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幼馴染みは色気がだだ漏れらしいのですが、私にはわかりません。  作者: 燈華


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カティラス侯爵家の夜会後ーカティラス侯爵家次男と三男2

「待ってくれ、ファビー兄上。まだ話は終わっていない」


一瞬舌打ちされたような気がするが、気のせいだろう。

次兄がそんな行儀の悪いことをするはずがない。


「話は済んだと思うけど?」

「いやいや肝心なことが聞けていない」


次兄が首を傾げる。


「肝心なこと? ユリウスは誰がダラス侯爵令息とモワ伯爵令嬢を招待したのか知りたかっただけじゃないのか?」

「それは、そうだが」

「なら話は終わりだよね?」

「いや、知りたいことができた」


次兄が少し目を細めた。

負けないようにと見返す。

ここで負ければ次兄はさっさと立ち去るだろう。


ダラス侯爵令息とモワ伯爵令嬢を呼んだのはこの次兄だった。

それはアナスタシアのためだ。

訊きたいのは何故次兄がそこまでしたか、だ。


この次兄はあまり誰かのためにと積極的に動くタイプではない。

考えられるとしたら知り合いだ、というくらいだ。

家としての付き合いはなくとも個人的な知り合いという可能性はある。


年齢差もあるし、接点など見出だせはしないが。

ただ次兄にしろ、アナスタシアにしろ、どんな付き合いがあるのかユリウスは知らない。

思いがけず誰か共通の知人がいるのかもしれない。

二人の性格からいってもユリウスと交遊関係が(かぶ)ることはないだろうから本当に見当もつかないのだ。


これは訊いてしまわないとわからない。

だから疑問をそのままぶつける。


「ファビー兄上はアナスタシアと知り合いか?」


次兄の目が一層厳しさを増す。


「呼び捨てにできるほど親しいのかい?」

「いや、そこまでじゃあ……」

「なら呼び捨てはやめなさい」


いちいち正論で反論ができない。

だがここは頷くつもりはない。

今さらクーパー嬢と呼ぶには違和感しかない。


これはマティスのことは関係ない。

もちろん狙っているというわけでもない。

あんなお子様はユリウスの範疇外だ。


「ユリウス?」

「……気をつける」


次兄は一つ頷く。

なるべく名前を出さずに話を進めよう。


「それで知り合いなのか?」


訊きながら次兄の表情の変化を見逃さないようにじっと見ていた。

だが残念ながら表情に変化はなかった。

一拍空けて次兄が逆に問い返してきた。


「……何故そう思う?」

「ファビー兄上はそこまで人に興味を持たないだろう。アナスタシアのためにそこまで動くのは知り合いでもない限りおかしい」

「だから呼び捨てはやめなさい」

「そうやって誤魔化さないでくれ」

「何故そんなことが知りたいんだい?」

「ファビー兄上の態度が怪しいからだな。まさか、狙っているのか?」


言った途端それはもう冷ややかな視線を向けられた。

視線だけで凍りつきそうだ。

まさかそこまでの視線を向けられるとは思わなかった。


「お前と一緒にしないでくれ」

「……俺は別にアナスタシアは狙っていない」

「それならば近寄らないでやりなさい。彼女に良からぬ噂が立ったらどうするんだい?」

「それは……。だが、俺には俺の目的が……」

「それは、バレリ伯爵令息のことかな?」


的確に言い当てられて驚く。

この兄はそれほど他人のことには興味はないはずなのに。


「ファビー兄上、何故それを?」

「お前が夜会でちょっかいをかけたと噂になっていたからね」


そんなの今さらだ。

それをこの兄が気にするとは思えない。


「"今回はさすがに弟君も完敗だな"とわざわざ図書室まで揶揄(やゆ)しに来た者らがいたからね」


次兄は王城にある図書室に勤めている。

王都には別に国立の図書館もある。


「あー」


思わず天井を見上げる。

恐らくユリウスのことが嫌いな誰かだろう。


ユリウスのほうに来ればいいものを、次兄の職場に押しかけた者がいたようだ。

何とも迷惑な話だ。

ファビアンにとっても迷惑でしかないだろう。


ユリウスは次兄に視線を戻して頭を下げた。


「悪い。迷惑をかけた」


軽く手を振られたので顔を上げる。

次兄は家族から見て実にいい笑みを浮かべた。


「図書室の要注意人物のリストに入れておいたから大丈夫だ」

「そ、そうか」


それは後々効いてきそうだ。

例えば、急遽調べものをしなければならなくなった時とかに。


要注意人物のリストに載るとその度合いによって閲覧申請に時間がかかったり、閲覧に制限がかかったりするのだ。

王城の図書室というのは重要な資料が集められており、閲覧許可が必要なものもあるのだ。


そこまで考えずに無関係な次兄に図書館で絡むとは馬鹿な奴らだと思う。

恐らく大人しい人間だとでも思っているのだろう。


次兄は物静かで面倒臭がりだが、決して何をやられてもやり返さないタイプではない。

自分の大切にしているものを守るためなら手段を選ばない過激なところがある。

しかも気づかれないように実行するのだ。


図書室の静謐さは次兄の愛するものの一つだ。

それを私利私欲のために侵したのだ。

その報いは自分たちの身で受けるべきだ。


そもそもユリウスのことに対して次兄は関係ないのだ。

次兄を巻き込むほうが悪い。


それに喧嘩を売るなら相手がどういう人間かというのは知っておくべきだ。

その事前調査を怠ったのだから自業自得だ。


それに、世の中喧嘩を売ってはいけない人間というものはいるのだ。

そのことに気づかずに喧嘩を売る馬鹿には同情する気にもなれない。


次兄は尚もにこやかに微笑(わら)って続ける。


「用もないのに図書室に来て騒ぐのは他の利用者にも迷惑だからね」


次兄はきちんと正当な理由までも用意してある。


「それはそうだな」


同情の余地はない。

するつもりもないが。


誰が聞いても正当だと思うだろう。

思わなければ……同類だと思われるだけだ。


文句など言おうものならその者も静かに要注意人物リストに載せられるだろう。

本人に知られることなく。

次兄はそういう人物だ。


「だからお前が気にすることではないよ。まあ少しは自重してほしいけどね」

「ファビー兄上に迷惑をかけないように気をつける」

「うん」


次兄は満足そうに微笑(わら)う。


「それじゃあおやすみ」

「おやすみ……って待ってくれ」


つい流されかけてはっとする。


「それでどうなんだ? 知り合いなのか?」


誤魔化されないと再度問うた。

読んでいただき、ありがとうございました。

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