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14.技剣の稽古

 そこに立っていたのは、黄色味を帯びた金髪に、百八十センチを超える長身。無駄なく引き締まった肉体を持つ男だった。顔つきだけを見れば優男。

 しかし、その立ち振る舞いから感じるのは、まるで無頼漢のような粗野さだった。


 技剣は自己紹介をする。


「俺は『技剣』雷漢(ライカン)だ」


 技剣は俺に指を指す。


「早速伝えておく。俺の稽古内容だが、お前を含めると八名の門下生と俺でとにかく一対一をする。勝敗がついたら別の奴と交代する。余った奴は他の奴の仕合を見る」


 さらに技剣はニヤつく。


「そして、あとで最低限の体術を教える。これが俺の稽古内容だ。ついて来いよ」


 そう言って、しばらく技剣と俺が待っていると門下生七人が来た。そこから、例の打ち合いをした。


 ちなみに俺は門下生に全勝した。どうやら、剛と疾の師匠の成果が実を結んでいるようだった。


 そして、七人の門下生との打ち合いを終え、俺は余って休憩と打ち合いを見ていた。


 改めて見ると、色んな剣技を皆持っていた。だが、技剣だけは違った。


 剣技だけでなく、素手や蹴りなど肉体を使った攻撃を仕掛けていく。

 剣士である俺たちにとって、異質ともいえる戦い方。


 そして、技剣の打ち合いに勝敗が着いた。


「俺の勝ちだ」


 その言葉に、門下生が反発する。


「こんな戦い方、剣士として卑怯じゃないですか! しばらくあなたとやってきましたが、もう我慢できません。剣と剣で正々堂々と戦って――」


 技剣は鼻で笑った。


「戦場じゃ通用しねぇよ、そんな考え方は」


 技剣は木剣を肩に担ぎ、門下生たちを見る。


「石を投げる。弓を射る。毒を使う。罠を張る。そんなもん、戦場じゃいくらでもある」


 一瞬、場が静まり返る。


「負けたときの言い訳にするんじゃねぇ。戦場で大事なのは、生きて守り抜くことだ。死んで奪われりゃ、それで終わりなんだよ」


 技剣の目が鋭くなる。


「戦場に『正々堂々』なんてものはねぇ。あるとすりゃ、それは勝利の美学の一つに過ぎねぇんだ」


 そして、技剣は翔也を見る。


「美学を求めるのは構わねぇ。だがな――美学に囚われて負けたんじゃ、世話ねぇだろ」


 技剣は木剣を構え直す。


「型は学べ。技も覚えろ。だが――」


 口元に笑みを浮かべる。


「型に囚われるな」


 疾剣とは、違う真反対な思想。だが、その考え方に頭から離れない。その思想でまた一つ何か得られるかもしれない。


 周りの門下生も打ち合いを終えて、俺は技剣の方へ歩み寄る。

 俺は自然と少し口角を上げてしまう。


「次、お願いします、雷漢さん」


 技剣も笑った。


「来い」


 その戦い方は、型破りといっても過言ではない。


 俺は最低限基礎に則った剣を疾く振るうが、尽く躱され鋭い返しさらには体術も交えた超接近もありやりにくかった。


 結果は当然、敗北だった。


 俺は昔やった最上段で振り下ろし、すぐに翻した一撃を使った。それを技剣は上半身を後屈させて、見事に躱した。そして、俺の隙だらけの腹に蹴りをかまされた。


 勝敗が決して、技剣に声をかけた。


「今のはいい一撃だった。とはいえ、ちょっと型にはまってんな。それをいつもやってる歩く・走るみたいに自然に出来るようになりな」


 そんな技剣の助言を素直に受けて返事する。


「はいっ」


 そして、受け身などの体術を学びつつまた打ち合いをする。それをひたすら毎日繰り返した。


