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71話 魔人族の目的

 体の表面が薄っすらと光っている三馬鹿を見て、俺は面倒だなと思っていた。

 あの光は強化魔法を受けている光だ。

 前回の俺のアドバイスを、しっかりと聞き入れたということであろう。

 素直なことである。


 さらに三馬鹿の足元には、先ほどのキマイラが死体となって横たわっていた。

 無論俺を脅かすほどではないにしろ、今の奴等は楽勝というわけではなさそうだ。


 少しだけ本気を出してやるか。

 そう思いながら拳を握ると、慌てて糸目が進み出た。


「ま、待って下さい。なんでそんなに血の気が多いんですか」

「なんでも何も敵だろうが。こんなところまで追いかけて来やがって」

「違います! ちょっと落ち着いて下さい!」


 違う?

 いや、確かに奴等の主目的が俺だったとは思えない。

 それならば、こんなところで待ち伏せというのはおかしいからな。


 だが敵であるのは間違いないだろう。

 それを待てとは異な事を。


「今貴方と戦うつもりはありません。どうか話だけでも聞いてくれませんか?」


 糸目の後ろでは男達が『そうだそうだ』と喚いている。

 戦わないというのは、奴等の総意なのだろう。

 俺に関係があるとも思えんが。


 ……まぁしかし。

 この大樹がなんなのか。

 ここにいるということは、奴等は知っている可能性がある。

 ぶち殺すのはそれからでも遅くないか。


「よし。とりあえず話しだけ聞いてやる。

 まずはこちらの質問に答えろ。お前達はここでなにをしていた?」

「破壊王を倒す為の修行だッ!」

「やっぱり敵じゃねぇか!」


 そうそう。コイツ等はそういう奴だ。

 真面目に取り合おうとした俺が馬鹿だった。

 よし殺そう。


「待って! 待って下さい! ちょっとギルンさん余計なこと言わないでもらえますか!?」

「事実だッ! それに俺は、破壊王と手を組むなど反対だからなッ!」

「うむッ! 精霊殿は俺達の力だけで守ってみせるッ!」

「それが封印を解いてしまった我々の責任だッ!」


 ……おや?

 今コイツ等、さらりととんでもないことを言わなかったか?

 精霊? 封印を解いた?


 俺の視線が厳しくなっていたのだろう。

 三馬鹿の一人が『ひっ』と息を飲んだ。


「精霊と言ったな? それはお前等の後ろにいるばいんばいんが、四精霊の一人ということでいいのか?」

「その通りだ」


 答えたのは件の女。

 清廉な見た目とは違い、やや勝気な眼差しでこちらを見据えてくる。


「我こそが風の精霊シルフィーディア。世界を守護する一角よ」


 ふふんと胸を張ると、ぷるんと柔らかそうなお胸が弾けた。

 精霊って従者に出来るのだろうか?


「ならばここは精霊殿というやつか。

 この前までなかった筈だが、なぜ急に出て……あぁ……」


 一斉に三馬鹿が目を逸らした。

 コイツ等……。


「精霊殿が地上にあると、魔物共が群がるからの。

 自ら地の底へと封印し、誰も近寄らぬようにと伝えておったのだが……」

「ワザとではないぞッ! 空から見たら怪しげな大岩が四つもあったからなッ!

 その中心点になにかあるのではと調べるのは、冒険者の性というものだッ!」


 だいたい話は分かった。

 つまりこの迷惑な大樹が現れたのも、凶暴な魔物が増えたのも、俺の国が襲われたのも。

 みんなこの糸目ブラザーズが元凶ということだな!

 よし殺そう!


「だから待って下さい! 拳を握らないで! 距離を詰めないで!」


 いつになく糸目が慌てる。

 前のような冷静さも不敵さも見えないのは、やはり責任を感じているのだろうか。

 問題ないぞ。これから責任は取ってもらうからな。


「責任は、もちろん取らせてもらいます。

 ですので、それまでお待ち頂けないでしょうか?」

「古来より責任の取り方など決まっている。大人しくぶっ飛ばされろ」


 なお距離を詰めようとする俺に、仕方なくと風の精霊が声をかけてきた。


「そこな少年よ。お主、先ほどから我の胸に興味津々であるな?」

「なんとッ!」

「全力思春期小僧めッ!」


 いちいち煩い三馬鹿は無視し、俺は精霊の言葉を肯定する。

 ちょっと真面目に言ったが、言ってる内容は『はい! おっぱいに視線釘付けです!』ということだ。

 我ながら欲望に素直すぎて感心せざるを得ない。


「そこでだ少年。取引をせぬか?」

「取引?」

「うむ。好きにしてよいぞ?」

「ソレをかっ!?」


 そうだと言わんばかりに精霊は腕を組み、胸を強調した。

 大きなそれは腕に押しつぶされ、出口を求めて喘いでいる。

 早くお救い申し上げねば!


