22.知らぬ間に有名人
それから夜が明け、朝早くから俺は素振りや準備運動をしてからギルドに向かった。
ギルドに向かっている際、周りの人たちの視線がやけに俺に注目していた。
そんな風に不思議がっていると、一人の少年が声をかけてきた。
「お兄さんがショウヤなの?」
「そうだけど、なんで俺の名を」
「皆知ってるよ。『六剣聖全員の稽古を完遂した男』って」
「!? マジか?」
「うん」
そんな無邪気な言葉に俺は愕然とした。
「なんで、俺だと? 俺の顔なんて知らないでしょう?」
「マリネアお姉ちゃんと一緒だったから」
そうか。マリネアさんが連れてかれて、一緒にいた同じ歳くらいの剣士と帰ったら、それは認識するものだ。しかも、お姉ちゃん呼びってことは、王都でそれ相応に知れ渡ってるんだな。マリネアさんは凄い。
そんなことを考えていると、周りがジリジリと迫ってきた。
(あっ、これ押しかけてくるやつだ)
その一瞬の判断で無拍子を使って、瞬間、周りの人からは消えたように見えた俺は一気に距離を取って、全力疾走でギルドに向かった。
────
何とかギルドに着いた俺は、扉を開ける前に念のため中を警戒した。
「ショウヤくん、ぜひ俺のパーティーに」
「ショウヤさん、私たちと組んでください」
「俺と勝負しろ」
予想したとおり、熱烈な勧誘やら決闘を申し込んできた者で溢れていた。俺は溜息を吐いて──無拍子を使って受付まで移動した。
「マリネアさん、ギルド長いますか?」
「あっ、ビックリした。はい、おられますよ。ギルド長もお会いしたがっておられたので、執務室まで案内します」
そう言って、案内してくれるマリネアさんに俺はついていった。剣士たちは俺を探していたが、すでに奥のギルド執務室に移動していた。
マリネアさんが奥の部屋の前に止まって、コン、コン、コン、とドアをノックした。
「入れ」
男性の声が響き、マリネアさんがドアを開けて俺も続いて入った。
そこには、無精髭をしつつも整えられた黒髪、綺麗なスーツを着こなす五十を過ぎた男性が事務作業をこなしていた。
「失礼いたします。ショウヤさんを連れて来ました」
「初めまして、ショウヤといいます。昨日はお手数をかけてしまい申し訳ありませんでした」
「お前が⋯」
俺が挨拶すると、ギルド長は筆を止めて俺を吟味するように睨む。そして、椅子から立ち上がり口を開いた。
「まあ、とりあえず座れ」
「はい、失礼します」
それ相応に豪華なソファに俺たち三人は座る。
「さて、初めまして。俺はここの剣士ギルドのギルド長ブラワルだ。今後ともよろしく頼む」
ギルド長は手を差し出してきたので、俺は握り返した。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
互いに握った手を解き、本題に入った。
「昨日は本当にありがとうございました。色々、ご迷惑をかけてしまいました」
「気にするな、と言いたいところだが、あの時は生きた心地がしなかった。出来るだけ、早く言ってくれ」
「はい、すいません」
相当気苦労をかけたようで、とにかく謝罪しかなかった。
「で、結局どうなったんだ、あの後は」
ギルド長は昨日のことは把握していないようなので、真実を語ると肩の荷が下りたようでホッとしていた様子だった。
「そうか、陛下は何とか事を収拾してくれたようだな。安心した」
「はい、ありがとうございます」
ギルド長がフッと笑い、髪をなで上げて話す。
「昨日の件はこんなとこにして、ショウヤくん、今後どう行動するつもりなのかな?」
ギルド長の顔つきがキリッとした。
「君はあの六剣聖の稽古を全てやり遂げたのだ。先ほども勧誘されたことだろう。どのパーティーに組むのか手を貸そうか?」
ギルド長が手厚い支援を打診してきた。俺はそれに対しての答えは、
「すいません。まだ考えてないですし、連携は苦手な部分がありますので、下手にパーティー参加はしないようにと考えています」