 そして、クエストを受けに行く日だった。技剣のクエストは中型の獣の群れを退治する依頼だった。一日に二回、三人ずつのパーティーに分かれて行うものだった。


 俺や門下生は難なくこなしていく。みんなは依頼を終えてホッとしていたが、俺は疑問を抱く。


 これまで、剛と疾の師匠たちのクエストを受けていたが、それぞれにコンセプトがあった。


 剛の師匠の大型の魔物は体力向上や胆力を鍛えるもの、疾の師匠は規律に則った基礎や継続力を鍛えるものと考えられた。つまり、技剣にも考えがあるはずだ。


 俺は稽古やクエストをこなしながらも技剣が持つ剣の教えを考える。

 さらに、毎日俺が見た限りの技剣の技を真似て習得しようとした。


 その光景を技剣が見ていたらしく、技剣が声をかけた。


「ショウヤ、一緒に飯に行こうぜ」


 俺は驚きながらも、元気よく返事をした。


「はいっ」


 俺たちは食堂に行った。そして、俺たちが席に着くと、


「ショウヤくんと食事? 珍しいわね」


 瑠璃音さんが不思議そうに思いながら明るく声をかけてきた。


「なに、こいつが俺の技を全部真似ようとしていたからな。それでちょっと教えてやろうかと」


「ふふっ」


 技剣が楽しそうに話していると、瑠璃音さんは笑った。


「どうした?」


「いえ、ただあなたが嬉しそうにしていてちょっと嬉しくて、よっぽどショウヤくんを気に入ったのね」


 技剣は少しニヤつき笑った。


「まあな、これからが楽しみとは思ってるぜ」


「では、お食事持ってきますね」


「おう、頼むルリネ」


 そうして、食膳を持ってきてくれ食事しながら話した。


「ショウヤ、お前のその技を取り入れる姿勢は素晴らしいもんだ」


 俺が感謝しようとするが、話は止まらない。


「だが、全部真似る必要はない。あくまで参考にしな。その技を使い分けてこそ、俺の稽古の意味が出てくるんだ」


 その助言に、俺はこれまで引っかかっていた何かが、ようやく見えた気がした。これまでの稽古、そしてクエストの意図が。


「ありがとうございます。雷漢さんの意見で何か掴んだ気がします」


 技剣が笑う。


「はっ。ならいい、うんじゃ、さっさっと食うか。折角のルリネの飯が冷めちまう」


「はいっ」


 技剣も剛剣と同様に愛妻家だった。

 俺たちは食事を済まし、その日からの稽古を技剣の助言を思い出しながら日々励んだ。


────


 そして、技剣の稽古を始めて二ヶ月が経った。ついこの間、三人が稽古期間を終えてまた新しく四人来て俺を含め九人の門下生になった。


 門下生が辞めなかったのは、珍しく思うが技剣は残念そうな顔──ではなく呆れているようだった。


 それからも、稽古の打ち合いをするが俺の体に小さな変化があった。以前は基礎に偏った剣を振っており、咄嗟の反応に体勢を崩したり、ぎこちなくなっていたが今は体勢を崩しにくくなりスムーズに違う剣技を振れるようになった。


 またクエストの狙いも何となく掴んだ。

 おそらく『対応力』だと思う。幅広い剣の型を知り、味方の足りない剣や相手に合った剣を判断して一緒にクエストを行う。


 力強さ重視の剣士には補うために速い剣を振るや、邪魔が入らないように防御に徹した剣で対応するといった行動をするためのクエストと思い、俺はそれを意識しながらクエストをこなしていった。


 ある時、中型の獣の群れの討伐クエストの依頼を受けた。


 相手は『エイカクシカ』。草食だが、近くの農作物を食い荒らすことがあって害獣の一種になっている。しかも、厄介なことに討伐しようものなら、逆上して襲いかかることがある。エイカクシカの角は鋭い刃のような二又のかたちをした二本の角で刺されて亡くなった人も多くいる。


