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聖女のおまけ転移のち処刑フラグなので鬼の旦那と逃亡しました  作者: 蔵前


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9/10

おまけと森のヒグマさんが助かる方法②

モエギとの関係を説明するどころか、私は怖くなって口ごもった。

敵の敵は味方とも言うけれど、聖女を召喚したグランタニアの女王も王子もまだ鬼人に宣戦布告はしていない。それに、彼等が本当に世界平和だけを望んで聖女召喚していたならば、鬼人達を排除するよりも仲良くしようって手を伸ばすのではないだろうか。


それでそうなったその時、私は聖女モエギに憎まれる存在だって知ってたら?


私は聖女を脅かすものとして処刑されるのでは?


私は何も聞こえない見えないって感じで、両耳を塞いで瞼もぎゅっと閉じた。


「「どうした!!」」


世界が真っ暗。


…………。


私は巨大で肉厚なものに抱きしめられている。


「――大丈夫だ。だから泣くな」


やっぱりギードだ。

けど、背中をとんとんと優しく叩く指先は、たぶんグレンの方だろう。


「無理しなくていいよ。君はまだ右も左も分からない赤ん坊みたいなものなんだよな。そんな子を利用しようとしたなんて。これじゃあいつらと一緒だな」


なんて優しい人達だ。

ゴールデンレトリーバーがわっほいなのは仕方が無いし、グレートデンはとっても穏やかなんだよって、お父さんだって笑って言っていたじゃないか。

大きな子ほど愛情豊かで気が優しいんだよ、とも。


それで思い出す。

私が獣医になるのを諦めた時の記憶も。


多頭飼い崩壊現場から岡さんが保護してきた哀れな成犬、私は可哀想なあの子を抱き締めてやるどころか近寄れなかったのだ。

あの子は常に唸り声をあげていたし、ガビガビでヘドロみたいになっている毛皮からは腐った臭いがするという状態だった。

でもお父さんもお母さんも、いいえ、私の二つ下の弟でさえ、憐れなその子に対して全然怯まなかった、というのに。


私は、始終唸っているその子が怖かったし、汚すぎて触れなかった。

こんな自分じゃ獣医にはなれないと、私は獣医になる夢をその時に諦めたのだ。


でも、きれいになって健康になったあの子は、私がそんな薄情で独りよがりなことを吹き飛ばす勢いで私を愛してくれた。

両親と弟は、こんな私にあの子の名付けまでさせたのだ。


「この子は今日から私達の子供で私達の家族になるの。お姉さんとして新しい名前をつけてあげて」


家族は分かっていた。

私があの子に触れられなくて落ち込んでいた事を。


「あの、放してください」


私の視界は明るくなる。

けれど、ここは窓もない石造りの神殿の一室。

意識のない男性の横に置かれた小さな輝く石と、ガラス天井をとおした星明りだけがこの部屋の明かり。

それでも意識のない人が酷く汚れている状態だってのは分かる。


それでも!!


私はぎゅっと目を瞑り、横たわるガイに向かって身を乗り出した。

それで、それで、もう帰れないのだからと自分を奮い立たす。

帰れないならば、ここで生きなきゃいけない。

殺されるのは嫌、奴隷にされるのも嫌、ならば?


「私、若葉小絵は、ガイ、ガイ」


「ガイ・カリブンクルス」


グレンが私の花婿の名前を教えてくれた。

カリブンクルスって柘榴石のことじゃないかと私はガイを見つめ、それでなぜかわからないが涙が零れた。赤みが強い焦げ茶色の髪は今は艶が無く伸ばし放題のぼさぼさだけど、原石ってそんなものだ。磨けば宝石。汚れてたら洗えばいい。


散歩で変なものを嗅いで戻って来たあの子のベロだって、私は頬にも唇にも受けたけど、気持悪いっておもわ――思ったけど平気だった。洗えばいいんだから!


そう、洗えばきれいになるんだ。


「私、若葉小絵は、ガイ・カリブンクルスを夫とします」


目をぎゅっと閉じて、ガイの唇に自分の唇を当てる。一瞬だけ。でもなんか、思ってたように汚いって気持ちにはならなかった。キスをして顔をあげた時、しっかりと彼の顔形がわかったからかもしれない。


真っ直ぐな鼻梁に秀でた額。

彼もグレンやギードみたいに、とても整った顔立ちなのである。

そして顔立ちに硬質さがあるから、石膏像に口づけただけみたいに錯覚しちゃったのだろう。だって、彼の唇が柔らかかったと、私はとっても驚いたのだから。


「ガイに新たな名を」


あああそうだった。

結婚はそれが目的だった。


「俺達に聞こえないように耳元で囁いてやってくれ」


「一生もんだから、あんまり変なのは止めてな。な?」


私は自分の中のギードへの好感度を下げてから、グレンが頼んだようにしてガイの耳元に唇を寄せた。それで、私は彼等のガイが変わらないことを祈って、あの子に名付ける時に良いなと思ったもう一つの名前を囁いた。


Aeon(イーオン)


あっちじゃどこかのスーパーみたいになっちゃうから止めたんだよね。

けど、永遠っていう意味も字面もとても気に入っている。


「うっ」


この唸り声は私のものだ。

ガイの耳元から顔をあげた時、ぱっちりと目を開けたガイと目が合ったのだ。


彼の瞳は宝石となったガーネットではなく、原石状態の柘榴石を思わせた。

透明な赤褐色は温かみがあり、まるでほんの少しだけ紅を入れたべっ甲飴みたい。


でも、私は彼が目を開けていた事に驚いたが、恋には落ちなかった。


いくら顔立ちが整っていようが、仙人みたいなぼさぼさ長髪にひげがある男性は好みじゃないし、あとデカい。物凄くデカい。戦士の理想的な体つきかもしれないが、カッコイイと思うよりも弟が観ていたロボットアニメを彷彿とさせる。


デカ女と呼ばれていようが、私は中学での時の出来事から男子が怖い。

こんな風になる前の時の私が好んだのは、アイドルや少女漫画の細マッチョな青年達で、決して父の愛蔵漫画の筋肉デカ男子ではない。


なので私と結婚してしまったガイ様。

大変申し訳ないけれど、たぶん、私は「君を愛することは無い」かも。

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