おまけはやれることやります╭( ・ㅂ・)و
ガイに何もできる事が無い自分を、かつて愛犬が息を引き取るまでを眺めているしか出来なかった幼い自分に重ねていた。
それで私はついに叫んでいた。
「どうして!!」
その一言には、これまでの私がため込んでいた鬱憤が籠っていた。
目の前には全身の痛みに苛まれている大男。
見ていることしかできない自分。
どうしてこんなにも私が無力だって追い詰めてくるの?
異世界に連れて来られたのも、私が望んだ事じゃ無かった。
逃げるしかない境遇も、私が望んだ事じゃない。
巻き込まれて翻弄されて、それで自分が無力だってことばっかり思い知らされて。
幼い頃と違って私は学んだ。
それだって無意味かもしれないけど、私にはできる事だった。
だけどここでは何もできない。
愛犬が息を引き取るまでを眺めるしか出来なかった、幼い頃と変わっていない。
私が上げた「どうして!!」は、魂からの叫びだった。
がつんごつんとこん。
だから神様が応えたのか。
私の欲したテーピングができる色々が私の周囲に落ちてきたのだ。
一体どこから、なんて聞くのは野暮かもしれない。
でも神様、ちょっとだけシャウトさせて。
「違う、神様。こういう時に与えるのは治癒魔法とかでしょう!!」
よし。叫んだあとはできる事をするまでだ。
私はガイの指、いや、まずは腕ごと補強して先端部は最後に回す。
掴んでいたガイの右手をそっと下ろし、けれど肘は九十度曲げた状態にする。
で、太めのテープで手首の所から肘の上部まで一気に貼り付ける。その後は手首、肘に掛からないように肘の下をぐるっと巻いて、肘の補強は終わり。
「あ、これテニス肘のやつだっけ。野球肘の方が。いいや、とにかく指!」
指は太いテープで指を巻くだけであるが、血行が阻害されないようにちゃんと隙間も作って貼る。そして次は左腕。今度は野球肘巻きしてみようか。
「……なにを……している」
「テーピング? かえって辛い?」
「……痛みを感じる」
「そっか。止めた方がいいのかな」
「このままで。いや、もっと。何も感じなくなった指先が痛くて、あつい」
効いてるってことか。
ガンバローって気概が湧いた。
左腕が終われば両足だ。
ひいふぅ言いながら丸太みたいな足を持ち上げテープを巻いていく。巻きながら気が付いたけど、テープ足りないなって念じると、ポンと目の前に出てくる。これは私の新スキルみたいだ。
新スキル。
ふふって鼻で嗤った。
自慢とかでなく、これじゃない感強すぎによる、諦めの溜息だ。
確かにテーピング得意だけど、テーピングできますとか言ったけど、異世界で開花した能力がこれってなんか違う。
「伸縮バンテージ欲しいな」
ごとん。
…………嬉しいけど、違う。
私はもう何も考えるまい。ガイへのテーピングに集中しよう。
「あふっ」
「痛かった?」
慌てる。そもそも一度ぐちゃぐちゃになってたらしい骨や筋肉がおかしな形で固まらないようにテーピングしているのだから、私が無理な力やひっぱりをしたせいで歪んじゃったら本末転倒なのである。
「いや。らくに、楽になってる」
「そう。痛かったら言って」
再び私はガイに取りつく。足を持ち上げ、重っ。
皮膚の保護にアンダーラップして、アンカー巻いてスターアップ、フィギュアエイトとぐるぐるぐるぐる。汗がー。体拭きが欲しいな。
ボトン。
洗浄魔法とか憧れてたんだけど、まんま使い捨て体拭きペーパー出てきた、とは。
それも医療用の介護用体拭きだ!
ついでにガイはテーピングテープで固定されると痛いのか痛みが消えるのかどっちかになるらしく、あふん、ふぅと、声が漏れる。なんかエロくてやりづらい。
それでも頑張って足が終われば、次は上体を持ち上げて肩? 腰を先に?
どうしようか。
「何やってんの」
「ガイに貼り付けているそれは何だ」
グレンとギードが馬車に乗り込んで来た。
良い所に来た、と思ったが、彼等は私がガイを害しているようにしか見えなかったようである。鬼の形相している。怖い。思わず硬いものに縋った。
膝を立てたガイの脛だった。
「ふふ。……だい、大丈夫だ。つま、妻の好きにさせ、させてやってくれ」
グレンはじっと私を見つめたあと、ギードの背中を叩いて馬車の外に出て行った。
ギードは叩かれた背中を撫でながらグレンが出て行った先を見てニヤついている。
「あいつは。意外と臆病なんだよな」
「臆病ですか? テーピングは人畜無害ですよ」
「違うって。あいつは触れないの。ガイ兄さんの体に触れて兄さんの今の状態がわかっちまったら、あいつは立ってられなくなるんだよ」
「それでガイを運ぶのはいつも」
「そう、俺。俺はグレンよりももっとガイに頼っているからね、最後の最後までガイにくっついていたいのさ」
ギードはしゃがみ、ガイの頬を甲で撫でる。
なんかまるでガイが死んでしまうみたいな感じだ。私と結婚させたことで、ガイは生きながらえるはずじゃなかったの?
それで、いつもニヤニヤ顔のくせに、なんで今はそんな泣きそうにも見える表情をしているの!
「て、手伝って。私じゃガイを支えられない。か、肩とか腰とかも巻かなきゃ」
「肩や腰にもその不思議なグルグルをするのか。それでそれはここにあった荷物か? 見た事無いってものは、ダンジョン産のアーティファクト? そんな高価なものを荷から発掘しちゃったのかな。やばいな。俺も逃げていい?」
「ダメ。このグルグルとか色々は、欲しいなって思ったら急に出てきた。ええと、私の能力みたい。欲しいなって思ったものが出てくるの」
「すごいな。出してみて。うーん、宝石とか金貨は?」
私はぎゅっと目を瞑り、おばあちゃんの帯留めを想像した。宝石と言えば大きな琥珀を加工したあれをイメージしてしまうのだ。母は獣医だからか、結婚指輪もケースに入れっぱなしだ。
…………出てこない。
私はもしかしたらとぱっと瞼を開けると、出て来いと望むものを変えた。
ガイが楽になる医療品。
肋骨を骨折や打撲した時に巻く、肋骨サポーター。
トタタン。
「出た!」
「うわお」
「ギード。ガイの上体を起こして。テーピングで痛みが消えるなら、このサポーターを巻いたら、折られた肋骨の痛みも楽になるかも!」
「よしきた!」
前話にアクションを戴いたので、本当はさらっと流すつもりだった場面を急遽書きました。




