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73話 魔物使い対魔物使い

 ヴォフォスが掲げるペンダント。

 そこから現れたのは、三体の巨人だった。


 ミスリルゴーレム。

 これも古い文献にしか出てこない、今は亡き魔物である。


 その身体は鋼よりも固く、その力は容易く岩を砕く。

 動きは鈍重だが簡単にあしらえる相手でもない。

 こんな骨董品をどこから連れて来ているのか。


「お前のペンダントは博物館かなにかか?」


 嫌味を言いつつ俺は臨戦態勢を取る。

 だが後ろにいた僧侶が、不意に声をあげた。


「風の魔技を使う魔人に心当たりはないですか?」


 俺ではなくヴォフォスへかけられた問いだろう。

 風の魔技。

 それは僧侶が得意としているものだ。


「父親に会いたいのか?」


 なので俺は、視線を前から逸らさぬまま僧侶に問う。

 魔人と人間のハーフである僧侶。

 恐らく父から受け継いだであろう風の魔技。

 それを使う魔人を訊ねるならば、その理由は父親探し以外にありえない。

 だが僧侶が答えるまえに


「風の魔技を使える魔人族か。聞いたこともない」


 と、意外と律儀な魔人族が面倒そうに答えていた。

 それを受け、ふぅっと後ろからため息が漏れる。

 思えば魔人などと相対することはまずない。

 僧侶は、これを千載一遇と見て追いかけて来たのだろう。


「そうですか……。

 じゃあ破壊王さん。後はよろしくお願いしますね」

「あ?」


 声を掛けられたので振り返れば、すでに僧侶は浮かび上がっている。


「後はって、お前は!?」

「上へ戻ります。仲間と精霊様が心配ですので」


 そのままぐんぐん上昇していく彼女。

 この状況でずらかるとは何て女だ!

 俺一人に面倒を押しつけやがって!


「ぴぎぃ!」


 頭の上のスー子が「一人じゃないぜ!」と励ましてくれた。

 さすが相棒である。

 もう米粒ほどの大きさになっている僧侶を一瞥し、俺は魔人に向き直――。


 ドゴンッ!


 る前に殴られて吹き飛ぶ俺。


「んぐッ!」


 ダメージはさほどないが圧力が凄まじいミスリルゴーレムの一撃。

 軽々と吹き飛ばされた俺は、そのまま大樹の幹へと打ち付けられていた。

 その衝撃だけで大樹が軋む。

 常人ならば、これだけでぺしゃんこだっただろう。


「どいてろ雑魚がッ!」


 次いで殴りつけてくる巨大な拳。

 それに自分の小さな拳を合わせる。


 ――ビシッ!


 力比べで俺が負ける筈も無い。

 俺の拳はミスリルゴーレムの拳を砕き、深々と腕の中まで刺さっていた。


 だがそれを抜き取ろうと、俺の動きが止まった刹那。

 横合いから、別のミスリルゴーレムが両手を束ねて打ち下ろしてきた。

 防ぎたくても、俺の腕はまだ最初のゴーレムの拳に埋まっている。


「くそッ!」


 衝撃に備え全身を硬直させた。

 そこに打ち下ろされた巨大な拳。

 いや鋼の岩塊は、ドゴンッと凄まじい衝撃音を放ちながら俺ごと地面を深く抉った。


「がは……っ!」


 さらに追撃と、ミスリルゴーレムが腕を振り上げる。


 やらせるかよ!


 先の衝撃で引き抜けた俺の腕。

 その腕で、再度振り下ろされる岩塊を思いっきり弾き飛ばす。

 とてつもなく硬い奴の腕。

 しかし硬いということはダメージを逃がせないということでもある。


 そのままミスリルゴーレムの両腕は砕け、その勢いで真横へとよろける。

 鈍重な奴は、バランスを保つことが出来ない。

 数歩踏鞴を踏み、土煙をあげて地面へと倒れこんだ。


 目の前には両腕を砕かれ、自力で起き上がることが困難なミスリルゴーレム。

 それに片方の拳を深々と穿たれた奴と、もう一体はまだ無傷か。


 そんな状況で、やや離れた位置で見守っているヴォフォスは動かない。

 俺だったら確実に二体は回収する。

 戦力として物足りないし、なによりやられてしまえば自分の力が削がれるのだから。


 分かっていないのだろうか?

