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12.剛剣の稽古

ここからはしばらく長文になります。こちらが整理するのも大変でしてご勝手ながらしばらく2日おきに投稿させていただきます。また、読みにくい点があると思いますが、ゆっくり最後まで見ていただけると幸いです。


ご理解よろしくお願いします。


申し訳ございません。最初の物は読みにくい物を出してしまいました。改行などいたしましたので、改めてゆっくり読んでいただけたら嬉しいです。

 そして、それから剛剣の稽古が始まった。


「剣士たるもの、まずは体を作れ。技はその後だ」


 剛剣の稽古は単純明快だった。


 だが、その内容は"体力づくり"などという生易しいものではない。"肉体改造"と呼ぶべき地獄だった。


 何十キロとある丸太を引きずったり、岩運びを何往復も繰り返し、基礎の筋トレも多くする。


 やりきった頃には、ヘトヘトだった。


 東風さんが言ったとおり、手加減をしていたようだ。


 そして、クエストだが剣聖によって変わるらしく、剛剣は『大物の獣』を狩るクエストを請け負う。


 大物の獣を十人の門下生で力を合わせて倒す。最低限の連携をしつつ大物の獣を倒すのは中々大変なことだった。


 俺たち十人が一体を倒すのに苦戦している間、剛剣は別の大物の獣を二体、時には三体と仕留めて戻ってくる。


 一週間経った頃には、三人ほどの門下生が稽古に耐えられず、辞めていった。


 一方の俺は、ひたすら食らいついた。たとえ筋肉や骨が軋もうが、折れていなければいいと、ひたすら稽古を受けた。


 無理をして、瑠璃音さんに手当てされて叱られたこともあった。


「あまり無茶しちゃ駄目よ。体壊したら、元も子もないのだから」


「ええ、気を付けます。ですが、剛剣の稽古で少しでも強くなってみせます。手当てされないくらいには自分は守りますよ」


「どうかしらね」


 そんな他愛もない会話もしたが、あのあとも、俺は二度瑠璃音さんの世話になることになる。


────


 そして剛剣の稽古から二ヶ月が経った。


 俺の体に稽古してきた片鱗が現れる。以前よりさらに体が引き締まってきた。


 また、丸太を肩に担いでも、以前ほど足が沈まない。二か月前なら息を切らしていた距離を、今は最後まで走り切れた。確実に稽古の成果が見て取れる。


 そして、大物の獣を狩りにクエストへ出向いた。


 その獣のクエストは、二足歩行を行う三メートル超えの熊、『ギガントベア』だ。


 スピードはないが、パワーが全獣の中でトップクラスに高い。


 それを狩りに行く。門下生は増減を繰り返し、今では俺を含めて六人と剛剣が受けることになった。


 森を捜索し、ギガントベア三匹を確認した。


 剛剣が指示を出す。


「俺が二匹をやる。お前たちは左端の一匹をやれ」


 俺たち門下生はただ無言で頷く。


「それじゃあ──、行くぞ」


 剛剣が駆け出し、右端と真ん中の位置にいた獣の中央で斬り込む。


 左端の獣も剛剣に向かおうと身を屈めるが、俺たちが雄叫びをあげて猛突進する。獣は瞬間、臆したようだ。その隙を逃さんと、俺たち門下生で攻撃を仕掛ける。


 俺ともう一人は投げ出さずに稽古を受けてきており、数が少なくてもなんとか倒せた。


 門下生の一人が安堵の声でいう。


「討伐完了だな」


 俺が安堵した、その時だった。別の門下生の後ろを見ると、新たなギガントベアが襲いかかろうと身を屈めた。


(まずい──。)


 その門下生に向かって俺は全力で駆け出す。


「逃げろ──」


「えっ?」


 すると、門下生は驚いたように身体を震わせた。その瞬間、茂みの中からギガントベアが立ち上がる。


「ぐぁぁぁ──」


 その雄叫びに門下生たちは驚き、身を固めてしまった。


 獣は腕を上げ、大きく振り下ろした。門下生に鋭い爪が襲いかかってくる。


 俺はその刹那のうちに、門下生に前蹴りをかまして吹き飛ばし、着地した俺は剣を前にして防御を取る──。


 獣の攻撃は剣で受け止められたが、重い一撃で俺は後方にふっ飛んで木に激突し、木は揺れた。鈍い音が森の中に響き渡る。俺の顔は下に向く。


 その光景に門下生は恐怖一色で動けなかった。


 剛剣は意識がこっちに割いた分、二匹目に時間をかけてしまっている。


 ギガントベアが一歩、俺のほうに歩んでいく。


 その地面が揺れた一歩に──、俺の指が動く。


「グッ──」


 そして、剣を突き立てて俺は震えながらも立ち上がる。


「はあ、はあ、うっ⋯はあー」


「うぅぅぅぅ⋯」


 俺は息が荒れつつも、剣を構えた。獣は俺をじっと睨みながら唸る。静寂が森に訪れる。


 そして、巨熊が動く。


 再び、腕を大きく上げて振り下ろす。俺は懐に入り、最上段で振り下ろす。


ザシュッ──。


 俺の斬撃がギガントベアの腕を斬った。


 とはいえ、三メートルの巨体じゃ大した一撃にはならない。俺が獣のほうを向くと、獣の腕が大きく振り回された。


 俺は咄嗟に後ろに下がったが、剣に掠り剣が揺れた。そして、その揺れが腕や骨に響く。


「ふぅー」


 俺は息を大きく吐く。その光景に門下生は驚く。


「なんてやつだ」


「振り下ろされた腕に入り込むなんて、正気じゃない」


(それはそうだ。だが近づけば、振り下ろしの威力は落ちる。それに大振りだから隙だらけでもある。)


