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74話 封印結界の行方

 突き刺さった。

 本来なら、魔人の腕は俺の胸に突き刺さった筈だった。

 間にスー子が割り込んだとしても、そんなものは障害足りえないのだから。

 だが


 ――バチンッ!!


 空気が破裂するような音と共に、ヴォフォスは吹き飛ばされていた。


「スー子!?」

「ぴぎぃ!」


 そしてスー子にも傷はない。

 いつの間にか、また不思議能力にでも目覚めていたのか?

 心配させやがって。

 そう思いながらスー子を撫でる俺。


 しかし対象的に、吹き飛ばされた魔人は驚愕に目を見開いていた。


「まさか……ッ! いや、そうか。だから……」


 なんだか知らんが好機である。

 未だ押し寄せている魔物達。

 その隙間を縫うように、俺は駆け出していた。


「死ね!」


 そして俺の拳が、奴の胸を穿とうと放たれる。

 驚愕し、なにやら考え込んでいた魔人。

 だがギリギリのところで俺に気付き、なんとか胸を反らして絶死の拳を躱しきる。


 ――パリン。


 躱しきられた。

 そう思ったのだが、どうやら俺の拳は届いていたらしい。

 小さな破砕音をたて、ヴォフォスの胸にさげられていたもの。

 赤いペンダントが砕け散っていた。


 すると、みるみるヴォフォスの気配が弱まっていくのが分かった。

 周囲の魔物達。

 それが魔人の支配下から解放され、指輪の効力が切れたのだ。


 変化はそれだけではない。

 解き放たれていた魔物達。

 その標的が、俺から魔人へと変わっている。


 恨みか?

 無理やり従わされていた怒りが、解放されて魔人へ向かっているのか?


 俺はそう思ったのだが、どうやら違うらしい。

 呟くように吐き捨て、魔人の男は皮肉げに笑った。


「強制的に従わせた副作用か。くだらん。やはりあの男の作ったものなどくだらない」


 ヴォフォスの周囲には魔物達が殺到している。

 それに抗いはするものの、所詮は下級魔人。

 力を取り戻したミスリルゴーレム級が相手では、成すすべも無い。

 蟻に噛み砕かれ、ゴーレムに踏み潰され、抵抗虚しく魔人の命が消えていく。


 俺はただ、それをボーッと眺めていた。

 もちろん助ける義理などない。

 だが過分な力を求め、最後にはその力に飲み込まれていくヴォフォスの姿。

 なぜだかそれが、チクリと胸に痛みを残した。


 ――それから程なく。

 ヴォフォスは完全に息絶えていた。

 それに満足したのか、一匹二匹と魔物が去っていく。


 っと、そうはいかん。

 あれらの危険種を野放しには出来ない。


 俺は慌てて魔物などを回収しようと試みる。

 だが、結果的に回収は不可能だった。

 いつものように「服従か死か」と選ばせたのだが、服従を選ぶ魔物がいなかったのである。


 それもそうか。

 奴等はもう、操られるより死を選ぶようになってしまったのだ。

 せめてミスリルゴーレムは回収したかったが、それも叶わず。

 仕方なく、俺は全ての魔物を葬ることにした。


 と、丁度その時。

 遥か上空から、どんどんこちらに降ってくる影が目に映る。


「破壊王さん!」


 糸目だ。

 俺に魔人を押し付けて、さっさと逃げ帰った僧侶だ。

 男だと俺を謀り続け、小癪にも貞操を守ろうとしたあの女だ。


 許せんッ!

 着地と同時に襲いかかってやるッ!


 そう思っていたのだが、奴の顔が余りにも青ざめていたので気勢を削がれてしまった。


「上で何かあったのか?」


 そこでようやく思い出す。

 何かあった筈だ。

 戦闘中に、俺は確かに感じたのだから。

 あのドロリと澱んだ、重たい空気を。


「精霊様を……守りきれませんでした……」


 ……。


 糸目女の乳を揉み抓りながら、大樹の上へと運んでもらった俺。

 あの長いスロープを、また登らなくても良いのは非常に助かる。

 どういう原理で飛んでるのかは不明だが、羨ましい能力だ。

 風を感じることもなく、スーッと静かに俺達は大樹の上へと到達していた。


 大樹の上の大広間。

 そこでは、暑苦しい男達が泣き喚くという地獄のような光景が広がっていた。


「俺達の力が及ばなかったばかりにッ!」

「なんと不甲斐ないッ!」

「精霊様ッ! すまんッ!」


 他にはハーピー娘を首尾よく尻に敷いているヴェルティの姿。

 そして動かなくなっているドラゴンの死骸があった。


 俺はヴェルティに「よくやった」と声をかけてから、車座に座り込んでいる男達のもとへ歩み寄る。

 その中心には、右肩から腹までをバックリと食いちぎられた、無残な女の死体が横たわっていた。

 俺にその二胸を自由にさせてくれると、そう約束したシルフィーディアだ。

 ……今は一胸になってしまっていたが。


「ドラゴンは倒したのですが、最後の悪あがきで……」


 僧侶が申し訳なさそうに説明した。


 俺がドラゴンの相手をするべきだったか?

