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聖女のおまけ転移のち処刑フラグなので鬼の旦那と逃亡しました  作者: 蔵前


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15/20

目が覚めたら妻帯者になっていた男の話②

長いので①と②で分けましたが、分けて文字数が少なすぎるなら削除してた設定も今入れてしまえと書き直し、なぜかまた長くなりました。読み辛くて申し訳ありません。

俺が婚姻の儀式を完了させることを躊躇えば、サエに真名を俺が与えねば真名を与えられた俺が一方的にサエに隷属するとグレンは言った。


それもいいかな、と俺は思う。


俺のせいで不幸になった少女に俺が一方的に隷属する事にすれば、彼女が他の男を愛してその男の元に行っても、彼女の隷属者でしかない俺は裏切りと彼女を責められない。

それでいい。彼女を自由にしてやるべきなんだよ。


動けなくなった不幸と全身を苛む痛みで心が歪み、幼く美しい妻に八つ当たりする男になる前に、彼女を解放してやるべきなんだ。


そんな風に考えて、何となくサエを見てしまったのが間違いだった。


俺の目線は勝手にサエの唇に引きつけられた。


嘘だろう?


触ればシャボン玉のように弾け飛んでしまいそうなほどに繊細で無垢な薄紅色の可愛い唇が、それが、俺の唇と重なっただと。

え、俺は牢に入れられて、拷問されて糞尿と吐しゃ物塗れで。

多分、洗浄魔法ぐらいは掛けてくれただろうけど、それでも。


「ガイ兄さん、どうした?」


「お前等、俺に洗浄ま」


言いかけて自分の口から吐き出された息が臭いと落ち込む。

こんな腐った生ゴミみたいな男にキスさせたのか、俺の義兄弟達は。


「ガイ。いい加減にしてくれ。あと一刻ほどで俺達は動かねばならない。宴が終わった後の夜陰に紛れて城を出る」


「あの子の好みが兄さんでは無いかもだとビビってんのもわかる。けど、腹をくくって生き残る方を選んで。あんたの選択があの子を生かすことにもなる」


「どういう意味だ?」


「今回召喚された聖女は二人。一人は女王達に取り込まれたが、あっちの世界でサーエの敵だったそうだ。つまり、あっちはすでにサーエの真名を知っているってことだ。彼女も奴隷契約魔法で縛られる可能性が高い。自由にして逃がしてやりたきゃ婚姻を完成させろ」


「くそっ。早く言えよ」


サエにも一刻の猶予がないようだ。

彼女の真名をすぐに変えねば、一緒に召喚された聖女によって彼女もこの王国の奴隷に堕とされるとのことだ。


俺の腹は決まったが、俺には罪悪感ばかりだ。

サエはいつのまにやら俺達から離れて広間の隅に移動していた。石造りのだたっぴろい円形の広間の隅に一人でポツンと座る姿はそれだけで幼気で胸を打つが、ぼんやりと床を眺めている姿は迷子の子供。可哀想すぎて抱きしめたくなる。


そうだ、彼女はまだ子供なのだ。


そんな彼女の元へとギードは歩いて行き、彼女を立たせて俺の元へと連れて来た。

ギードの後ろを歩く彼女の足取りはとぼとぼとしていて、彼女こそ処刑が決まった囚人のように見える。

なのに、彼女は俺の横にぺたんと座ると、なんとおれの額に手を当てたのだ。


「辛いの? 熱がある」


俺は何て弱いんだ。

そして君は何て強くて優しいのだ。


「大丈夫だ。君が俺を助けてくれた。君には感謝ばかりだ。それで頼みがある」


「な、なんでしょう」


「俺から君に真名を差し出したい」


「あ、表の名前があなたとの結婚で変わったけど、真名も必要ですか?」


「真名と表の名前は違うものにしなければ。でなければ、君の真名は表の名前だとして、誰もがその名を使って君を苛む事ができる」


サエは、ひゅっ、と声にならない悲鳴を上げた。


ただでさえ異世界に連れこまれて心細い少女をさらに脅かすとは!

