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21-1 鬼神加藤清正と軍神源義経(前編)

古き世の軍神と、この時代の新進気鋭の猛将が安土城下でぶつかる。

いく度もの敗戦を経て、考え抜いた攻撃をしかける加藤清正。

その加藤清正の陣立てを見て、対応する義経。

新旧の名将の咆哮が、安土城下にこだまする。


■加藤清正の意地


頼朝軍の安土城進軍の報は、織田方にも届いている。しかし、頼朝軍迎撃のために近江へ派遣された織田軍主力部隊は、先の番場や姉川での敗北により、ほぼ壊滅状態。当主・織田信長自らが率いる本隊は、越前にて優位に上杉軍と対峙しているものの、直ぐには安土救援に引き返せない状況であった。


頼朝軍は、信長本隊が近江へ帰還する前に、そして、織田軍の再編が進む前に、安土城を攻め落とすべく、進軍速度を上げた。

安土城を、頼朝軍の新たな拠点とできるかどうか。それは、頼朝が目指す上洛、そして惣無事令発布の実現において、極めて重要な試金石であった。



安土城下。

最後の砦として、頼朝軍の前に敢然と立ちはだかったのは、加藤清正かとうきよまさ率いる、数千の守備隊であった。


加藤清正。彼は、羽柴秀吉が見出した若年の猛将。しかし、これまでの頼朝軍との戦いにおいて、幾度となく頼朝軍の前に現れては、その都度苦渋を舐めさせられてきた。


此度もまた、圧倒的多数の頼朝軍に対し、寡兵で立ち向かわねばならない。絶望的な状況であることは、清正自身が、誰よりも理解していた。それでも、彼の心は、全く折れてはいなかった。その双眸には、織田家への揺るぎない忠誠と不屈の闘志が燃えていた。


(…寡兵といえども、織田の名に懸けて安土を容易くは渡さぬ。この清正、ここで退けば武士の名折れよ……!)


清正「良いか、者ども!」


清正は、麾下の将兵たちに檄を飛ばす。


清正「あの忌々しい敵の騎馬隊は、先の戦いで、我らが追い払った!

今、眼前に迫る敵の主力は、鉄砲隊! 数を頼みに飛び道具のみで攻め寄せてくる、臆病者の集まりじゃ! 天下の織田軍が、舐められたものよ!


鉄砲隊なぞ、一度懐に飛び込まれてしまえば、赤子の手をひねるよりも容易い! 何としても、敵の足軽どもに取り付き陣形を崩す!」


清正の力のこもった咆哮は、兵一人一人にいたるまで響きわたっていた。


此度こそ我ら織田の意地を、骨の髄まで思い知らせてくれる! みなのもの、覚悟は良いな!」


「「「おおおおおーーーっ!!!」」」


清正の言葉に、兵士たちの士気が上がる。


挿絵(By みてみん)



■鬼神と軍神、激突


一方の頼朝軍は、安土城下に布陣を完了した。

先鋒を務めるのは、軍神・源義経率いる第三狙撃隊。その後方に、赤井輝子率いる第四狙撃隊、そして里見伏率いる第五狙撃隊が続く。


義経隊の鉄砲隊が、前方に布陣する加藤清正隊を、射程に捉えた。


義経「…放て!」


義経の号令一下、数千の鉄砲が一斉に火を噴いた。轟音と共に、おびただしい数の鉛玉が、清正隊へと降り注ぐ。


だが、次の瞬間。頼朝軍の将兵たちは、信じられない光景を目の当たりにした。


あれほど密集していたはずの加藤清正隊が、まるで蜃気楼のように、頼朝軍の視界から忽然と消え失せる。


清正「伏せぇぇーーーっ!!」


義経隊の一斉射撃の直前、清正はそう絶叫していた。


安土城に至る道は、細く長い街道が通るばかり、周囲は低い山と森に囲まれていた。加藤清正は、この地形を活かすべく、街道沿いに散在する屋敷や木立を『伏せ』の拠点として事前に抑えていた。頼朝軍の射撃に備え、身を隠す位置をあらかじめ全部隊に指示し、徹底させていた。


加藤清正は、これまでの苦い敗戦を通して、頼朝軍の戦い方、特に鉄砲隊の恐るべき威力と重き騎馬突撃を組み合わせた運用術を、その身をもって理解していた。清正は幾度も屈辱を味わい、眠れぬ夜を過ごし、ただひたすらに頼朝軍への対策を考え続けてきたのだ。


(此度、あの恐るべき騎馬突撃はない! 敵は大軍とはいえ、鉄砲隊のみ! ならば、勝機はある!)