 とはいえ、誤ればもろに食らってしまう。相当な胆力が必要で、さっきのでだいぶ疲れた。


 だが、倒すまで倒れるわけにはいかない。さらに軽く力を込めて柄を握ると痛みが走る。


(痛いな。これ以上もろに受けると体が保たない。)


 体の接触を避け、相手を斬る。俺は身構え、巨熊は──突進した。俺はギリギリまでその場から動かずにその時を待つ。


「ヤバイ」


「バカ、避けろ」


 門下生の声を無視して、さらに待つ。そして──、間合いのギリギリの外に来た。


 俺はそこから横に飛び、上段でギガントベアの横腹を斬る。


ズバッ──。


 先刻の斬撃より深く入った。


 獣は怯み、それを逃さず俺は駆け出す。残った力を、全身全霊の渾身の一撃を雄叫びを上げながら──


「うぉぉぉぉぉぉ──」


 剣を振る。


ザシュッ──。


「ガァァ⋯」


 ずーーん。


 ギガントベアの首元に一撃を与え、唸りギガントベアの巨体が地面に強く叩き付けられた。辺りの木々が少し揺れ、俺も倒れた。


「はぁー、討伐完了かな?」


 またしても、沈黙。だが、ついに我慢できなくなったのか、


「⋯うぉ、お、⋯」


「「「「「うおおおおおおお」」」」」


 森の中で門下生が咆哮する。


「やかましいぞ。お前ら」


 剛剣の叱責の言葉が飛び、門下生が黙る。


 剛剣は二匹目も倒せたらしく、倒れた俺に歩み寄りしゃがみ込んで声をかける。


「たくっ、無茶しやがって⋯」


「面目次第もございません」


「そうだぞ。死んだら守れるものも守れねぇからな。無茶はほどほどにな」


 剛剣は叱りながらもどこかホッとしていたようだ。


「はい。分かりました」


 俺は申し訳なく思いながら、返事をする。


 そして、剛剣が立ち上がる。


「さてと⋯」


 そして門下生の方を向く。剛剣の纏う空気は、怒りを通り越して憤怒そのものだった。


「貴様ら、大物の獣一匹に何を怖気づく」


 その一言に門下生は背筋を伸ばす。


「多少、体力がついたからといって過信していたようだな。奇襲は仕方がないことだ。戦場ではそういったことが多々ある」


 最後の言葉にホッとしていた門下生に追い打ちをかけ、背筋を伸ばさせる。


「だが、その後の行動はどうした。ショウヤ一人を戦わせた。それで剣士を名乗る気か」


 この言葉に門下生全員、背筋を伸ばしながらも顔が下に向いていた。


 剛剣は呆れたため息を吐く。


「はぁー。帰ったら、しばらく厳しめにやる。言い訳は聞かん。戻るぞ」


 門下生は黙って戻る準備をする。剛剣は再び俺の方へ来てくれた。


「ショウヤ、お前は俺がおぶって戻る。我慢しろ」


 さっき説教もそうだったが、剛剣の気遣いが嬉しくつい笑ってしまった。


「いえ、ありがとうございます」


 俺はホッとして緊張が解けたのか眠ってしまった。


 眠ってしまった俺に剛剣は言った。


「すまなかった。お前はもう立派な剣士だ」


────


──窓から光が差し込み、俺の目覚めを呼び起こした。


「うっうう⋯。ああ⋯、ここは」


「あっ、起きた」


 そこには、瑠璃色の髪と瞳を持つ女性――瑠璃音さんがいた。


「おはよう、ございます?」


「ええ、おはよう」


 瑠璃音さんはどこか安堵した顔になっていた。


 俺は周りを見ようとすると、自分の体が包帯だらけだった。そして、言葉が溢れる。


「これは⋯一体」


「ショウヤくん。あのクエストからずっと寝てたの、五日間も」


「五日も!?」


 俺はあれから五日も寝ってしまっていたのか、ということは稽古期間も⋯いやそんなことより、


「つまり、だいぶ体を痛めていたということですか?」


「そうね。骨折や内臓損傷がなかったのは幸いだったけど、傷が多くて血を失い過ぎた感じね。しばらくは安静ね」


「そうですよね。稽古は終わりですよね。ちょっと、残念です」


 折角の機会を安静にして終わるなんてちょっと悔しいな。


 そんな風に思っていると扉が開いた。


「あら、ショウヤくん起きていたのね。あなた、早く」


「分かった、分かった。そう急くな、コチよ」


 東風さんと剛剣が来てくれた。二人が来てくれてまた嬉しくなった。


「お二人共、見舞い感謝します」


「いいのよ、本当に無事でよかった」


 東風さんの目に涙が浮かんでいた。よほど、心配させてしまっていたようだ。


「剛焔さんもありがとうございます」


