ子め」


 良くないと思う者もいるようだな。耳が腐りそうで聞くに堪えん。


 俺はその者たちを視界から外して、クエストの依頼を目にする。


 見たところ、獣討伐は減っているようで、主に雑用の類だった。そのいくつかが俺の目に入った。


「これって、フレンメのおばちゃんの依頼だな。他には⋯」


 そこから近くの市場の依頼を見繕い、依頼を受けることにした。


「マリネアさん。こちらの依頼お願いします」


「はい、確認します。複数受けるんですね。頑張ってください」


「はい」


 そんなふうに依頼の受付を済ませようとすると、剣士たちが必死に止めに入った。


「おいおい、ショウヤがそんな依頼を受けるのか?」


「勿体ないだろ!」


「何考えてるんだ。Cランクの剣士がそこらの雑用をするなんて」


「その力を溝に捨てる行為だぞ」


「そういったものは獣導師に任せればいいだろう」


「それなら、俺たちと組んで獣の討伐に⋯」


 そんな風に俺を止めに入る剣士たち。俺は鼻で笑って言い返す。


「ふっ。誰かがやらなきゃいけないんだ。それにあなたたちは考えたことはあるか?」


 俺の言葉に剣士たちは沈黙した。だが、俺は言葉を止めない。


「食事を振る舞ってくれる料理人。宿に住まわしてくれる人。そういった人がいるから俺たち剣士は休息を取ったりしてるんだ」


 その言葉に剣士たちはハッとした顔をする。


「たしかに俺は強くはありたい。でも、支えてくれる人がいるのはまた事実だ。そんな人たちが、手伝ってほしいから依頼として出されているんだ。だったら俺は協力するだけだよ」