清正は、この一点に、活路を見出そうとしていた。


清正「者ども! 敵の射撃が止んだ今じゃ! ただちに突撃!」


清正は自ら先頭に立ち、突撃を命じた。


清正「鉄砲隊に取り付きさえすれば、我らに勝機はある! 我らが意地を見せよ!!」


義経隊の第一列の一斉射撃が止んだ一瞬の隙を突き、加藤清正隊は再び雄叫びを上げながら、頼朝軍へと突撃を開始した。


頼朝軍は未来から来たトモミクから「早合はやごう」「三弾撃ち」等、立花宗茂が少し先の時代で考案した砲術を取り入れた。鉄砲の運用を試行錯誤していた他の大名に比べ、射撃と射撃の間隔は圧倒的に短い。


しかし、安土城へ続く街道は狭く、両脇には屋敷や林が点在していた。その地形こそ、清正が選んだ唯一の拠り所であった。頼朝軍は大軍であることの利点も制限され、横に大きく広がり、圧倒的な火力によって圧倒できない。


接近戦に弱い鉄砲隊にとって、防柵などの設置、槍隊や騎馬隊との連携は、本来必須であった。だが、頼朝軍の精鋭騎馬部隊は、先の長浜城、そして番場での激戦で、ほとんどが後方へと退いてしまっている。各狙撃隊にも、少数の騎馬隊や槍隊は配属されてはいるが、まとまった敵の突撃を押し戻せるほどの部隊ではない。


義経隊の第二射が放たれる寸前、加藤清正隊は頼朝軍が的を絞りきれないように巧みに部隊を分散させ、猛然と突進してくる。


清正隊の兵士たちは、多少の犠牲など全く意に介さぬかのように突撃を続け、ついに、頼朝軍の最前列へと取り付く。


清正隊に接近戦を許してしまった義経隊の最前列、組織的な抵抗はできず、ある者は白兵戦の餌食となり、ある者は恐怖に駆られて逃げ出し、またある者は慌てて引き金を引く。頼朝軍の先鋒は、一瞬にして混乱状態へと陥った。


その様子を目にして、義経は静かに呟いた。


(兵の数は多ければ良い、というわけではないが……我ながら、なんとも酷い崩され様じゃ……)


義経は、敵将・加藤清正の見事な戦術眼と、麾下の兵たちの勇猛さに、素直に感嘆していた。


(敵は寡兵ながら、まことに良き戦いをする部隊よ。しかし……!)


義経は、敵将の才覚に素直に頭を垂れたい思いすら覚えていた。だが、その敬意は、次の瞬間に鋭き策へと変わる。


挿絵(By みてみん)



■軍神の目


義経「前衛は左右へ散開! 中央を明けろ!」


その声が響くや否や、先頭の鉄砲隊は即座に後退しながら分離。

わずかの間に、街道中央に大きな空間が生まれる。


義経「騎馬隊! 中央より前進!

左右に散った敵兵を、各個に蹴散らせ!

騎馬隊も二手に分かれ、敵の側面からこれを突き崩せ!


後方の鉄砲隊は、騎馬隊に続き中央から前進!


敵が、もし中央突破を図らんと押し出してきたら、躊躇なく、三方向から一斉射撃を浴びせよ!


敵が左右に分散したままであれば、その側面から、援護射撃を行え!


さらに後方の狙撃隊(輝子隊、伏隊)は、部隊を五段に分け、いつでも射撃できるよう、待機せよ!」


見事な連携が生まれ、混乱しかけていた陣形が、息を吹き返す――


挿絵(By みてみん)



その動きを見た加藤清正は、思わず唸った。


清正「…おのれ! あの指揮官、ただ者ではない……!」


清正は、もはや退路がないことを悟った。


(ならば、この清正の武、その刃で軍神を討ち取るまでよ!)


お読みいただきありがとうございました。

加藤清正の選択肢を奪うべく、陣立てを変える義経、その義経の罠を直ぐに見抜く加藤清正。

次回、頼朝軍は織田軍の本隊が戻る前に安土城を攻略する事はできるのか!

お楽しみに!


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