7-1 東美濃進軍と未来の影
信濃救援を終えた頼朝軍。次なる目標は、東美濃三城の制圧。だが、織田の反攻も始まろうとしていた――。
■軍議:東美濃攻略作戦
南信濃・飯田城下。
頼朝軍は、急ぎ美濃への帰還準備を進めていた。
その帰途には織田方が押さえる東美濃の城々――苗木、岩村、鳥峰――が立ちはだかる。
今後、弱体化した武田家を支援するためには、東美濃から援軍を送る必要がある。避けて通れぬ場所ならば、この機に制圧するしかない。
だが、西方では織田本軍がいつ動き出すか分からない――時間との戦いでもあった。
進軍計画の軍議が開かれ、秀長が地図を広げる。
秀長「先の軍議にて方針が定まりましたように、此度は、苗木・岩村・鳥峰の三城を急ぎ落としつつ、美濃へ戻ります」
秀長は地図上の城を指さした。
秀長「苗木城はまず全軍で包囲し、早期降伏を目指す。
続く岩村城と鳥峰城については、軍を二手に分け、同時攻囲を試みます。
具体的には――
岩村城へは、最も消耗の激しい頼光隊と、損害が少ないトモミク隊、
鳥峰城へは、同様に消耗が激しい赤井隊と、ほぼ無傷の頼朝様の部隊、
――という分担で如何でしょう」
頼朝は秀長が示した地図を眺め、口を開いた。
頼朝「秀長の提案の通りとしよう。
ただし苗木の先陣には、わしとトモミク隊が立とう。
頼光隊と赤井隊は後詰に回って兵を温存し、後の岩村・鳥峰に備える」
「「はっ!」」
軍議に参加する各部隊長が声を揃えて頷く。
■トモミクと語る未来
各部隊が出陣準備に追われる中、トモミクは飯田城の改修工事を眺めていた。いつも微笑むトモミクとは異なる、物憂げな眼差しだった。
当初会ったばかりのトモミクは、常に笑顔を絶やさぬ不思議な女性と思っていた。しかし最近はこのようなトモミクの浮かない表情を目にすることが多かった。
(東美濃攻めは、やはりトモミクの本意では無いのだろうか……)
頼朝「トモミク」
頼朝はそっと呼びかける。
頼朝「そなたも、阿国殿も、われらの使命は“守る”こと、と言っていた。今回の東美濃攻撃は我らから仕掛ける戦となる。本当に良いのか?」
トモミクは背を向けたまま、少し間を置いて振り返った。その瞳には、やはりかすかな翳りがあるように見える。
トモミク「……頼朝様。わたくしが知っていた“未来”は、あくまで頼朝様がいらっしゃらなかった時の流れ。
時の流れは変わりました。ここからの未来は、頼朝様のお心次第なのです。
ですが、『滅ぼさない』という原則は変わりません。
織田も徳川も、そして私たち自身も……何より頼朝様には、生きていていただかなくてはなりません」
最後の言葉を紡いだとき、彼女の表情がさらに曇ったように頼朝には見えた。
(何か大きな秘密を抱えているのか……)
しかしトモミクはそれ以上語らない。
東美濃を攻略する事に対しては、賛成も反対もしなかった。
頼朝は前に進むしかないと考えた。
頼朝「武田を救うためじゃ――
それに、一刻も早く美濃へ戻らねば。皆も待っているだろう」
トモミク「はい、頼朝様」
一瞬浮かんだ翳りは消え、彼女はいつもの掴みどころない微笑みに戻っていた。
■苗木城攻略と二方面進軍
天正九年(1581年)八月末、頼朝軍は飯田城を発つ。
九月に入る頃には苗木城を包囲し、頼朝軍が期待していたように、少なくなった城兵は大軍に包囲され、降伏を選んだ。
苗木城落城後は、秀長の作戦通り、軍を二手に分ける。
トモミク隊&頼光隊は岩村城へ、頼朝隊&赤井隊は鳥峰城へ――。
だが、部隊分割をして間もなく、急報が駆け込んできた。
伝令「織田の大軍三万が犬山城を目指し、進軍中!さらに、続々と清州に向けて集結しているもよう!」
頼朝「……やはり動いてきたか!」
頼朝は渋面をつくり、秀長に視線を投げる。
頼朝「先の戦では完膚なきまでに織田を叩いたのだが……恐るべき国力よ。秀長、このまま東美濃を捨て置いて戻るべきか、そなたの考えはいかに」
秀長「頼朝様、今や西方は義経殿、早雲殿、道灌殿にお任せいたしましょう。我らはこの機に何としても、この岩村・鳥峰の二城を速やかに落とし、美濃へ戻る以外にございませぬ!
あらためて東美濃攻略をしたとしても、西から織田に狙われる事は同じでございましょう。
苗木城を落とした今、あと城は二つ!」
秀長も苦々しく告げる。
頼朝も内心で美濃の無事を祈りながら、東美濃攻略を継続する決意をあらためて固める。
頼朝「皆のもの、目の前の城を叩き、急ぎ犬山へ戻るのだ!」
(義経、早雲殿、道灌殿……頼むぞ!)
苗木を落とし、進軍する頼朝軍。しかし、織田は大軍を動かし、犬山へ迫る。義経・早雲らの守りと、頼朝の決断が試される――。