 群れで行動しているため、掃討するのは骨が折れる。


 それを討伐するメンバーは、力自慢の男剣士パフルと臆病だけど基礎をちゃんとこなしている女剣士ナリー、そして俺の三人が受け持った。


 森を捜索していると、ナリーが群れを見つけ、小さな声で話す。


「エイカクシカの群れです。ざっと十五頭います」


「結構いるね」


 俺がそう言うと、パフルはやる気満々で肩を回しながら言った。


「よし、じゃあやりますか」


「待つんだ」


「ああ、なんでだよ」


 俺は突っ込もうとするパフルを制した。俺はパフルを見ずに鹿たちを見て言う。


「エイカクシカは足が速い。まずは機動力を落としてから、全部倒した方が良いからね」


「だから、俺が気づかれずに行くって言ってんだろう」


 説明してやったが、納得いっていないパフルが文句を言う。


「そうはいかない。相手は鹿だ。視野が広くて、気づかれずに近づくのはほとんど難しい。だからあえて、俺が逆上させてこっちに意識を向かせる。躱した先で、君たちが斬るんだ。大丈夫、俺が足一本傷つけさせていくから」


 パフルは納得していないようだったが、ナリーが小さな声で言う。


「それで賛成したいのですが、出来るんですか」


「ああ、昔見たことはあるから。あの速さなら何とか対処できる」


 その言葉にナリーは頷いた。


「納得していないだろうが、そこで待っててよ。鹿が来たら俺に続いてくれ。いいな」


 パフルはため息をつきながら頷いた。


「じゃあ──行くぞ」


 俺は猛スピードで駆け出した。それに気づいた鹿たちが俺めがけて突っ込んできた。


 そして、指示どおり二人は俺のあとをついてきた。


 先頭の鹿四頭が角を向けるが、俺は意に返さずただ走った。そして、間合いの外ギリギリで四頭の足元の隙間を滑り込みながら鹿の足を斬り込んでいく。


 足を斬られた鹿は痛みに怯み、その隙を二人が着実に倒していった。


 残りの後方にいた鹿が木々の間を駆け出しながら俺たちを翻弄する。


 俺は剣を通常の持ち方よりも剣を引きやすい逆手持ちにして木々の間を駆け回った。突っ込んできた鹿の攻撃を躱し、足や首元を斬っていってあとはいつもの流れだった。


 俺が六頭目を倒し残り一頭と思い周囲を確認していると────パフルの後ろに最後の一頭が角を向け突進していた。


 距離的に走って間に合わず、俺は────持っていた剣を、


「当ーたーれーー」


 狙いを定めぶん投げた。


 木々の隙間を抜け投げた剣は鹿の胴体に当たる。


「キューン」


 鹿は突進を止め、その場でよたよたした。


 そして、鹿のうめき声にパフルは振り向いて首元を斬った。


 掃討完了してホッとしている俺にパフルが詰め寄ってきた。


「お前、最後の一頭とはいえ剣をぶん投げるなんて、ダセェな。ブハハハハ」


 と嘲笑した。


 俺は呆れて言葉に出さず、鹿の解体をした。ナリーもその時は何か言いたそうだった。


 その光景を技剣が静かに見ていたのは俺は知らなかった。


 そんなこともあったが、またあるときは賊が身ぐるみ奪おうと襲いかかってきた。賊は一端の剣士としてはいい腕をしており、石や暗器を投げてきたが、俺はその全てを打ち落として賊を制圧した。そして、つい調子に乗って言ってしまった。


