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聖女のおまけ転移のち処刑フラグなので鬼の旦那と逃亡しました  作者: 蔵前


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6/10

おまけはチワワの気持を知る

目を開けたら家にいた、全部夢だった。


そういうことにしたかった。


だって私の異世界物語は、全力で逃亡したい、しか選択肢が思い浮かばない。


乙女が読む異世界系の漫画だったら、魂抜かれるぐらいに美しい男性達に見守られていたってシチェーションだろう。

いくらなんでも巨大石像群に見つめられているってことは無いはずだ。


目を開けて最初に見えた景色が、私を捕まえた男達が私を見守っていた姿である。

今の私の確実な敵な王宮の騎士と同じ服を着ている彼等は、確実に二メートルぐらいの身長がありそうだ。


訝る険しい表情で私をじっとみつめていらっしゃいますが、あなた方こそ私の恐怖対象にしかならないそびえ立つ謎の巨石群です。ありがとうございます、だ。


彼等が出した輝く石のおかげで明るくなって彼等の詳細もわかったけれど、懐中電灯をお顔の下から照らしたらお化けになるみたいに、輝く石が作る陰影が彼等にさらなる恐怖効果を与えている。


お陰様で私はチワワになった気がした。グレートデンやゴールデンレトリーバーに圧迫面接されたチワワの気持だ。

絶対勝てない絶望感で、全身がプルプル震えちゃう。


短く刈られた灰色の頭をした男性は、日本人とは違う青みのある黒い瞳だ。紺というよりもインクのブルーブラックに近い色。それで彫りも深く鼻すじも真っ直ぐで、美術室の石膏像のような顔立ちだ。体つきだって均整が取れていて、美術部のアキちゃんだったらデッサンさせてと騒ぐだろう。


でも巨体。あと、なんかツノ? らしき三角の骨色の小さな突起物が頭から二本突き出している気がする。


よって美術部のアキちゃんじゃない私は、彼に麗しいとか美しいとか思わない。

美術室で動く石膏像に出会ったような、とても恐ろしいと思う気持ちだけである。

ツノがある人外ならば怪談話とすれば、理科室の動く骨格標本かもしれないけれど、大きさのスケールが骨格標本では彼に足りない。やっぱり彼は動く石膏像だ。


一方金髪男の方は、灰色頭よりは若そうだが同じぐらいに巨大だ。無造作ショートヘアっぽいが、手入れを忘れたような感じのぼさぼさ頭としか形容できない。が、その髪型が似合うイケでもある。

彼の顔の作りは灰色頭よりも繊細で、キレイな三角形の鼻と少々垂れた目元で灰色よりは柔らかい印象なのだ。瞳の色は暗がりだからはっきりとわからないが、光が入ると緑や黄色に輝くので黄緑色でいいだろう。


それでやっぱり巨大な人なので、モデルみたいなイケメン外人に出会ったと喜ぶどころか、黒船で誘拐されそうな危機感しか感じない。ぼさぼさ頭の中に、きっと彼もツノ持ってそうだし、警戒して間違いない。


ああ、私は百六十センチあるので女子としては背が高い方だったのに、今は逆ガリバー旅行記な気持ちだよ。


「起きたか? 君の名は?」


二人のうち、垂れ目金髪の方が語りかけて来た。

答えたら助けて貰えるのだろうか。だが目の前に巨人二人に脅えているせいで私の舌は上手く動かず、はひゅっと空気が漏れる音しか出せなかった。

すると、垂れ目金髪男が、灰色髪男から肘鉄を喰らったじゃないか。


え?


垂れ目金髪はしゃがんだ姿のまま、コロンと床に転がった。

だるまさんが転んだ、と唱えそうになる。


いや鬼さん転んだ、だ。


あった、転がった時に頭の毛がふわっとなって、三角のアレ見えた。

彼も鬼だー、鬼だー。


「ギード。脅えているんだ。もう少し考えろ」


「グレン。彼女はお前に脅えてると思うぞ。なあ?」


金色髪のだるまさんは、起き上がりこぶしのように起き上がり、私に向けてにやっと悪戯っ子のような笑みを見せた。――多分のこの笑みにこの世界の女性は落ちると彼は知っているのだろうが、私異世界人であなた鬼。

あなたの笑みを見せられても、悪い子はいねえがあ、と、なまはげに迫られた幼児の気持ちにしかならないです。だから。

私の口から勝手に悲鳴が零れる。


「ひっ」


「ギード」


灰色鬼のグレンさんは私を怖がらせたとギードという名の垂れ目金髪を叱ってくれたんだろう。けど、グレンさんの声は、地獄の底から響いたような低い声。


「ひっ」


「グレン、お前がさらに驚かしてんじゃね? なあ嬢ちゃん。で、どうしたの? 誰かにここに閉じ込められたの? 出られなくて怖かったよね。だけど俺達がここから出た後、明日のお昼まではここにいるんだよ? 君のせいで俺達が城から出られなくなったら困るでしょ。わかった?」


とりあえず私はギードさんの鬼みたいな台詞にコクコクと頷く。

でも、――言えない。私も外に出たいんですって。怖いこの人達に言えない。

本物の鬼だし。


彼等のうちわみたいに大きな手で叩かれたら、私は壁まで飛んで行って、べちゃ、ぐちょ、ってなって死ぬ。絶対に死ぬ。

彼等よりずっと小柄な男子に蹴られた時だって、とってもとっても痛かった。


どうしよう。こわいこわいこわい。


「それで君はどこの家の娘だ。その服は見たことない作りだな」


グレンさん。それって、お前の家を調べて潰しに行くぞって脅しですか?

見たことない服イコール彼等が知らない民族服だから村名とか教えろ?

俺達の意に添わない行動を私が取ったら私の村を襲うぞ?


私の脳内で、燃えた村の上でお笑いする巨人のシルエットという構図のイラストが出来上がる。


「村はお助け下され~!!」


父のお気に入り漫画の村がヒャッハー集団に襲われるシーンが浮かび上がって、私はその漫画の村長のセリフを村長と同じフリ付きで叫んでいた。


脅えすぎかもだけど、怖い怖いって体が勝手に震える。

男子に蹴られた後の私は数か月ぐらい不登校になったし、しばらくは男子が怖いからと父や二つ下の弟が後ろに立っただけで悲鳴を上げるぐらいだったのだ。

それで進学先を女子高にしたのは、早い話、私が男嫌いになったからである。

そんな私を囲むのは、巨人な鬼達。


「命ばかりはお助けを~」


パニック頭となった私から出るのは、ヒャッハーなモヒカン達に蹂躙される村長の台詞だけだった。

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