おまけと森のヒグマさんが助かる方法①
ステータスの出し方について私は分からない。
そこで聖女がステータスを公開した場面を語れば、ギードとグレンは頭を抱えた。
それから、よくやったと私を讃えた二人は、私の頭に同時に自分の手を乗せる。――撫でて褒めようって気持ちは通じましたが、重たいです。首の骨折れます。
「うぐぐ」
「「悪い」」
二人の手は同じタイミングで取り払われ、私は一瞬で首が楽になる。
あ~、あの場で私もいるって申告して、あのローレンス王子に助けを求めた方が良かったのだろうか。
グレンとギードは優しいようだが、自分の力加減を知らない巨人過ぎて、彼等の優しさで私は殺されそうだもの。
「そんな顔をするな。お前はよくやったよ」
「だよな。グレン。それにしてもあいつらもえげつないな」
「仕方がない。ハラビア国では召喚された聖女が逃げたんだ。それで聖女が魔獣に殺されて瘴気の森が広がった。そんな事例を知ってたら、召喚したらすぐに聖女に奴隷契約結ばせて逃がさない算段をするだろうさ」
「ど、奴隷契約ですか?」
「ああ。君が言った通りのことが起きたのならば、無理矢理ステータスを引っ張り出したのは、聖女の真の名前を手に入れるためだ。それで手に入れた真の名前を使って神と契約を結ばせた。契約が破棄されれば神罰が下る。逃げて他国の聖女になることは無い。神罰を背負った者など、聖女だろうが国王だろうが、忌避される存在になるからな」
「その契約はもう破棄できないんですか?」
「聖女を心配するとは、君は気立てが良いな」
「違います。同郷だからあいつは私の名前を知ってます。だから、私がこの世界にまだいるってわかったら、あの」
二人は顔を見合わせ、しかしグレンという巨人の方がすぐに何かを思いついたようだ。私の襟首をむんずとつかんで、横たわるガイの真ん前に引き摺ったのだ。やっぱ鬼だあ!
「あ、あの!」
「ガイに新たな真実の名を付けてもらえ」
「へ?」
「ガイと結婚すれば表の名前を変えることができる。そして伴侶となった夫、あるいは妻だけが、伴侶の真実の名を書き換えることが出来るんだ」
「でも、意識が無い」
「だからこそだ。今のガイは冥府の神に捕まった状況だ。冥府の神が持つ死者のリストから外すことができればガイは死なないだろう。頼む。死神に捕まったガイの真実の名を変えてくれ」
「そ、そんな――できないよ」
名前を変えたからって人は生き返らないし、ケガや病気が治ったりしない。
ガイに私が新しい名前を付けて、それなのにガイが死んだら私のせいになるの?
「できる。結婚の宣誓をまず君がして、口づけて、ガイの真実の名前を君が決めてガイに伝えてくれ。それで結婚は成立だ。聖女に知られているという君の名前はまず変わるだろ」
「そうだけど」
私は目の前の赤褐色で毛むくじゃらを見つめる。
もじゃもじゃ、吐しゃ物なのか何かのカスがひげや髪についている。血の塊だって、そこかしこにこびり付いて、毛をべとべとな束にしている。
彼と口づけるの?
「むり」
「確かに真の名前の変更でガイの魂は変質するかもしれないが、俺達はこいつに生き延びて欲しい」
そう言う意味でムリだって言ったんじゃない。
けれど、変質、する?
「この人が目を開けて、あなた方が知っている人じゃ無くなったら、それはとても辛いんじゃないの? ぎゃあ!」
垂れ目金髪の大きな手が私の頭を抑えつけ、ぐりんぐりんと撫で始めた。
首が折れる、折れる!!
「ギード。大事な話し中だ」
「だってよお、この子いい子じゃないか。こんな見ず知らずの俺達の心を思いやってくれたんだ。こんなに可愛いだけじゃなく、心根もいいなんて最高だ」
「確かにな」
私の頭から重圧は消え、その代わりに私の顔を覗き込むようにギードが私のすぐ横にしゃがみこんだ。にこっと笑うが、巨大石像です、ありがとうございます。
私も愛想笑いを作るが、口の端がひくひくと痙攣するだけだった。怖い。
再びギードは私の頭へと手を伸ばす。
私は再びの重圧が来るとぎゅっと目を瞑る。
「お前、誰かにぶたれたことがあるのか!!」
びりびり来る怒りに私はひゃっと脅えて目を開けた。
怒り顔のギードさんは寺の阿吽像にそっくりです。
「け、蹴られたことはある。だから男の人は怖いの!」
「誰だ!」
「ひょえ!」
「ほんと、誰が君にそんな事をした?」
地獄の底から冷たく響く感じの低い声は、ギードとは反対の私の横にしゃがみこんだグレンさんの声である。
「ま、前の世界で。い、一緒に召喚された聖女の男友達に」
「どうして聖女が君にそんなことを?」
「君と聖女はどんな関係なんだ?」
「おなち……はっ」
同中なだけの関係で、中学ではモエギにいじめられてたと馬鹿正直に告白しかけて気が付いた。現状の私とモエギの立場の差だ。
彼女が私を嫌うきっかけも、それで何の意図があって私に嫌がらせを続けるのか意味が分からない。だけど、この世界で彼女が聖女になったならば、彼女はこの世界の絶対的善で重要な存在となったのだ。そんな彼女が私を嫌っているという事実が、今後の私にどういう意味を持つのかはわかる。
脳内で効果音付きでギロチンの刃が落ちた。
左右からの真実を聞きたいって威圧が凄いが、私は両耳を押えて縮こまり、何も言えないと唇を噛む。
だって私達の関係など、説明できない。説明できたとしても絶対に私が悪者だ。




