汝神の名をむやみに唱えるなかれ
なんてさいていさいあく。
叫んだっていいよね。
私は目の前にいるはずのない人物を見つけて、大空に向かって叫びたくなった。
いや、その人物に向かって叫び出したかった。
なんで私の目の前にいるのよおおお、と。
私の目の前には、明るいピンクブラウンのふんわりボブに、緑色系の少々派手な制服(恐らくも何もなんちゃって制服)を着た美少女が待ち構えていた。
奴は同中(同じ中学)の同クラだった、萌木柚葉だ。
彼女の全てを思い出したくない程に嫌っているので、脳内で思い返す時はモエギユズハと名前だってカタカナにしてしまっているほどだ。
幼馴染で同じ高校に進んだ親友キリちゃんには、逆に恋じゃね、などと揶揄われるが、本当に、私は彼女が、だい、だい、大っ嫌いなのである。
なぜならば、彼女のお陰で中学時代は一年の頃から散々だった。
まず、廊下を歩いていただけで彼女にぶつかられる。
女子だけの時は私が転がされて周囲の女子と一緒にぷーくすくすされるが、男子がそこにいると彼女こそ勢いよく転ぶ。そして男子に助け起こして貰う。ついでに私がなぜかその場の男子に「陰険」とか罵られるのワンセット。
体育の授業でロッカールームに入れば、彼女は友人達と一緒に「とある女子」についての鬱憤を大声でわめきたてる。
こんないじめとは言えないちっちゃな嫌がらせを延々とされ続けたせいで、私の評判は「面倒な人」となってキリちゃん以外の子達には遠巻きにされた。
モエギ関係の女子や男子に悪口だったり突き飛ばされたりの日々、そりゃもう辛くて悲しかったよ。だから私は勉強を頑張って、派手系女子も男子もいない名門お嬢様学校に進学したのである。お嬢様って柄じゃないけど。
でも、頑張った甲斐があったと、私は今日まで幸福いっぱいだった、というのに。
どうして意地悪そうな笑みを浮かべたモエギが私の目の前にいるのだろう。
美人な彼女は中学の時みたいにやっぱり取り巻き男子(それも三人も!)を引き連れているけど、今の明るく派手な髪色の彼女にぴったりなパリピ系。
もういい加減にしてほしいな、と、私は自分の紺一色の制服を見下ろす。
私が通うの女子高の制服は、ジャンパースカートにジャケットという組み合わせで、果てしなくもっさり外見なんだよね。だからこそモエギが絶対に選びようも無いって思ったのだけど、それで彼女は笑いにわざわざ来たのかな。
ストーカーですか?
「お前の方が気にし過ぎだって」
いつもの親友の言葉が聞こえた気がして、私は少々落ち着いた。
そうだよ、彼女が私にわざわざ絡みに来たわけ無いじゃない。
ここは駅。同中ならば学区一緒。彼女にとっても最寄り駅。考えすぎ、考えすぎ。視線がこっち向いている気がするのも全部私の考えすぎ。
ということで無理矢理自分を説得した。
さあ、改札出たら自宅まで一気に走るぞ。
私の足は改札から一歩踏み出した。
「いつもさえないちゃんだ~。待ってたよ~」
思い出したくもない声が。でも、さえって名前は沢山いるし、奴が今いたぶりたい相手は私では無いはずだ。無視無視、私は完全無視でオケなはず。
「わ、かば、ちゃ~ん。若葉小絵ちゃ~ん。ユズが呼んでんのに無視ってどういうことですかあ~」
「ゆ~ず。お前みたく馬鹿な女は無視なんじゃないの」
「だっけどさ、そいつがお前を虐めてたってやつ? ぶっさの妬み怖えぇ~」
「ぶっさこそ身の程しれってやつだかんな」
ぎゃははといかにもな笑い声。
私は平常心平常心と唱える。
私は百六十センチはあるが、私をとおせんぼするみたいに囲んで来た男子を突き飛ばす事は出来ない。するとモエギが、ずずいと私の前に立ちはだかった。
それはもう厭らしい笑顔で。
「お前さ、いい気になってんじゃねえよ。カツヒコ振ったんだって? あたしみたいなバカと仲いい奴は全部バカだって言ったんだって? 何様だよ!」
卒業後に、なぜか私に好きだと告白してきた同級生男子がいた。私はこれもいじめの一つかもと思い、全く相手にしなかった。本当は好きだったとか言うのなら、お前の友人が私に蹴り入れたの止めろよなって奴。
で、モエギのこの台詞。彼はやっぱりモエギと繋がっていたんだと発覚。
うん、相手にしなくて良かったよ。
「ちょっと付き合えよ」
「そうそう。カツヒコ君に傷つけてごめんね? してやんなきゃ。なあ、ユズ」
「ふふ。記念写真撮ってあげなきゃだよね。なあ、サエ。あんたのガッコ、男と付き合ってんのバレると退学だっけ?」
さああ、と血の気が一気に下がった。
モエギとこの男達は私をどこかに連れて行きたがっている? それでその先で、私が学校を退学になるようなことをしようとしている?
かみさま。
どうして私ばっかり、いつもこんな目に?
どうしてモエギは私にばかり嫌がらせするの?
「ほら、行こうや」
「触らないで!!」
誰か助けて!
パアアアアアアア。
足元から青白い光が溢れたかと感じた瞬間、地面が大きく揺れた。
え、落ちる?
「え、やったあ。異世界召喚だ」
モエギの本気で嬉しそうな作り声が私の神経を逆なでた。