「ああ、無事で良かった」


 あれ、そういえば、この時間帯なら稽古のはず、なぜ剛剣がここに、


「先生、稽古は?」


「やっていない」


「えっ?」


 意外な回答に俺は驚いた。


 剛剣は話を続ける。


「クエストから三日して門下生が全員辞めたんでな」


 その言葉に東風さんが話す。


「それはあなた、あの日から稽古厳しくしたからでしょう。とはいえ、私はそのことに関しては説教する気はありません」


 たしかにクエスト終了後にそんなこといって言った。でも、叱らないのはどういうことだ。


「同じ門下生のショウヤくんを助けられなかったのですから、私が口を挟むのは違いますから」


「東風さん」


 東風さんの言葉に嬉しく思いつつ、申し訳なく思う。俺は頭を下げて謝罪した。


「すみません。俺のせいで、俺があの時ちゃんと指示を出していれば⋯」


「それは違う」


 剛剣の一言で俺の謝罪は止められた。


「あの時見ていた俺が言おう。お前は間違っていない」


 その一言で俺の顔が上がり、剛剣は話を続ける。


「あの時の馬鹿者達は恐怖で身を竦んでいた。あれに指示を出していたら、まともに連携出来ず死んでいた者がいたかもしれない」


 そして、剛剣の手が俺の肩に置かれた。


「だから、お前の判断は正しかった。俺が保証する」


 その言葉に続き、瑠璃音さんが俺の左手を取る。


「私たちもそうよ、無事で本当に良かった」


 東風さんも俺の右手を取ってくれる。


「門下生の子がいなくなって残念だけど、今はショウヤくんが無事で安心よ」


 三人の安堵の言葉は俺の心に響き涙を流す。


「ぐすっ、ありがとうございます」


 俺はその温かさを心に刻み込んだ。


「落ち着いた」


「ええ、失礼しました」


 瑠璃音さんが紙を何枚も用意してくれた。


 相変わらず、俺は涙を流すと止められにくいようだ。


 そんな俺に、剛剣が声をかける。


「それにしても、お前、一人称『俺』なんだな」


「えっ?」


「いや、だってお前、謝罪した時『俺』って言ってたぞ」


 咄嗟のことでつい素が出てしまった。


「これは再び申し訳⋯」


「いや、別にいい。それにちょうどいいや」


 俺の言葉は遮られ、剛剣の不思議な言葉に疑問を抱く。


「ちょうどとは?」


「俺はお前を──一人前の剣士として認める」


 俺は目を大きく見開いた。


「俺はな、力ってのは守るためにあると思ってる。己の力を律して扱い、守りたいもののために使う。力は振るうためじゃねぇ。守るためにある」


 剛剣の信念に強く感銘を受ける。


「だから、クエストの時のお前は間違いなく俺の目指した剣を引き出してくれた」


 俺は自然と口角が上がる。


「そんなお前を一人前と認める。お前らしく敬語とか気にせず話そうぜ」


 剛剣に認められて何度、俺の心を喜ばしてくれるのだろうか。なら好きなように呼ぼう。


「ありがとうございます。剛の師匠」


「剛の師匠? ガハハハ──。嬉しいな、そうだなお前は俺の弟子だ、ガハハハ──」


 この会話に瑠璃音さんと東風さんも驚きながらも、


「「「アハハハ──」」」


 皆で笑った。


 それから、安静にしつつ瑠璃音さんの許可も取って素振りをして剛の師匠の稽古期間を終えた。


 剛の師匠の稽古場の入口で師匠に挨拶をする。


「剛の師匠。最後はちゃんと受けれなくてすみません。でも、とても貴重な時間でした。ありがとうございます」


 俺は大きく頭を下げ礼をした。


「おうよ。次は疾剣の稽古だ。頑張ってこい。ガハハハ──」


 俺はその場を後にした。


 振り返ると、師匠は満面の笑みを浮かべていた。


────


 そして、地図を頼りに次の稽古場に向かった。


 同じ扉の作りのようだったが、上には『疾』と刻まれた木札があった。


 俺は扉を開けた。


 そこには、清流のような蒼髪で頭の上の方で束ねており、凛とした雰囲気のある男性が正座していた。


「⋯来たか。お前がショウヤか?」


 剛剣とは違う静かな声音で声をかけてきた。俺は挨拶をする。


「失礼します。本日より稽古を受けさせてもらうショウヤです。よろしくお願いします」


 こうして、剛の教えを胸に刻んだ俺は、次なる試練――疾剣のもとへ足を踏み入れていった。

次回は8/13にする予定です。

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