「もちろん相応の――」

「乗った!」


 即断即決である。

 迷う必要など微塵も感じなかった。


 三馬鹿は『それは!』とか『お考え直しを!』とかシルフィーディアに詰め寄っているが遅い。

 もう契約は結ばれた。

 クーリングオフは効かないのである。


「我を守って欲しい」


 ……。


 その後まだ文句を垂れている三馬鹿を横目に、俺は詳しく話を聞いていた。

 それを要約するとこうである。


 これから間違いなく魔人がやって来る。

 奴等は四精霊を滅し、魔人界の封印を解こうとしている。

 封印が解ければ中級、上級の魔人達が地上に出れるようになる。

 そうなれば、この世界は奴等に支配されてしまうだろうと。


 四精霊自体が眉唾だと思っていたが、実在したとは驚きである。

 そしてそれが全て事実なら、ソボ火山。ベフェリト砂漠。

 そしてバゼルナッシュリアの南にあった廃神殿。

 すでに三つの封印が解かれていることになってしまうのだ。


 だが話はこれだけではない筈だ。

 俺は、いくつか質問してみることにした。


「俺はすでに何人かの魔人に会っているし、その中には上級もいたぞ。

 封印とやらはちゃんと機能しているんだろうな?」

「している。一度発動した封印は、四つ全てを壊さぬ限り上級魔人を地上に出すことなどあり得ぬ。

 ただし、こちらから呼び出してしまう。その場合は、その限りではない」


 こちらから呼び出す?

 誰が好き好んで世界の災厄を呼び出しているのだ。


 ……銀髪か。

 そうだ。あいつは契約がどうのと言っていた。

 ならば上級魔人を召還し、その力を得る方法があったということか。

 前世の俺を倒す為に更なる災厄を呼び込んだとは。

 全くもって愚かなことを。


「ただし地上にいられるのは契約期間内だけ。

 その間だけ、奴等と地上に繋がりが出来るからだ」


 ピコンと俺の頭に閃きが舞い降りた。

 銀髪を殺すために、奴を守っているノルディーを殺さなければならないと思っていた。

 だが逆だ。

 ノルディーの隙を突いて銀髪を殺す。

 そうなれば契約も途切れ、奴は魔人界とやらに強制送還である。

 これは良いことを聞いたな。


「私からも質問よろしいでしょうか?」


 と、今度は糸目が精霊に質問の許可を求めた。


「よいぞ」

「ありがとうございます。

 では、そもそも魔人はなぜ地上に出て来ようとしているのでしょうか?」


 そりゃあれだろ。

 世界中の良いおっぱいを集めたり、世界を白く染め上げたり。

 性欲旺盛な変態一族のことだ。

 きっとそんなことを考えているに違いない。


 だが、シルフィーディアは少しだけ悲しげな表情を見せた。


「もともと魔人族というのは、この地上に住んでいた。

 お主等人間族とほぼ変わらぬ。兄弟のようなものだったのだ」

「約束を破った人に怒り、人間達を虐げたために地の底へ封印された……」


 思わず俺の口からこぼれていた。

 それは、いつか聞いた御伽噺。

 ロンゴではそれを検証した人間までいるらしいが、実際にあったことだったのか。


「約束を破ったか。そんな生易しいものではなかったが。

 人間とは、実に自分に都合よく解釈する生き物だな」


 そう言ったのはシルフィーディアではない。

 俺でも、糸目でも、三馬鹿でもなかった。


 振り返り、声の主を見る。

 特徴的な紫色の肌。

 漆黒の翼と尾を持ち、頭からは二つの角。

 筋骨隆々な肉体が、パンツ一丁の姿で強調されている。


「ソボ火山以来だな」


 下級魔人の男。

 ヴォフォスがそこにいた。


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