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21-2 鬼神加藤清正と軍神源義経(後編)

死力を尽くした加藤清正。しかし義経は適切に対策を講じ、残酷なまでの精密な反撃を加える。

しかし、義経は清正の戦いぶりと漢気おとこぎに強い興味を示した。

戦いの後、義経は清正に静かに声をかける。


■決着


加藤清正は頼朝軍のあらたな陣形を目にして、もはや選択肢がないことを悟った。


今退却すれば、鉄砲隊の格好の的となる。

中央を突破しようとすれば、左右、そして後方からも、十字砲火を浴びることになる。

左右に分散した敵の鉄砲隊を攻めるのが、唯一の活路か。だが、それも中央から出撃してくる敵の騎馬隊と後続の鉄砲隊によって、側面を突かれる。ただでさえ寡兵である自軍の戦力を、分散させなくてはならない。


(狭い街道という地形を利用し、接近戦に持ち込むことがこちらの策であった。だが……敵の指揮官は、この限られた街道であるからこそ可能な、こちらの選択肢を完全に封じ込める陣形を、瞬時に構築した……!)


加藤清正は、頼朝軍の大将の恐るべき戦術眼に驚愕していた。


もはや、清正は残された唯一の選択肢、左右の鉄砲隊に対する決死の突撃を敢行する。敵陣にわずかでも隙が生まれれば、そこに活路を見出しさらに前進するか、あるいは退却の時機を計るしかない。


(だが、それすらも、あの指揮官には読まれているのであろうな……)


加藤清正は最後の可能性に賭け、決死の突撃を頼朝軍の左右両翼に続ける。


清正隊の死兵と化した猛攻を受け、頼朝軍の右翼は大きな被害を出し始めた。


挿絵(By みてみん)


しかし、その瞬間を待っていたかのように、頼朝軍の中央から騎馬隊が突出。二手に分かれた清正隊の側面から、猛然と攻撃を仕掛ける。


頼朝軍が保有する騎馬の数は、決して多くはない。だが、分散し、前面の鉄砲隊との戦闘に全力を注いでいた清正隊にとって、この側面からの攻撃は致命的であった。矛先を分散させられ、隊列は一気に乱れ始める。


義経は、容赦なく次の指示を部隊に伝えた。


義経「後方の鉄砲隊、前へ! 左右の敵部隊が射程に入り次第、ただちに撃て!


騎馬隊は、敵の後方へと回り込み、味方の射撃を避け、敵を完全に包囲殲滅せよ!


両翼の鉄砲隊は、立て直し、おのおのの判断で味方騎馬隊を援護しつつ、敵を掃討せよ!」


義経の的確な指示により、頼朝軍の騎馬隊と鉄砲隊は、見事な連携を見せた。

銃声と火煙が再び轟き、狭き街道を白く覆う。その白煙の向こうで、突き崩される清正隊の影が浮かび上がった。

前後と側面、全方位から攻撃を受ける形となった加藤清正隊は、もはや成す術なく、間もなく壊滅した。


完全に包囲殲滅され、逃げ道も塞がれた加藤清正は、ついに捕虜となる。


血煙と怒号が消え、ただ軍神の冷徹な采配だけが戦場を支配していた。

鬼神の猛攻を、軍神の策が呑み込んだ。


挿絵(By みてみん)



■軍神と鬼神の対面


義経「織田軍を率いていた武将、阿国殿はご存じか」


義経は、捕らえられ、縄打たれた清正の姿を見つめながら、副将の阿国様に尋ねた。


阿国「はい、義経様。あれは、加藤清正という、若くもなかなかの剛の者にございます」


阿国は答えた。


阿国「東美濃、そして那古野城の戦でも、我らに捕らえられましたが、その都度主君・信長様への忠節を貫き、我が軍門に降ろうとはしませんでした」


義経「さようであったか……」


義経はさらに興味深そうに清正を見つめる。


義経「此度は、我が軍の兵数が多かったがゆえに、勝つことができた。だが、もし互角の兵力であったなら……加藤清正に、突き崩されていたやもしれぬ。見事な戦いぶりであった。

どうにか、あの者を、味方に引き入れることは、できぬものだろうか」


義経の言葉を耳にして、阿国は微笑んだ。


阿国「義経様が、直接、お話しされてみては、いかがでしょう」


義経「……そうじゃな、たとえ味方にならずとも、あの加藤清正とやらと一度話をしてみたい」



義経は、副将である出雲阿国と、もう一人の副将、里を伴い、捕虜となった加藤清正のもとを訪れた。


頼朝軍の将らしき一行が近づいてくるのを目にした瞬間、清正は、ありったけの力で吠え始めた。


清正「おのれ! 早く、この首をねぬか! 幾たびも捕らえては逃し、生き恥をかかせるつもりか!」


清正の様子を目にして、なぜか嬉しそうに、義経は阿国に話かけた。


義経「…ふふ。阿国殿、あれはまるで虎じゃな。まこと、剛の者よ」


阿国「はい。しかし、ただ猛々しいだけでなく、知恵も働く御仁でございますよ」


義経「ああ、先の戦いぶりを見て、よく分かった」



吠える清正に近づき、はじめに口を開いたのは出雲阿国だった。


阿国「清正様、お久しぶりでございます」


清正「ん……? その声は……なんと、阿国殿ではないか! なぜ、貴殿が、このようなところに!」


清正は、驚きに目を見開いた。


阿国「今、わたくしは、こちらにおられる御二方にお仕えしております」


阿国は、義経と里を指し示した。


阿国「こちらにおわすは、我が主、源義経様。そして、こちらは、主君源頼朝様の、お娘御にあたる、源里様でございます。わたくしは、この義経様の部隊にて、鉄砲頭を務めておりまする」


清正「はっはっは! 何を馬鹿な!」


清正は、嘲るように笑った。


清正「捕虜にしたわしを、今度は戯言たわごとで愚弄しようというのか! まさか、このわしは、亡霊どもと戦って敗れたと、そう申されるか!」



今度は義経が、静かに口を開いた。


義経「源九郎義経と申す。…加藤清正殿と、お見受けいたす。


この時代において、拙者にまつわる、数々の心地よき伝説が語り継がれておるらしいが――もし、拙者がまこと亡霊であったならば、もっと良き戦い方ができたやもしれぬ。あれほど多くの兵を犠牲にすることなく、貴殿を捕らえることができたであろう」


義経は、真っ直ぐに清正の目を見据えた。


義経「だが、今ここに立つ拙者は亡霊ではない。この時代を生き、貴殿と真剣にやいばを交えた人の子だ。…そして拙者は、貴殿のあの見事な戦いぶりに、大いに感服いたした」


清正は義経をしばらく睨みつけていたが、表情を和らげ、阿国に目を移した。


清正「……ふん。戯言を申すような、軽々しい御仁では無さそうじゃな……」


清正は、疑いの目を向けながらも、少しだけ冷静さを取り戻したようだった。


挿絵(By みてみん)


お読みいただきありがとうございました。

この時代の猛将と古の軍神の戦いには決着がつきましたが、敵将同士、剣で交わし、言葉でぶつかる――

次章、義経の言葉を清正はどのように受け止めるのでしょうか。

お楽しみに!


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