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66話 製鉄の国ペンディス

 ラウニスと共に訪れた国ペンディスは、とにかく活気に溢れていた。

 イェト国の活気を十と換算した場合、ペンディス国の活気力は千を下らないだろう。


「すぐ南にある不登山脈から、高純度の鉄鉱石が産出されるのですよ。

 ですので、製鉄業。特に今のような時代では、武器や防具の製造業が賑わっているようです」


 あちこちにある製鉄所からひっきりなしに出入りする男達を見て、俺はなるほどと思った。

 分厚い手袋や前掛けを装備し、カンカンと鉄を叩く音に負けない声で怒鳴りあっている。

 さらに熱した鉄を冷やしているのか。

 時折凄まじい水蒸気もあがっており、これらが体感気温を上昇させているのだろう。


「北方諸国の中では第二位の経済力を誇り、自慢の武器防具で軍事力も高い国です。

 鉄を金に変えることから錬金術師と揶揄する人たちもいますが、彼等自身はそれすらも誇りに思っているようですね」


 身振り手振りで国の特色を説明してくれるラウニス。

 大司教などではなく、彼にはガイドのような仕事が天職ではないだろうか。

 そんな風にすら思える。


「さて、ではさっそく王城へと参りましょうか」


 ガイドさんの案内で、観光ツアーはいよいよ本命のペンディス城へ向かうのだった。


 ……。


「なんだまた来たのか宗教屋」


 玉座の間に通されると、早々にそんな声がかけられた。

 言ったのは玉座に座る筋肉質のがっしりした男。

 ペンディス国王マクドシアンである。


 というか、おい?

 紹介してくれると言うから着いて来たのだが、あんまり歓迎されてないぞ?


「何度来ても同じだ。

 俺の国は『鉄と戦の神バフェケロス』を信仰している。

 四精霊なぞという脆弱な神に垂れる頭は持ち合わせておらん」

「存じておりますペンディス王よ。本日は勧誘ではなく、ご報告に参りました」


 そう言いつつ、ラウニスは一枚の書状を献上した。

 それをペンディス王の側に控えていた優男が受け取り、目を通して顔を顰める。


「枢機卿の視察? それが我が国となんの関係が?」


 耳にキンキン響く優男の声。

 嫌みったらしく聞こえる喋り方は、どこかの副将軍を思い出させてイラッとする。


「ハンッ! お前じゃ勧誘が上手くいかねぇから、さらに上役を呼んだってわけか?

 ご苦労なこったが、誰が来ても変わらんぞ」


 優男から書状を引っ手繰ったペンディス王も、その内容を一瞥しただけで興味なさそうに言い捨てる。

 というか歓迎されていないどころか、なんか険悪じゃないかねラウニス君や。

 こんな状況で俺を紹介されても、良い印象を残せるとは思えないのだが?

 日を改めさせては貰えないだろうか。

 ……という俺の願いは、目ざとい優男のキンキン声で潰された。


「で、その後ろに控えてる子供は何者だ? さっきから目つきが悪いのだが?」


 お前も見たところ十七、八といったところ。

 まだまだ子供だろうが。

 こっちは見た目は子供でも中身はそろそろ四……いや、やめておこう。

 その話題は良く無い。

 考えると少し凹む。


 しかしまぁ、聞かれたならば答えぬわけにはいかない。

 俺はスッと顔をあげ、視線を優男ではなくペンディス王に合わせる。


「私の名はリク。自由国家アシェイリスの大使としてやって参りました。本日は、ラウニス様の計らいでご同席させて頂いております」

「アシェイリス……? 聞いたことがないな。父上はご存知で?」


 答えたのは優男だった。

 だが父上?

 ということは、コイツはペンディス国の王子だったか。

 イラッとさせられてたもんで、後で闇討ちするつもりだったが危なかったな。


「知らんな。聞いたこともないぞ」

「父上は知らないと言っているぞ! まさか謀っているのではないだろうな!?」


 キンキン喚くなよ小童。

 あぁ鉄の国の王子だからキンキンカンカン煩いのか?

 なら俺が後で叩いて鍛えてやろうか?


 とイライラを増幅させていると、ラウニスが俺の素性を王に説明してくれた。

 話はポポスからの逃避行で始まり、涙無しには語れぬストーリーである。

 最後には涙声になっているラウニスだったが、優男の心は揺さぶれなかったらしい。

 奴は欠伸を噛み殺すこともせず、退屈そうに聞いていた。


 だが、ペンディス王はそうではなかった。

 話を聞きながら何か考え込み、途中から俺を好奇の眼差しで見ている。

 そしてラウニスの話が終わるや否や、ニヤリと笑ったペンディス王が話しかけてきた。


「お前だったか。ポポス草原で暴れた魔物使いとやらは」


 その声に、ラウニスと優男は「なんのことだ?」と首を傾げている。

 しかしペンディス王の目には確信が見て取れた。


「報告にあった背格好。ポポスから逃げてきたと言ったが、その時期も符合している。

 それにさっきから馬鹿息子に対して漏れている殺気。押さえているようだが、並みの者ではないと思っていたぞ?

