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幼馴染みは色気がだだ漏れらしいのですが、私にはわかりません。  作者: 燈華


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カティラス侯爵家の夜会後ーマティスの心配

「アナ、大丈夫だったかい?」


翌日の朝一番でマティスが屋敷を訪れた。

余程心配したようだ。


「大丈夫だったわ」

「本当に? ユリウス・カティラス侯爵令息やカティラス侯爵令嬢に絡まれたりしなかったかい?」

「挨拶しただけよ。ご家族と一緒だったから大丈夫よ」

「本当に?」


まだ疑っているようだ。

ユリウス・カティラス侯爵令息やカティラス侯爵令嬢の信用は本当にゼロのようだ。


「挨拶だけよ。その時はお兄様やロン、ヴィーも一緒にいたから何もなかったわ」


じっとマティスがアナスタシアを見てくる。

何か誤魔化しているとでも思っているのだろうか?

そんなことはしていない。

だからアナスタシアは静かにマティスを見返す。


しばらく無言で見つめ合っていると、ふっとマティスが息を吐いた。


「アナの言葉を信じるよ」

「ええ」


よかった。信じてくれた。

マティスに余計な心配はかけたくなかった。

あの二人がマティス絡みでアナスタシアに接触してくるのをマティスは随分気にしていたようだから。

マティスのせいではないのに。


勝手にマティスに狙い定めて近寄ってくる向こうが悪い。

アナスタシアの脇が甘く見えるのは、まあアナスタシアのせいだ。マティスのせいではない。

だから気にしないでほしい。


そして彼らは本当に近寄らないでほしい。

さっさと興味が別に移ればいいのに。


ふと思い出す。

このことも伝えておいてあげよう。

知っていたほうが安心できると思う。


「マティスのことは諦めるように言われていたわ」

「誰に?」

「長兄の方よ」


マティスが瞬きをする。

理解が追いつかなかったのかもしれない。

ちょっと唐突すぎた。


マティスは軽く首を傾げた。

侍女がさりげなく視線を逸らし、静かに遠ざかる。

それをまったく気にせずにマティスは口を開いた。


「どうしてそんな話の流れに?」

「マティスのことが話題に出たのよ」


マティスの眉根が寄る。


「何故?」

「カティラス侯爵令嬢がマティスは来てないのかと訊いたからね」


マティスの眉根がさらに寄る。


「僕はきちんと断りの返事を出している」

「大丈夫よ。きちんとそれは伝えておいたわ」


誤解されていたらマティスだけではなくバレリ家全体の評判に関わる。

まともな教育もしていないのかと。


夜会欠席の許可書をもらっているがそれが傲慢にしているのでは、と変な勘繰りまでされかねない。


「ありがとう、アナ。助かったよ」

「当然のことだわ」


マティスが出席できない以上、友人であるアナスタシアがマティスの名誉を守るのは当然だ。

マティスは嬉しそうに微笑む。


アナスタシアもマティスの役に立てて嬉しい。

いつもどちらかというとアナスタシアがマティスに世話をされている部分のほうが多い。

だから役に立てることは嬉しかった。


マティスが話を戻した。


「それでさっきの話はどういうこと?」

「さっき?」

「僕のことを諦めるように言われていたというやつ」


さすがに少し唐突だったかもしれない。

アナスタシアは頭の中で言葉をまとめる。


「マティスの色気の話になってカティラス様の耐性は低いと告げておいたのよ」


事実、そうなのだ。

だからこそマティスの身の安全と名誉のために近寄らないでほしい。

勝手に近づいてきて何かあったら困るのだ。


例えばマティスの色気に当てられて動けなくなったカティラス侯爵令嬢を介抱する振りをして毒牙にかけるとか。

直接的にマティスが何かしていなくても批判はマティスにも向くだろう。


今まで以上に危険視されるかもしれない。

それは避けたいのだ。


それに、自分の色気を厭うているマティスも傷つく。

それが何より嫌だった。


「まあ確かに耐性は弱かったね」

「ええ。それを伝えたら長男の方が(いさ)めてくださったわ」

「それで言うことを聞くのかい?」


マティスは懐疑的だ。


「結構強めの口調で諌めて約束してくださったわ」

「それならあまり期待しないで期待しておくよ」

「それは期待していないってことじゃないかしら?」

「うーん、そうなったら儲けもの、くらいかな」


確かにそのくらいの心持ちのほうがいいかもしれない。


今でもあの長男は二人のことを抑えられてはいない。

いくら本気で怒ったところで二人が言うことを聞くかはわからない。

しばらくは大人しくしておいてほとぼりが冷めた頃に、というのも十分考えられる話だ。


「そう。そのほうがいいかもしれないわね」

「そう。期待しすぎないほうがいいからね、こういうことは」


それならアナスタシアも納得できる。


「それはそうかもしれないわね」

「そうだよ。期待していて駄目だった時が危ないからね、こういうことは」


マティスの言葉には説得力があったので素直に頷く。


「その長男には感謝するけど、全面的に信用するには、僕は会ったこともないしね」

「あ、そうよね」


マティスからしたらそう言っていたと聞いたところで信用できるか判断できないだろう。

そのことを失念していた。

アナスタシアは会ったからこそ言えることだった。


アナスタシアが納得したのを見て取ったのだろう、マティスは一つ頷くと真剣な顔になった。


「とにかくアナはあの二人には近づかないこと」


これが一番言いたかったことなのだろう。

長い付き合いだ。それくらいわかる。


アナスタシアはぷくっと少しだけ頬を膨らませる。

淑女らしからぬことだとはわかっていた。

こんなことはマティスの前でしかやらない。


「私だって関わるつもりはないわよ」


アナスタシアだって本当に関わりたくないのだ。

カティラス侯爵令嬢はともかく、ユリウス・カティラス侯爵令息は勝手に寄ってくるのだ。

カティラス侯爵令嬢のように無視してくれればいいのに。


ころころと転がされるくらいなら眼中にないほうがましだ。

それなら近寄られることもないのだから。


ただ単にマティスへ接触したいからユリウス・カティラス侯爵令息はアナスタシアに近づいてくるのだ。

いくらアナスタシアが世間慣れしていないとは言ってもマティスのことに関しては別だ。

絶対にマティスに近寄らせない。

情報だって与えるつもりはない。


アナスタシアだってやる時にはできる子なのだ。

うん、と心の中で頷く。


「心配だな。ロンにも改めて頼んでおくよ」


心配そうにマティスは言う。


「え? 私は大丈夫よ」

「うん、アナは自分できちんと対処できると思うよ。でも心配だから」


一応アナスタシアを立ててくれるような発言はしているが、信用はされていないようだ。

今の状況を見れば仕方ないのかもしれない。

近寄らないように言われていても接近を許してしまっている。


「……そうね。ロンも協力してくれたら安心だわ」

「うん」


マティスの表情が緩む。


「アナを信用していないわけじゃないよ。でも僕の安心のために我慢して」

「ええ」


そう言われればアナスタシアは頷くしかなかった。


「ありがとう」


マティスがほっとしたように微笑(わら)った。


まあこれでマティスが安心できるのなら。

アナスタシアには結局それが一番大切なことなのだ。


読んでいただき、ありがとうございました。


ファビアン・グロス伯爵令息

ファビアン・カティラス侯爵令息

と名前がかぶってしまったため、グロス伯爵令息の名前をリーヌスに変更しました。該当箇所は変更してあります。

ご了承くださいませ。

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