聖女とそうでない人間では②
中学三年間は萌木柚葉のお陰で散々だった。
それでも卒業で彼女と分かつことができた。ようやく自分が望む学校生活が送れると思ったその矢先に、モエギに巻き込まれての、異世界召喚、である。読んだ事ある小説や漫画で、巻き込まれたけど自分の方がって展開も沢山あるけど、本当の本当のモブはパッとしないまま物語から消えている。主要登場人物に現実を教えるために最初に殺されるモブだっているではないか。
どうして私はいつもモエギに人生を台無しにされるんだろう。
私は冷めた目で、私達を召喚したグランタニア国の王子とモエギのやり取りを眺めていた。
見目麗しすぎて嘘くさく感じる金髪碧眼王子が、やはり美人だけど軽薄で薄っぺらいモエギの前に、何かの漫画の一場面の如く跪いているのだ。
嘘くさいからこそ怖いと、私は膝をさらに強く抱え込む。
「聖女殿。いや、モエギユズハ殿。家族と引き離してしまった贖罪に、あなたの生活がこの世界でより良きものとなるべく努力する。どうかこの国の為にあなたの力をお借り出来ないだろうか」
「もちろんです。私はこの国の為に頑張ります!」
アイドルコンテストで優勝したかの如く、モエギは喜びいっぱいで叫ぶ。
王子は掴んでいたモエギの手を自分の口元に掲げ――口づけた。
「きゃあ」
「申し訳ありません。嬉しくて。約束ですよ」
「ええ約束です!」
「我らが神に誓って?」
「ええ、誓って」
ブン。
またノイズ音だ。
今度は光が無かったが、モエギのステータスも消えていた。
ステータスはモエギが出したんじゃない感じだけど、自分でも出せるのだろうか。
「では、今日は疲れただろう。ユズハ、君を部屋に案内しよう。ラッチェ」
王子が声をあげると騎士の一人が王子の前に出てきた。彼はその騎士にモエギの手を手渡すと、今度は何かを探すようにして首をきょろきょろと廻らす。
モエギは急に不安顔となり立ち止まる。
「あの、王子様?」
「あの子はどうしたのかな。もう一人いたでしょう?」
え、目の前にいるのに、私が見えない?
これが私のスキル?
スキルがあることがわかって嬉しいどころか、私はぐらりと意識が揺らぎそうになった。ひゅーんと血圧が下がった感じだ。
だって、隠れるスキルは、弟がやるゲームキャラでは忍者とか暗殺者とかが持つやつだ。私は聖女どころかアサシン系?ダメだ、そんなの詰んだああああ。
でもスキル持ちとして、私はこの国に保護して貰えるんじゃ。そうだよ。誘拐したんだから面倒ぐらい見て貰っても。――で、暗殺者になれとか訓練されたり?
むり。
良かった、自分でもステータス確認できるか試そうともしてなくて。ステータスが出た瞬間にあのブンって音が響くなら、ステータスを出したら見つかってしまっていたことだろう。
で、変な訓練所に入れられて人殺しの世界へこんにちは。
むり。
「もう一人なんかいません。聖女は私一人のはずです」
え?
思わずモエギをガン見する。
王子はモエギのセリフに一瞬ポカンとした顔となったが、すぐに表情を元に戻して再びきょろきょろと周囲を見回す。
「王子様」
「いたはずなんだよ」
「王子様。召喚から彼女は弾かれたんですよ、きっと。だって、あの光は私を迎えたものです。あいつが聖女のわけ無いんです。それできっと戻されたんです」
はあ?
「それはないな。呼べても戻せないのがこの召喚だ」
ええ?
「そ、それじゃ逃げた? 王子様、あたし、いえ、私はずっとあいつから嫌がらせを受けていたの。あいつのせいであたしの人生台無しなんです!!」
「それは――」
それはこっちこその言い分だ、と思わず言い返しそうになった。
慌てて口を両手で塞ぐ。
これが私のスキルなのか分からないけれど、なぜか私の姿を広間の全員が見失っているようなのだ。魔法陣の真ん中で体育座りしているというのに。
今ここで見つかったらお終いだ。
静かにしていろ、私。そして思い出せ。
中学校ではモエギの味方をする男子ばかりだったじゃないか。
カツン。
王子が一歩踏み出した。
王子は私を諦めていない?
でも、聖女のモエギは私を中学の時と同じく敵認定している。あの子が中学の時みたいに男の人を煽ったら。恐怖で背中がぞくぞくっと震える。
一歩、また一歩と近づいてくる王子に対し、私もずり、ずりっとほんの少しだけお尻で後退する。ほんの少しだけ。音を立てたら見えて無くても気付かれるから。
「ローレンス。元の世界に戻れずとも消滅はありえる。瘴気に取り込まれて魔獣化した者は、浄化魔法を受ければチリと消えるからな」
女王のセリフに王子の足は止まる。
すると、モエギが王子の腕に絡みつく。
「きっとそうだわ。あた、私のステータスを開いた時に真っ白な綺麗な光で一杯になったもの。きっとそれであいつは消えたんだわ」
「あの光は――」
「ローレンスよ。召喚される聖女は常に一人だ。そしてユズハ殿が聖女だった。ならば今は捨て置いて構わぬ。どこぞに隠れたとしても、小娘一人。この城から逃げおおせることはできぬだろうて」
王子はようやく女王へと振り返る。
王子は胸に手を当てて女王の言葉を受け入れるという風に頷く。女王は満足そうに微笑えむと、両腕を天井に向かって勢いよく伸ばした。
「我らが神、ゼノグランギラスよ! これにて聖女との契約はなされた! 我らが王国、グランタニアに栄光を!」
「陛下バンザイ!」
「栄光を!」
「前進を!」
どうしよう。
鼓膜が破れそうな大歓声の中、胃の底が冷たくなっていく。だって、中学の時のモエギによるいじめは、教師やキリちゃんが助けてくれたから「嫌がらせ」程度で収まっていたのだ。
なのに、ここは異世界。
モエギが聖女様で、王族が彼女を守ると約束したのだ。
誰が彼女の私への悪意を止めてくれるの。
「早くここから逃げなきゃ」




