20-2 番場の死線(後編)
苦戦を続ける番場の頼朝軍。しかし長浜城の落城により織田軍も、必死の突撃をトモミク隊に繰り返す。
不思議な力を持つ里見伏、武田の軍略を継ぐ武田梓、本格的に戦線に参画し、トモミク隊を助け、頼朝本隊の合流を待つ。
番場にて最後の瞬間まで譲らぬ攻防が続く。
■番場、崩されるトモミク隊
長浜城落城の報は、番場に集う織田軍を追い詰めていた。
「本隊到着前に、ここで頼朝軍を潰せ!」
必死の突撃が、すでに陣形を崩し始めたトモミク隊へ集中する。
トモミク「皆さん! 頼朝様が合流してくださいます! あともう少しです!」
トモミクは、必死に麾下の将兵たちを鼓舞する。
耳は絶え間ない銃声と怒号に満たされ、焦げた火薬の匂いが鼻を刺す。視界の端では、敵兵の影が波のように押し寄せ、仲間が次々と倒れていく。握る火縄銃は汗で滑り、引き金を引くたびに腕が痙攣しそうだった。
(……まだ、退けない)
その思いだけが、重くなった身体を戦場に縛りつけていた。
織田軍のトモミク隊への集中攻撃を見て、里見伏は副将の犬坂毛野に声をかけた。
伏「こちらの損害どうですか」
毛野「伏姫、トモミク隊に攻撃が向けられているので、こちらに向かって来る織田軍は楽に蹴散らせるようになりました。部隊をわけますか?」
伏「さすがは毛野ですね。ここは道節に残ってもらい、織田の攻撃を食い止めていただきましょう。私たちは別動隊を率いてトモミク様の援護に。トモミク様も限界でしょう」
毛野「はい!」
力を振り絞ってトモミク隊への一点突破を狙った織田軍、それによって生まれた隙を里見伏は見逃さなかった。
戦場を一瞥した伏は、織田軍の縦列の脇腹を鋭く見据え、「毛野、放ってください」と静かに、しかし確実に伝えた。
次の瞬間には銃声が轟いた。
里見伏隊の側面からの斉射で、織田軍の突撃の勢いが弱まった。
そこに里見伏自らが率いる槍隊の旗が翻った。常に物の怪のごとき強さを発揮して頼朝を守って来た里見伏自ら率いる死兵達、織田の縦列を分断していく。
戦況を後方から見ていた武田梓。
梓「我が軍も戦線を上げます」
梓の指示に対して副将の弥助、織田信長の近習から頼朝軍にいちはやく合流した屈強な大男、大柄な姿に似合わず不安そうな表情を梓に向ける。
弥助「我らは遊軍として指示があるまでは待機するように言われておりますが……」
梓は弥助を見上げ、微笑む。
梓「ふふ、見かけによらず律儀な副将さんですね、弥助殿は。
でも今は温存より援護が先です。私たちの部隊で簡単に仕留められる敵も、今のトモミク様には難しいでしょう」
弥助「さすがは武田の軍略を継ぐ梓様、拙者の浅はかさを恥じ入るばかりでございます……」
梓「いえ、私は新米大将ですので、具申は絶やさずにお願いしますね」
梓は終止笑顔で弥助とやり取りをしていた。
しかし目前の戦場に眼差しを戻した瞬間、梓の表情が一変した。
梓「隊列を整えトモミク様の部隊に合流します。わが槍隊は伏様と共に敵の分断部隊を叩きます!」
トモミク「伏姫、梓様……!」
トモミクは里見伏隊と武田梓隊の温存のために歯を食いしばって最前線を陣取っていたが、もはや部隊の弾薬も尽きかけ、兵も自分自身も気力を上回る疲弊に襲われていた。しかし、里見伏隊と武田梓隊の本格的な介入で、戦線は安定しはじめた。
そこに、トモミクのもとへ、待望の早馬が届いた。
伝令「申し上げます! 琵琶湖沿いを南下してきた頼朝様本隊、ついに番場の織田軍に対し、攻撃を開始いたしました!」
トモミク「……! 頼朝様……!」
トモミクは、思わず天を仰いだ。
トモミク「……来ていただけたのですね……!」
彼女は、すぐさま後方の部隊へ指示を出す。
トモミク「伏姫、梓様に、ただちに伝えてください! 『前面の敵へ、総攻撃を開始する』と!」
■頼朝軍、逆襲
ついに、頼朝軍は番場に布陣する織田軍に対し、北と東の両方面から、挟撃できる態勢を整えることができた。頼朝軍本隊が、琵琶湖沿いに北から、そして、これまで防戦一方であった東からも、トモミク隊、里見伏隊、武田梓隊が、一斉に反撃を開始する。
戦況は、一気に頼朝軍へと傾いた。
挟撃を受ける形となった織田軍は、支えきれずに大きな損害を出しながら、番場に築かれた砦の中へと、次々と引き上げていく。そこを里見伏隊が執拗に追撃、退却する織田軍は“物の怪”里見伏隊に吞み込まれるように、次々と倒されていく。
頼朝「全軍、番場の砦へ攻めかかれ!」
頼朝の号令一下、頼朝軍全軍が、鬨の声を上げ、番場の織田軍砦へと怒涛の如く攻めかかる。
砦内に立てこもった織田軍は、トモミク隊・伏隊・梓隊の予想外の激しい抵抗と、頼朝軍の激しい追撃により、集結した頼朝軍と渡り合える戦力は残されていなかった。
頼朝隊と赤井輝子隊が持ち込んだ大砲による砲声。
砦門が砕け、破片が空を舞う。
土煙の中から伏の槍隊が雪崩れ込み、織田兵の列を突き崩す。
鬨の声が番場を震わせた。
頼朝軍は、織田軍の重要防衛拠点、行く手を阻み続けてきた番場の砦を、ついに陥落させた。
番場付近に布陣していた織田軍の増援部隊も、砦も数的優位も失い、ことごとく壊滅、あるいは退散していった。
天正十三年(1585年)一月。
頼朝軍は、近江の要衝・長浜城、そして、それに続く重要な戦略拠点である番場の地を、完全に制圧下に置くことができた。
京への道が、一歩、開かれた瞬間であった。
お読みいただきありがとうございました。
何とか長浜城、番場の砦を落とす事が出来た頼朝軍。
次回、傷ついた部隊を休ませるために退くか、このまま進むか、頼朝軍は決断を迫られます。
お楽しみに!