「そうか、それは困った」
「また、第二の勧誘の嵐ですね」
ギルド長とマリネアさんがまた頭を抱え込み始めた。俺は励まそうと声をかけた。
「とりあえず、早めに見つけるよう努力します。クエストもしっかりこなしますので」
「ああ、頼む」
「では、これにて失礼します」
「ああ、今後の活躍期待している」
そして、マリネアと俺は執務室をあとにして今後の話をした。
「さて、じゃあクエストを受けてしっかり稼ぐとしますか」
「フフフッ。その前にパーティーを組んで欲しいわね」
「ぐっ、善処します」
早くパーティーを組んでくれという圧が凄い。
「そういえば、前まで稽古場で暮らしていたんだが、最近は宿ぐらしなんだ。何か、案はないか?」
「そうは言ってもね。普通なら空いてる家を探すものだけど、所持金が無いとね」
「そうだよね」
「あっ、あるいはパーティーの家に居候するとか」
「とことん、早く済ませようとするね。まあ、多少家事は出来るから、気に入ってくれればね」
「えっ、ショウヤさん家事出来るの?」
俺の出来ます発言にマリネアさんは慄いていた。
「たしかに常識が欠落してるけど、そこまで驚く」
「まあ、出来るならいいですよ。まあ、のんびりしつつ早く見つけてください。ショウヤさん、一応Cランクなんですから、すぐに見つかるでしょう」
「どっちなんだよ。うん? Cランク、ランクづけあるんだね。俺はCランクなのかい?」
マリネアさんはまた頭を抱えた。
「知らなかったんですか?」
「いや、クエストの受注は基本師匠たちが受けてたから。稽古の一環であって上がるとは思ってなくて」
「はあー、おさらいしましょう。一番下からFランクからで一番上はSランクです。六剣聖やその他の指折りの人たちはSランクです」
「なるほど」
つまり、俺は真ん中あたりになっているのか。
「他の門下生もそんな感じなのかな?」
「いえ、基本門下生はEランクぐらいで高くてもDランクぐらいでしょう。ちなみに、技剣の息子さんは13歳でCランクです」
「抜きん出ますね。ちなみに、なんで俺はCランクなんでしょう?」
「それは、ギガントベアの単独討伐を始め、多くのクエストをこなしていますから。何なら、Bランク手前にいます」
稽古のつもりで頑張ってたらこんな事になっているとは、つくづく俺はどこかズレてるんだな。
「なるほど、王城の評価もですが、その評価もあるなら、剣士ギルドで俺を欲しがらないほうがおかしいわけだ」
「そういう事。だからこそ、早く決めてください」
「⋯はい、そうします」
そう言いながら、受付に行こうとしたが、剣士たちが俺を見つけて獲物を狙うが如く目を輝かせて声をかけにきた────と思ったが、
「マリネアお姉ちゃん」
剣士たちの一声を止めるかのように女の子の大きな声が響く。
呼ばれたマリネアは先までの悩み事を吹き飛ばしたかのように元気になった。
「キャリメラちゃん。来てたんだ、お待たせ」
そう言って、マリネアさんは笑顔で両腕を広げた。すると女の子は、嬉しそうに駆け寄って抱きついてきた。
「おはよう、マリネアお姉ちゃん」
「おはよう、キャリメラちゃん。本当に癒される」
キャリメラと呼ばれた子は、身長は百五十センチを少し超えたくらい。桜色の髪を大きな三つ編みに結い、綺麗なエメラルドグリーンの瞳をした女の子だった。
「マリネアさん、そのキャリメラさんは⋯」
「あ、ごめんね。嬉しくてつい⋯」
ハッとしたマリネアさんの腕から抜けて、背筋を伸ばしてキャリメラさんが挨拶をする。
「はい。初めまして、私は獣導師キャリメラ。よろしくなのお兄さん」
キャリメラさんは満面の笑みで小さな手を出してきたので、俺は握り返す。
「初めまして、俺はショウヤです。こちらこそ、よろしくキャリメラさん」
この出会いもまた、新たな出来事の始まりにすぎなかった。