 ただこちらを見据える漆黒の瞳は、何を考えているのか分からん。

 まぁもとより、変態一族の思考回路など常識人の俺に分かるはずもないが。


 奴は未だ起き上がれないミスリルゴーレムを一瞥すると、再びペンダントを掲げた。

 すると今度は蟻が出てくる。

 蟻といってもデカイ。

 人と同じくらいの大きさで、鋼の甲殻を持ったキラーアントである。

 それがワラワラと。

 二十匹ほどこの場に出現していた。


「大樹を潰したいなら白蟻のほうがいいんじゃねぇのか?」


 上手いことを言ってやった。

 だがヴォフォスはクスリともしない。

 不敬である。

 その程度でヘソを曲げる俺ではないがな。


「――ぶっ潰してやる!」


 一斉に俺目掛けて群がってくる大きな蟻。

 鋭く尖った顎は脅威だが、それを両手で掴み引きちぎってやる。

 更に頭を砕き、胴体を両断し、ケツを蹴り飛ばし。

 そうこうしているうちに、空が覆われた。

 なんだと見上げれば足。

 ミスリルゴーレムの巨大な足が、蟻もろともに俺を踏み潰そうと迫っていたのだ。


 ――ドスンッ!!


 轟音とともに土煙が舞い上がり、地面にはくっきりとミスリルゴーレムの足跡が刻まれていた。

 間一髪で脱出出来たとはいえ、その威力の凄まじさは見て取れる。


 ミスリルゴーレムが足をあげると、足の裏には逃げ遅れた蟻の残骸が数匹分。

 ブチブチと繊維をへばり付かせていた。

 これで本来の半分しか力がないというのだから恐ろしい。


 とはいえ、やはり俺の敵ではないだろう。

 その後も蟻を潰し、ゴーレムをいなし続ける。

 魔物の数が減り始めると、随時新たな魔物がペンダントから現れるが


「こんな奴等いくら出しても俺には効かんぞ?」


 強がりではなく言ってやった。

 実際に、俺はほとんどダメージを負っていないのである。


 ミスリルゴーレムや、それこそドラゴン級。

 あんなのが複数出てきたら、さすがにこれほどの余裕はなかっただろう。

 しかしその後出てくる魔物は一段も二段も格が落ちるものばかりなのだ。


 せめて魔物で足止めしている間に、魔人族お得意の魔技で攻撃してくればいいものを。

 奴は初めの位置から動かず、ただ魔物を随時呼び出すばかりである。


 ――なぜだ?


 不意に疑問が沸きあがった。

 なぜ奴は攻撃してこない?

 そもそも奴は、なぜ魔物を呼び出している?

 対複数の敵ならいざ知らず、敵が一人なら自分が戦うほうが良い。

 ペンダントの中の魔物より、指輪をつけた本人のほうが強いのは自明の理なのだから。


「おい変態魔人。お前何を考えて――」


 突然だった。

 空に押しつぶされるような、ドロリとした圧迫感。

 それが急にやってきたのだ。


 思わず上を見上げる。

 何かあったとしたら上なのだ。


 まさかこれを待っていた?

 この魔人は自分を囮にして、俺を引き付けていたのか?


 ギロリとヴォフォスに視線をぶつけると、奴は初めて。

 俺が知る限り、奴は初めてニヤリと笑っていた。


「てめぇ……」


 言うと同時。

 奴から土弾が発射された。

 以前よりも早く、以前よりも大きい土の塊だ。

 それを弾き飛ばしてヴォフォスを見据える。


「時間稼ぎは終わりってことか?」

「そうだ。封印は解かれた。我等はついに地上へと還える……復讐の時だ」


 と、再び魔物達が襲いかかってくる。

 一匹一匹はたいしたことないが、数が多くて邪魔臭い。

 それを先ほどと同じように殴り、弾き、蹴り。


 ――だが、先ほどまでとは違っていた。


「死ね」


 間隙をついて、ヴォフォスが踏み込んで来ていたのだ。

 突然の襲撃。しかも想定していたより早い突き。

 防御が間に合わない。


 マズイッ!


 その貫き手が俺の心臓を穿とうと、真っ直ぐに伸ばされる。

 やけに遅く感じられる時間の中で、それでも防御が間に合わない俺。

 そして見た。

 俺の胸に突き刺さろうとする奴の腕。

 その間に割り込んだ者がいたのを。


「スー子ッ!!」

「ぴぎぃぃぃぃ!!」


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