11.剛剣の洗礼と、二人の奥方
睨み合う二人の剣士。相手は剛剣、ここは正々堂々と真正面から打ち込むべき。
俺は足を少し前に出すと、剛剣は身構える。俺はそれを意に返すことなく、踏み込んだ。ただ純粋な最上段の一撃。それを剛剣は──真正面から受け止めた。
剛剣はただニヤつく。
「見事な一撃。だが、まだ足らん」
剛剣は俺の木剣を弾き、横薙ぎをしようと構える剛剣。俺は咄嗟に木剣を盾に防ごうとする。
そして、力強い剛剣の横薙ぎが大きく振るわれる。俺は木剣で防いだ──が大きく後方に飛ばされ、俺の体は壁に激突し鈍い音が響いた。
「かはっ。はぁ、はぁはぁ⋯」
息を整えてる俺に、剛剣が歩み寄ってくる。
「見たところ、ちゃんと基礎は叩き込んでいるようだが、まだ足りない」
「ええ、そのようですね」
これが剛剣。力の差が──まるで違う。今の俺じゃ何本振っても届かない。でも、だからこそ教えていただけるなら光栄だ。
「まだまだ未熟ですが、今後ともご指導よろしくお願いします」
「ふっふふふ、ぐはははは⋯」
剛剣は大きく笑った。
「俺の一撃を喰らってなお、その意気、気に入った。いいぜ、教えてやる。そういえば、名乗ってなかったな」
剛剣は大太刀の木剣を肩に担いで語る。
「俺の名は剣聖『剛剣』剛焔だ。俺の稽古は厳しいだろうが、精一杯喰らいついてこい」
「はい」
大きく返事をした。
「では、早速だが、今日は初日だ。外に出てグラウンドを100周走ってこい。今日の稽古はそれで終わりだ」
なるほど、最初は何より体力づくりというわけか。
「分かりました。では言ってまいります」
俺は元気よく返事をして稽古場をあとにした。
稽古場の扉が閉まり、中には剛剣のみで一人呟いた。
「うーん。グラウンド100周走っていくのに、文句や説得の一つをせんとは⋯、変わった奴だ」
そして、一人楽しそうに笑う。
────
そして、グラウンド100周を終え、食堂に行く。そこには、三十人近くの同い年かちょっと上の人達がいた。
二十周ほど走った頃から、あとからグラウンドへやって来た人たちが八人ほど走り始めていた。今彼らは、水を飲んだりまだ走ってたりしているのだろう。
とりあえず、俺は空いている席を探していると声をかけてくる。
「あら、ショウヤくん。稽古終わって休憩」
東風さんだった。俺は東風さんに駆け寄った。
「はい。といっても、グラウンド100周で今日は終わりと言っていたので、あとは素振りとかしようと思います」
「えっ……百周走った後に、まだ素振りをするつもりなの?」
「⋯はい」
俺は不思議ぎみに答えた。
東風さんは少し笑った。
「ふふっ。そうなのね、ショウヤくん努力家なのね。それにあの人も最初に心を折らないように手加減していたんでしょうね」
「あの人? ああ、剛焔さんのことですね。やはり、そうでしたか。剛焔さんほどの実力者と手合わせしましたが、あれほどの実力者ならあんな稽古で終わるとは思わなかったのですが、手加減していらしたのですね」
そんなふうに俺が納得していたら、東風さんが慌てた。
「あなた、あの人と手合わせしたの?」
何がどうしたと思ったが、とりあえず答える。
「えっ、あ、はい。手合わせしていただきました」
その回答に東風さんは頭を抱えた。
「ごめんなさい。私が妻としてあの人をちゃんと叱っておくから」
俺は慌てて、静止を試みる。
「ああ、いえお気になさらずいい稽古になり⋯まし⋯た」
うん? さっき東風さんなんて言った。『妻として』
「あの、東風さん失礼ながら、妻とは⋯」
東風さんははっとした顔になる。
「あら、ごめんなさい。伝えてなかったわね。剛焔は私の夫なの」
「おおー、なんと驚きました。結婚なさっていたとは⋯」
「ふふっ。最初はみんな、そんなふうに驚かれるものね。ちなみにここの料理をしてくださっているのは、技剣の奥さんである瑠璃音さんよ。せっかくだし、挨拶しましょう」
驚くことが連発して落ち着く暇が⋯、いやここは礼儀正しく挨拶をしなければ、
「そうですね、ぜひ」
東風さんが調理場の方へ声をかける。
「瑠璃音さん」
その名を呼ぶと一人の女性が現れる。
「どうしました、東風さん」
調理場から20代後半で瑠璃色の瞳と髪で、後ろの首元近くに団子が特徴の女性が俺たち二人の方へ駆け寄る。そして、東風さんが説明した。
「この子が今日から新しく入ったショウヤくんよ。礼儀正しくって本当にいい子なの」
「あら、こんにちは。私はここの料理長を担当している『瑠璃音』でございます。これから、よろしくね、ショウヤくん」
綺麗な人で穏やかな喋り方で気持ちが少し落ち着いた。
「はい、今後ともよろしくお願いします」
瑠璃音さんは笑った。
「うふふ、本当にいい子ね。さっそく、ご飯作るから、席に座って待ってね。──東風さんもせっかくですし、お昼をお取りになって」
「そうですね、ありがとうございますルリネさん」
それから、少し待つと瑠璃音さんが料理を持って来てくれた。その料理は繊細で美しい出来栄えの盛り付けがされた料理だった。
「すごい料理ですね」
「でしょう。私も料理手伝うことがあるけど、ここまでキレイに盛り付けできるのはルリネさんだけよ」
「うふふ、ありがとう東風さん、ショウヤくん」
俺たち二人が褒めていると置いてくれた瑠璃音さんがそばで笑って感謝を言った。
食してみれば、味はもちろんおいしく、栄養も偏ることなく様々な食材が使われていた。俺たちはそれを余すことなく全て食べきった。
「ごちそうさまです。本当においしかったです」
「ふふっ、そうね。瑠璃音さんの料理は本当、味をはじめ、見栄えも栄養もどれも行き届いていてすごい方よ」
本当にそうだ、母の料理を思い出すな。
そんな風に褒めていると東風さんの後ろから瑠璃音さんが来て、お膳を取りに来られた。
「たしかに見栄えは私が一枚上手かもしれないですが、他は東風さんだって負けてないですよ」
「あらそう、ありがとう瑠璃音さん」
「うふふ」
瑠璃音さんは笑顔で笑い、そして俺の方を向く。
「これからも料理を用意するから。楽しみに待っててね」
「はい、ありがとうございました」
剛剣の剣とそして剣聖の奥さんたちに会い初日の稽古は終わった。