 俺は笑って、ギルドから出てクエストに赴く。


 それからギルドの剣士たちはたまに、雑用をこなすことが増えたそうだ。


────


 それから俺は市場に向かった。


 そして、一つの店の前に立った。


「フレンメのおばちゃん、おはようございます」


「あらショウヤくん、おはよう。今日も観光かい?」


「いえ、違うよ。今日は──」


 そう言って、俺は依頼書を出す。


「今日は依頼を受けにきました。午前中だけですが、お願いします」


「あら、ありがとう。じゃあ、早速お願いするわ」


 そう言われた俺は、おばちゃんの手伝いをした。


 手伝いは普通は店番を任されるが、俺は客が買った果物や魚の下ごしらえを任せられる。


 それでどういう訳か、俺がいるのをお客さんが知ると、凄い勢いで買ってくる。


 仕事が一段落つき、おばちゃんに聞いてみた。


「おばちゃん、一応確認するんだけど⋯。なんで俺が下ごしらえを任せられると、お客さんが増えてる気がするんだけど、なんで?」


「なんでって、そりゃ⋯ショウヤくんの下ごしらえされたもの、綺麗だからに決まってるからじゃない」


 そんな気はしていたが、狙ってやっていたんだ、このおばちゃんは⋯。


 俺は前世でも一般レベルで捌けていた。だが、剣の稽古をするたびに、包丁で上手く切るコツを掴めた。だから、以前より素早く綺麗に捌けている気はしていた。


 それをおばちゃんは理解して、下ごしらえ担当に立たせていた。全く食えない人だ。


 そんな風に思っていると、おばちゃんが笑顔で話題を変える。


「そういえば最近、あんたみたいな剣士が手伝ってくれるようになってねぇ」


「俺みたいな?」


「ほら、眼の師匠さんのところで修行してた子たちだよ。最近、雑用の依頼を受けてくれる剣士が増えたんだ」


「⋯そういえば、そんな話をギルドでも聞いたような?」


 俺が眼の師匠の稽古を終えてから、そんなことが起きていたのか。


 そうか⋯眼の師匠が言っていた「恩」とは、このことだったのか。


「ああ。あんたが何か言ったんだろ? 『誰かがやらなきゃいけない』って」


 あの時の会話を聞いていた人が言ったのか。


 だが、聞いたからといって人は変わるのに抵抗する部分はある。でも────


「そうですか……」


 俺は微笑んだ。俺の言葉を聞いて変わってくれた者がいたという事実に、俺は嬉しくなったからだ。


 それからはおばちゃんの仕事を終え、他の雑用をこなしていった。そこでも、俺のおかげでやってくれる門下生の剣士たちが増えたことに感謝してくれた。


────


 それから、夕方になってギルドに向かったが、ギルドの前にはマリネアさんとキャリメラさんがいた。


「ショウヤさん、こっちです」


「ショウヤお兄さんが最後みたいだね」


「そのようだな。待たせてしまって申し訳ない」


「いいのよ、私たちもさっき来たとこですから」


「では、依頼達成を伝えて行きましょうか。少々お待ちください」


 それから依頼達成の報告を済ませて、三人で以前行ったレストランに行く。


 そして、注文した料理が置かれ、食事しながら話をした。


「そういえば、ショウヤさん。本日はありがとうございます」


「? 何がだ。俺、今日も騒がしくしてしまったと思うが?」


「フフッ。クエストのことです」


「クエスト? 雑用とかがメインになっていたクエストのこと?」


「そうです」


 マリネアさんはあの後のことを話してくれた。


「ショウヤさんが出たあと、その類のクエストを受けていく人が来て、溜まっていた仕事が減っていったんです」


 そうか、受付はそれらの仕事をやりきる必要がある。それが溜まってしまうと、苦情が殺到して大変なんだろう。


「役に立ったなら良かったです」


 俺が微笑んでいると、キャリメラさんがキラキラした目で俺を見た。


「ショウヤお兄さん、本当に凄い人なんだね」


「ありがとうございます。キャリメラさん。でも、キャリメラさんもDランクでCランク目前なのも凄いですよ」


 俺は感謝すると、キャリメラさんが顔を横に倒した。


「ショウヤお兄さん、なんで敬語なの?」


「えっ、だってキャリメラさんの方が獣導師としてギルドで活躍しているかと思って⋯」


「? 私、ちょうど去年に入ったばかりだよ。ちなみに年は十五歳だよ」


「そうだったんですね」


 てか、一年の間にCランク目前のDランクって、紫翠が逸材かと思ったけど、この子も同じくらいの天才なのか。


「だから、敬語は無しでいいよ。呼び捨てでもいいよ」


「そうかい? じゃあ、敬語はちょっと崩しにくいっていうか、落ち着くからしばらくこのままでいくけど、呼び方はそうさせてもらうよ。俺もショウヤでいいよ、キャリメラ」


「分かったよ、ショウヤ」


 キャリメラは笑顔で了承してくれた。


 そして、俺はふと気になったことを聞く。


「ちなみにキャリメラは剣士でもないけど、剣士ギルドに入れるんですか?」


「彼女は特別なんです。獣導師のおかげで獣たちの無理な乱獲を防げているのです」


「そうだったんですね。ちなみに大した仕事しかしてないとギルドの剣士は言ってますが、その数が尋常じゃないって事ですか?」


「そのとおりです。獣と一緒にクエストをこなしていて、迅速かつ多くのクエストをしていてDランクに認められたのです」


「へぇー、キャリメラも本当に凄いんだね」


「そんなことあるけど、直接褒められると照れるね」


 無邪気に笑うキャリメラの姿に俺は思った。


(癒される。)


 マリネアさんの気持ちが分かった気がする。


 そして、さらに気になったことをキャリメラに聞いた。


「ところで改めて確認なんですが、獣導師って一体どんなことをする方なんでしょうか?」


「獣導師は簡単に言うと、獣たちを使役して共に行動するものたちのことなんです。また、希少な個体とかを安全な場所に帰してあげたりしているんです」


「そんな職だったのですね」


 キャリメラがそう説明すると、マリネアさんが前のめりになって話をする。


「はい、しかも獣導師は野生の物を時に使役しますが、手元にいる獣を四匹ほど連れています。ですが、彼女、キャリメラちゃんは十匹の獣を手元に連れているのです」


「えっ、そうなの?」


「そうなんです。まさに獣導師の天才。それがキャリメラちゃんなんです」


「えへへへへ」


 マリネアさんがキャリメラちゃんを称える。キャリメラは照れながらも嬉しそうな笑顔だった。


 とはいえ、おおよそ内容は聞いて理解はしたが⋯。


「一回見てみたいな」


「へっ? 気になるんですか、ショウヤ?」


「おっと、口に出てた? うん、内容は分かったけど、やっぱり見たほうがもっと理解できるかと思って⋯」


 キャリメラは目を輝かせて嬉しそうに言う。


「じゃあ、明日一緒にクエストを受けない? そのほうが分かるかも」


「なるほど」


 これはいい機会だ。獣導師の仕事を見られるし、何よりキャリメラの獣たちを実際に見てみたいという気持ちもある。


「じゃあ、ぜひお願いしようかな?」


「うん、私からもよろしく」


 その光景にマリネアはニヤニヤしていた。


「どうしたの、マリネアさん。ニヤニヤして?」


「いえいえ、もしかしたら早く済むかもって思って」


「何が?」


「本当に鈍いですね」


 何か意味深な言葉を残した。


 俺は何か引っかかった気はしていたが、キャリメラが俺の話を聞いてきた。


「ところで、ショウヤが受けた稽古ってどんな感じだったんですか? 気になります」


「別にいいよ。驚きの連発だろうけど⋯」


 俺は当時のことを包み隠さず話した。


 キャリメラは驚きつつも、自分が経験していないことを聞けて面白そうに聞いてくれていた。


 それから楽しく食事を済ませて、俺はまた宿に泊まって一夜を過ごした。

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