「残念でしたね。二ヶ月前の俺ならあんたを倒せなかった」


 賊は身柄を引き渡し、俺はその日の夜──一人で悶絶していた。一つの黒歴史となった。


────


 それから一ヶ月が過ぎ、技剣の稽古期間最後の日を迎えた。


「おい、ショウヤ。最初は俺からだ。全力でかかってこい」


 稽古開始早々、技剣が打ち合いを申し込んできた。


 俺は断る理由もなく、


「お願いします」


 申し出を受けた。


 稽古場の中央に立った俺たちは構えを取り、審判の号令を待つ。


「それでは────はじめ」


 号令を言い切ったと同時に技剣が詰め寄り、剣を大きく振るった。


 それを俺は躱すが、すぐに左手の突きが繰り出された。俺はそれも躱した。だが、技剣の猛攻は止まらず俺は防御に徹することしか出来なかった。


 だが、それでも凌げているのは剛の師匠の体力づくりと疾の師匠の動きを見たことによる疾さの慣れだった。さらに、技剣の稽古で咄嗟の対応に馴染んだのもある。


 見ては対応することしか出来ず、押されていた俺は一つ技を繰り出すことにした。


 俺は一旦大きく距離を取って再び技剣に向かって突っ込んだ。そして、間合いギリギリで振ろうとした俺の動きを見て技剣は半歩下がり、空振るように仕向けた。


 俺の右手は振り抜かれたのを見るや否や踏み込んで木剣を振った。


 カンッ。


 木剣同士がぶつかる音がした。


「なっ」


 技剣が驚き、言葉が漏れた。


 実は右手に持っていた木剣を右手から離してただ右手を振っただけ。そして、左から攻撃が来ると思い逆手持ちして木剣を盾にして防いだのだ。


 超接近になった瞬間、俺は技剣の肩に向かって貫手を放つ。


 フウッ──。


 技剣は身を反らして貫手を躱し、反らした勢いを使って回し蹴りをする。


 俺は腕を使って咄嗟に防御を取り回し蹴りを防いだ。


 俺は回し蹴りの威力で大きく後退する。


「ふぅー」


 俺は深く息を吐き、技剣はニヤつき、笑った。


「フハハハハハハ。合格だ。俺はお前を一人前に認めてやる。この俺がな」


 その言葉に俺は嬉しく思っていると、門下生たちが疑問の声を上げる。


「私たちは一人前ではないのですか」


「何が足りないと言うのですか」


「うるせぇ」


 技剣の一言に一蹴される。


「てめぇら、この期間何を学んだ。何に気づいた。その考えは持ったか?」


 門下生たちは黙り込む。


「他人に正解不正解を求めるな。他人の回答を聞いて学ぼうなんて甘ったれるな。自分で気づいてこそ、強くなれんだよ」


 技剣は俺を見た。


「こいつにはその姿勢があった。だから、助言はした。そして、気付き学んだ。だから、認めた。文句あるか」


 門下生たちは何も言えなかった。


 さらに、技剣が怒りを顕にして一人の剣士に指を差す。


「あと、お前、えーと、そうパフル」


 パフルは驚き、顔を上げる。


 そのパフルに技剣は叱り出す。


「お前、この前のエイカクシカの討伐の際、ショウヤのこと笑ったよな」


 技剣の眉間にシワができるほどの目つきでパフルを睨む。


「なんだっけ。そう、『お前、最後の一頭とはいえ剣をぶん投げるなんて、ダセェな。ブハハハハ。』だったか。お前、あの時ショウヤが剣を投擲しなかったら、お前はエイカクシカの角で串刺しだったんだぞ」


 パフルが尻込みしていたが、技剣がトドメを刺す。


「何も知らねえで、ショウヤのこと笑って、自分の強さに慢心してんじゃねえぞ、ゴォラ」


 その言葉にパフルは膝を崩し、他の門下生は震えていた。


 技剣がため息を吐き言う。


「はあー。じゃあ一つ助言だ。これはショウヤにも言ったことだから、お前たちにも言う。俺の動きを全部真似る必要はない。あくまで参考にしな。その技を使い分けてこそ、俺の稽古だ」


 その言葉を最後に稽古を終わった。そして、パフルは技剣の稽古を辞めたそうだ。


────


 次の日、


「雷漢さん──いえ、技の師匠、三ヶ月お世話になりました」


「はっ。技の師匠かいいね。そう呼ばれると嬉しいもんだ」


 技剣は嬉しそうに語る。


「こっちも楽しかったぜ。次もあるんだったな。頑張れよ」


「はいっ」


 俺は最後の挨拶を済まし、次の稽古場に向かう。


 稽古場に着き、扉の上に『心』が刻まれた木札を見て、入った。


 そこには緋色の髪をした百七十後半の男性が髪を束ねて立っていた。


「失礼します。本日より稽古を受けます。ショウヤと申します。よろしくお願いします」


「ああ、こちらこそよろしく頼む」


 技剣の稽古を終え、三人の師の教えを胸に刻んだ俺は、次なる試練――心剣のもとへ足を踏み入れた。

次回は2026/8/16です。

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