全く俺は、なんて唐変木だ。


俺は彼女が一番苦痛を感じない方法をと考え、これしかないなと嘆息する。

台詞が初めての子を手籠めにするろくでなしそのものだ。


「目を瞑ってくれるかな。その間に全てすます」


「え。真名を囁くだけでしょう」


「君が俺にキスして真名をくれた様に、俺も君にキスしてからじゃないと真名を与えられないんだよ」


俺は思わずサエの前に両手を差し出しかけた。

目玉が零れるぐらいに大きく目を見開いたものだから。

でも、彼女の目玉が零れ落ちる事も無く、俺の両腕が上がることも無かった。


そして俺の現状を知った彼女は、生まれたての小鹿みたいにプルプル震えているのに、それなのに、俺へと自分から身を乗り出してくれたのだ。


俺とキスするために。俺が動けないから、自分から。


ぎゅうと両目を瞑ったその姿は、まるで生贄にされる生娘そのものだ。

俺は魔王かよと、少女を脅かすだけの自分を情けなく思いながら、俺は彼女が差し出してくれた唇に唇を重ねる。


彼女は俺の唇が触れた途端に、ビククッと震えた。

俺は君の不幸で地獄だろう。けれど君は死にゆく俺の安らぎで、希望の光、だ。

俺は彼女の耳元に唇を寄せ、誰にも教えたことのない自分が一番大好きな生き物の名前を彼女に囁いた。


(ルシオラ)と。


闇夜を美しく照らす、儚くも美しい生き物。

こんな大男が好むと言えば大笑いされるが、君だけには伝えたい。


彼女の名を唱えれば、彼女はゆっくりと瞼を開いた。

睫毛も髪色と同じく漆黒で、瞬きするさまは黒い蝶々のようではないか。


「ルシオラ?」


「蛍の古代語だ。俺は蛍が大好きなんだ。あ、女の子は虫は嫌だよな。すまない」


「いえ、あの。ミツバチとか、は、ハチミツが好きそうですものね」


「ああ。大好きだ。君も好きなら領地に行けばたくさん」


その後は、そうだ、俺は時間だと言ってギードとグレンにサエから引き剥がされたのだ。そして動けない俺は持ち運びしやすいように麻袋に。情けない。


思い出して苦々しい気持ちになった俺の意識は、今の、目の前のサエに向かう。

俺の妻で救いの女神。

俺が再び動けるようになったのは、彼女の能力のお陰だ。


彼女によって不思議な布でグルグルに巻かれたところから痛みが引き、感覚が無かったところには痛みという感覚をもたらした。

腕も、足も、呼吸するたびに痛みで軋む肺も、全部元通りだ。

俺は彼女にちゃんと向き合って、感謝を伝えたことがあるだろうか。


「サー」

「初夜はここですますのか?」


サエに話しかけようと思った瞬間、ギードが大皿の串肉を掴むついでに俺に身を寄せて何気ない顔のまま囁いた。

一気に血の気が下がった。


そうだ。

ここは宿屋で、ツインの二部屋しかとれなかった。

俺はどこで寝る? そんな問題があった。


まだ早い、まだ子供だ。十六歳は今年だけだと俺の脳内煩い。

鬼の性欲は酷く強く、体は人族よりも大きく頑丈だ。

サエを殺す気かと湧いて出た情欲に問えば、身の内の炎は静かに消えた。


だが、とにかく、どうしよう。

呆然としてしまった俺と、なんと、サエとしっかり目が合った。


俺はどうしていいかわからず、だが俺を真っ直ぐ見てくれた事が嬉しくてむず痒くて、自然と顔が緩んだ。

彼女は俺の弛んだ顔に微笑みかけ、表情を凍らせた。


いや、違うよ。

警戒解いて先に進もうなんて、ぜんぜん思ってないから。


俺はそれなりの年齢だ。

おまけに鬼族は長命で若さを長く保てる。

君が心を許してくれる日まで待てるよ。

許したら喰うのか? と俺の脳内でもう一人の俺が囁く。煩い。

それよりも、ギードはなぜ俺が初夜をここで済ますと考えたのか。

ギードは俺のそんな疑問など聞くまでもない、という風に再び俺に囁く。


(つがい)


思わず罵り声をあげそうになる。耐えた俺の自制心よ、褒めてやる。兵士や戦士の普通以上に下賤で野蛮な罵り言葉をサエに聞かせてはならない。

あの子を脅えさせてはいけないのだ。

それなのにギードは、今のうちにサエの心と体を掴んどけと煽っているのだ。

なぜならば。


「ここからコルまで四日もかかるのか」


「朝から晩まで楽しい旅路がね」


俺達の村までの山道は道が険しく魔獣も多く生息している難所だ。魔獣蠢く高難度ダンジョン並みに危険地帯なのである。

里の誰かに番について聞かされても、サエが俺から去らないでくれる繋がりが、明日からの四日では持てそうもない。


「ここまでの五日間、俺は一体何をしていた」


「可愛い女の子を遠くから愛でるモジャ?」


俺はギードの足を蹴っていた。

身バレなんか関係ない。どうせ明日から山に入るんだ。身ぎれいになってやる。

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