20-1 番場の死線(前編)
越後の上杉景勝の出陣、長浜城の攻略――戦況は少しずつ頼朝軍に傾き始めている。
だが番場の最前線は、精魂尽き果てた桜に代わり、トモミクが矢面に立つ。背水の守りが続く中、本隊到着の時は刻一刻と迫っていた。
■頼朝軍増援、赤井輝子隊と武田梓隊
輝子は馬上から声を張り上げた。
輝子「頼朝様! ご無事で!」
清州城で後詰を務めていたが、長浜城の苦戦と番場の危機を聞き、じっとしてはいられなかったのだ。風を裂き、長浜城に入ると、頼朝の姿を見つけ、真っ直ぐに駆け寄った。
輝子「まずは長浜城攻略、お慶び申し上げます!」
本来は早期に長浜を落とし、清州からの増援を合わせて佐和山・安土を攻めるはずだった。
しかし現実は、姉川の砦・長浜城での激戦による大きな損耗と、番場での苦戦が重くのしかかっていた。
頼朝「輝子殿、よくぞ駆けつけてくれた!」
精強な頼光隊が離脱した今、輝子の合流は頼朝にとって何よりの朗報だった。
頼朝「番場の別動隊は、いまだ苦戦中。すぐにでも救援に向かわねばならぬ。
そなたが、こうして駆けつけてくれたことは、まことに心強い限りじゃ! そして、梓が、すでに佐和山方面へ向かってくれたことも、大義である!」
輝子「はっ! 我が隊は、直ちに次の戦場へ馳せ参じまする!」
頼朝は頷き、秀長に向き直る。
頼朝「早雲隊の被害も無視できないと、番場から伝えてきておる。早雲殿にも退却の指示を。
だが、番場にいるトモミク、里見伏殿、そして梓にはこう伝えよ――
『我ら本隊が番場に着くまで無理をせず、守りに徹せよ』とな。
我ら(頼朝隊、義経隊、輝子隊)が合流次第、砦を攻め落とす!」
秀長「ははっ!」
秀長は力強く応じ、早馬を放った。
■精魂尽きる源桜
その頃、番場の最前線。
源桜は荒い息を吐き、愛馬の鞍にしがみついていた。耳には兵の叫びと鉄のぶつかる音が渦を巻く。腕は鉛のように重く、汗は甲冑を貼り付かせる。
(まだ……まだ、退けない……)
歯を食いしばり、再び突撃を命じた。何度目かもわからぬ突撃である。
そこへ、北条早雲が騎馬を率いて駆けつけた。
早雲「桜殿! 退却じゃ!」
声は荒くも、目には労りが滲んでいた。
早雲「頼朝殿が長浜城を落とされた! 清州からの増援も間もなく到着する! ……桜殿、よくぞここまで持ちこたえた!」
桜「…父上が……それは、良かった……」
どれほどの時間、どれほどの数の敵と、ここで戦い続けてきたであろうか。安堵と同時に、力が抜けた。それは勝利の報せであり、自らの限界を悟らせる響きでもあった。
早雲の槍隊が前面に出て桜の騎馬隊を守る。安全圏まで下がったのを見届けると、自らも隊を後退させた。
■老将の心遣い
早雲は後方で鉄砲隊を指揮するトモミクのもとに馬を寄せる。
早雲「トモミク殿、我らはこれまでじゃ。頼朝殿のことは頼んだぞ!
そなたも無理をせぬように!」
トモミク「はい! 頼朝様が来られるまで、織田軍を通しません!」
頷くと、早雲は副将・谷衛友を探し声をかけた。
早雲「谷殿、どうであった、桜殿は」
衛友「はっ! まことにあっぱれなご戦いぶり! 苦境でも決して動じず、兵を鼓舞されておりました。逃げる者は一人もおらず、名将の器にございます!」
早雲「……そうであったか」
北条早雲は、満足げに頷くと、再び馬を走らせた。
(頼朝殿にも良い土産話ができたわい……だが、何より、あの娘が無事でいてくれたことこそ、わしにとっての戦果よ)
早雲は危険な役回りを桜に任命しながら、何かあった際には桜を守るように、副将の谷衛友には常に桜の傍らで戦うよう指示を与えていたのである。
■番場の死闘
頼朝隊、義経隊、赤井輝子隊は、長浜城方面の増援に向かっていた織田軍を各個撃破しつつ、琵琶湖沿いに南下を急ぐ。
そしてその頃――番場では、北条早雲隊の撤退後、トモミク隊が前面を押さえ、右翼に里見伏隊、遊軍として武田梓隊が後方に布陣する。三隊は互いの死角を補いながら、押し寄せる織田軍を必死に押し戻していた。
トモミク「これ以上、頼朝様に織田軍を向かわせるわけにはいきません!」
騎馬隊の早雲隊が抜け、射撃隊のみで編成されているトモミク隊は、間合いを詰める突撃を受け、前進と後退を繰り返す消耗戦を強いられていた。
時はすでに年が明け、天正十三年(1585年)。頼朝軍が近江へ出陣してから二ヶ月以上――将兵たちの肉体と精神は、限界に近づいていた。
お読みいただきありがとうございました!
次回、頼朝軍が番場に終結。近江突破の攻防が始まります。
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