 そうすればシルフィーディアを守りきれた筈だ。

 ……いや、そうなれば魔人を抑える者がいない。

 どのみち結果は一緒か。

 ヴォフォスはあらゆる状況を想定し、抜かりなく準備を整えてきた。

 奴のほうが一枚上手だった。

 それだけだ。


 今は失われたおっぱい権利を後悔するより、他に考えなければならないことがある。

 そう。封印のことだ。

 最後の四精霊。

 風のシルフィーディアが死んでしまった。

 ならば、魔人が地上に出てくることを阻む封印結界。

 それがなくなってしまった筈である。


「やばいことになったな……」


 上級魔人がどれだけいるのかは不明だ。

 しかし一人相手ですら、あの時の俺は手も足も出なかった。

 俺で無理なら、この世界の人間でアレを倒せる奴などいない。

 となれば、人間の世界は本当に終わりかねないのだ。


 ポツリと零れていた俺の呟き。

 それに、ぶっきらぼうな声が反応した。


「あ~、なんかまだっぽいのよね~」


 ヴェルティの下で動きを封じられている、ハーピー型のモン娘だった。

 全員の視線がそこに集中し、彼女は急に落ち着きがなくなる。


「な、なによっ! あんまりジロジロ見ないでよねっ!」


 俺は先の言葉の真意を問いただそうと、彼女に詰め寄った。

 うつ伏せで組み伏されているからか。

 たわわな果実が潰れて辛そうである。


「『まだ』とはどういうことだ? 封印は解かれていないのか?」

「はぁ!? そんなこと教えるわけないでしょ!?」


 おぉう?

 この状況でこの俺に。

 そんな口を聞いちゃっていいのだろうか?

 俺はいいんだぞ?

 楽しみが増えるだけだ。


「さてハーピーのモン娘よ」

「ファリッサよ。特別にファリッサ様と呼ぶことを許してあ――痛たたたっ! ちょっといきなり抓らないでよねっ!」

「ではファリッサよ。

 とっても痛くてエロい方法と、とっても苦しくてエロい方法と、とっても気持ちよくてエロい方法。

 どのやり方で口を割らせて欲しい?」

「最後のはただのエッチじゃない!? っていうか、結局あたしの身体目当てじゃないっ!」


 ほぅ!

 ただの糞生意気な鳥頭かと思いきや、なかなか鋭いではないか。


「教えてあげたら酷い事はせず解放してくれるのよね?」

「しないが?」

「えぇッ!?」


 遠め目に見ていた男達から一斉に批難の声があがった。

 だが無視である。

 敗者の扱いを決めるのは勝者の特権だ。

 守るべきものも守りきれなかった無能共は、そこでおとなしく床でも眺めてろ。


「あなたそれでも勇者の一味なの!?」

「なんだそれは」

「だってあっちの奴等と仲間なんでしょ?」

「仲間ではないし、むしろ後でぶっ飛ばす予定だ」

「えぇッ!?」


 また男達から悲鳴があがる。

 煩い奴等だ。


「で、どの方法がいいんだ?

 ちなみに今月のおすすめは三番目だぞ」

「……封印はまだ解けてないと思うわ。

 魔人界に近付いた感覚はあるけど、解放された感じはしないもの」


 なに素直に答えてくれてんだコイツ。

 合法的にエロいことをする大義名分が失われるではないか。


 しかし封印が解けていない?

 それをモン娘は感じ取れるというのか?


「ヴェルティ」


 ならばうちの猫にも感じ取れる筈。

 そう思って確認すると、耳をピクピク震わせてからヴェルティはコクリと頷いた。


「なぜ封印は解けていない?」

「そんなことあたしが知るわけないでしょ?

 さぁ、素直に答えてあげたんだから、さっさと解放しなさいよねっ!」


 いったいどういうことなのか。

 それは分からないが、とりあえず俺はペンダントをファリッサの前に掲げた。


「い、嫌よっ! 嫌だからねっ!」


 やはり魔物達同様に、一度解放されると二度と入りたくないのだろう。

 動けないながらも頭をブンブン振って、ファリッサは拒絶を示す。

 関係ないがな。


「さてファリッサよ。お前を大人しくペンダントに入れる方法を、三つの中から選ばせてやる」


 ファリッサの顔が絶望に歪んだ。

 それを見て、後ろの男達からは「鬼か……」と聞こえた気がした。



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