 なるほど。そうであるなら合点が行くな。

 ……で、どうなのだ? お前が件の魔物使いか?」


 グイッと玉座から体を乗り出し、どうかと訪ねてくる瞳は興味でランランと輝いている。

 ふむ。

 それを話すことでアシェイリスに不利益がないか考えてみる。


 圧倒的な武力を保持しているとあれば、それは北方連合の脅威になるだろう。

 であれば、警戒され潰されかねない。

 しかしポポスでの事を知っているなら、つまり俺がロンゴ帝国の敵であるということも知っている筈だ。

 それに俺はこうして北方諸国を回り、友好関係を築こうとしている。

 敵意がないことは分かってくれるだろう。


 第一、ペンディス王はかなりの確信を持って俺に尋ねてきている。

 豪胆そうなこの男。

 隠し事などは嫌いそうな人物である。


 とはいえどう話が転ぶかは分からない。

 最大限の警戒を込めつつ、俺は答えた。


「そうだと答えたなら、どうするつもりですか? ペンディス王」

「試したい!」


 は?


「その力、是非試したいのだ! 構わんか!?」


 構わんかと言われてもなぁ。

 まさか友好関係を結びに来て、他国の王様をぶっ飛ばすわけにもいくまい。


「ペンディス王は根っからの戦人なのです。強い者がいると聞けば、戦わずにはいられない性分だとか」


 ラウニスが口元を押さえながら教えてくれた。

 まぁ見た目から戦士系だし、然もあらんというところではあるが。


「お前が勝てば、どんな願いでも一つだけ叶えてやるぞ?」

「やりましょう」


 即決です。

 先にそう言いなさいよ。


 力だけで道を切り開いた前世と別れは告げたが、力が道を切り開くこともある。

 うむ、確かにそうだ。

 ならばこういうやり方もありだろう。


 というわけで、俺とペンディス王は一騎打ちをすることになったのである。


 ……。


「得意の魔物は出さんのか?」


 ペンディス王城の地下にある大闘技場。

 世界最強を決めるトーナメントでも開けそうな、立派な施設である。

 その中央で、俺はペンディス王と向かい合っていた。


「武器も必要ありません。誤まって殺してしまうわけにもいきませんので」

「ほぅ! なかなか大口を叩くではないか!」

「父上! その生意気なガキに身の程を弁えさせてやって下さい!」


 ギャラリーにはキンキン声の優男と、なにやら手を合わせて祈っているラウニス。

 女が一人もいないのでやる気は出ないが、まぁそのくらいで丁度良いだろう。


「では、遠慮なくいかせてもらうぞ!」


 そう言って構えたペンディス王は、手に巨大な戦斧を携えている。

 上半身は裸になっており、歴戦の傷跡と鍛え上げられた筋肉が脈動していた。


「そうりゃぁっ!」


 かなりの重量があるであろう戦斧が、見た目によらず軽がると振られる。

 だが、やはりその重量は見た目通りだと、巻き込む風の音が教えてくれた。

 ブォンっと重低音を響かせ、俺の胴体に狙いを定めた鉄の塊が躊躇無く迫る。


 ――バシッ。


 それを片手で軽々と受け止める俺に、ペンディス王の顔が驚愕に彩られる。

 隙だらけだが、だからと言って王をぶっ飛ばす!

 ポスッと軽い音を立てて、だがそんな音とは正反対にペンディス王は吹っ飛んだ。


 ――いやね?

 直前までそんなつもりは無かったんだぞ?

 だが躊躇も遠慮もなく戦斧を振り回されたんだ。

 そのくらいは良いだろう?

 もちろん存分に手加減はしたし、あの王ならば大丈夫な筈だ。


 さっきまで煩かった優男は、顎が外れるのではないかというくらいアングリ顔でこちらを見ている。

 その隣でラウニスは、ついに天を仰ぎ始めた。

 俺がペンディス王を殺したとでも思っているのだろう。


 しかし吹き飛ばされた王がむっくりと起き上がり、ギャラリーが安堵に包まれる。


「痛っててて……」

「もう一度試しますか?」


 なお信じられないという王だったが、俺がそう聞くと途端に笑い出した。


「がっはっは! 世界は広いなおい!」


 言いながら俺に近付き、手を差し出してきた。

 俺もそれに応え握り返すと


「リクと言ったか? よし! 改めてお前の話を聞こう!」


 と、またペンディス王は豪快に笑ったのだった。


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