カティラス侯爵家の夜会後ーカティラス侯爵家次男と三男3
「それでどうなんだ? 知り合いなのか?」
誤魔化されないと再度問うた。
次兄は小さく溜め息をついた。
恐らくだが煙に巻いて話を終わらせる気だったのだ。
それほど話したくない何かがあるのだろうか?
まさか……と思いかけて先程の冷たい視線を思い出す。
さすがにアナスタシアと特別な関係にあるということはないだろう。
「そもそもお前がバレリ伯爵令息を諦めればいいだけの話ではないのかな?」
次兄はきちんと話の流れを覚えていたようだ。
「今の段階ではなしだな」
考えることなく口から出る。
「向こうは嫌がっているのだろう?」
次兄はどこまで掴んでいるのだろうか?
じわりと警戒してしまう。
次兄は小さく溜め息をついた。
「無理強いしないところはお前の美点だと思っていたんだけどね」
「……別に無理強いはしていない」
そもそも手も出していない。
少し話しただけだ。
最後は色気にやられてしまったが。
あの色気を思い出すと今でもうっとりとしてしまう。
せめてもう一度あの色気を浴びてみたかった。
あの時は余裕がなかったが、もっとじっくりと味わってみたい。
彼はどこまで色気を増すことができるのだろうか?
最大限まで高めた色気を浴びてみたい。
どうなるのだろう?
想像できないからこそ味わってみたいのだ。
うっとりとしていると次兄の冷たい視線を浴びせられた。
「何を思い出しているかは知らないが、嫌がる相手に手を出すのは感心しない」
声までも氷点下の冷たさがある。
「手は出していない」
手も足も出なかったというのが正しい。
誘ってみたがまったく靡かなかったのだ。
そのうえ、彼の色気をまともに浴びて動けなくなってしまった。
さすがに腰が砕けるようなことはなかったが、それに近い状態ではあった。
あんな経験は……とこれ以上は実の兄の前で思い出すことではない。
「そう」
淡々としたその声からは信じたかどうかはわからない。
「どのみち嫌がっているのならもう近寄らないでやりなさい」
それは、マティスに対してだろう。
だがマティスのことを諦めるのであればアナスタシアに近寄る必要はない。
だからまるで遠回しにアナスタシアに近寄らせないようにしているように聞こえる。
穿ち過ぎだろうか?
だがマティスこそ次兄は接点がないだろう。
だとしたら本当に近寄らせたくないのはアナスタシアにだろう。
本当にどういう接点があるのやら。
だがここで次兄の思惑通りにするわけにはいかない。
それは望みの糸が断たれるに等しい。
マティスはあの色気のせいでほとんど夜会もパーティも出席しない。
家としての付き合いもない。
マティスや周囲が警戒している以上、どこの夜会やパーティに参加するかなどの情報は入ってこない。
唯一脇が甘そうなのがアナスタシアなのだ。
アナスタシアをつつけばいろいろ情報は取れるだろう。
ユリウスは警戒されているが、アナスタシアの警戒心など何ら問題にならない。
いくらでもころころと転がして情報は取れるだろう。
だがそれも接触できれば、の話だ。
そもそも接触できなければどうにもならない。
アナスタシアの周囲は警戒心が高い。
彼女自身が隙だらけだからだろう。
一応警戒心は持っているようだが、まだまだ甘い。
まだ学園に入学したばかりだから仕方ないと言えば仕方ないことだ。
たからこそユリウスにも付け入る隙がある。
いくら周囲が気をつけていても四六時中一緒にいられるわけではないのだ。
だがそこにさらに長兄次兄が加われば……面倒このうえない。
ユリウス側の行動が制限される。
学園に入学したばかりの令嬢に浮き名を流しているユリウスが付き纏っているとなると外聞が悪い。
悪になるのはユリウスで、分も悪くなる。
さすがにそこまでいってしまえばまずい。
答えないユリウスを冷ややかに見て次兄は言葉を重ねた。
「向こうはその気持ちは微塵もないのだろう?」
「それは……」
痛いところを突かれた。
「あくまでも聞いた話からの推測だが彼はどちらかというとそういうのは忌避していそうだよ」
人に関心のないくせにそういうところは嫌になるくらい正確に見抜く。
確かにマティスからはそういうことを忌避しているような気配を感じた。
幼い頃からあの色気ならいろいろと嫌な思いもしてきたのだろう。
身の危険を感じたことだって多いだろう。
それはわかる。
だから忌避しているのだろうことも。
嫌な記憶しかないのなら当然だろう。
幸いなことに身を汚されたことはないようなのでそれはほっとしている。
体を重ねることは無理矢理することではない。
色気に惑わされたなどというのもただの言い訳にしかならない。
無理矢理体を重ねることは言語道断だが、同意のもとなら変わってくる。
それすらも拒絶しているようだが、それは知らないだけでもあるのだろうと思う。
一度知れば、堕ちるかもしれない。
まあ、さすがにそこまでは望んでいない。
ただ一度だけでいい。
一度だけでいいから骨の髄まで味わってみたい。
ただそれをここで口にすれば次兄に冷たい視線を受けそうだ。
何としてでも意識を逸らさなければ。
そもそもまだ次兄とアナスタシアの関係も聞いていない。
うまく話を逸らされていることに気づいた。
やはり何かあるのだろう。
知られたくない何かが。
「そうかもしれないが、今はマティスのことは関係ない」
「そう。じゃあもういいかい?」
次兄は話を終わらせようとしている。
ユリウスの質問には答えずに。
「いや。今度こそきちんと答えてほしい」
次兄の目がほんの少し細まった。
ユリウスは次兄を見据え、口を開いた。
読んでいただき、ありがとうございました。
すいません、もう一話だけ続きます。




