33話 ロンゴ良いとこ一度はおいで
ロンゴ帝国に着いたリクは、元老院議官ナウラ・ペルティオーネより客将の身分と住居を与えられた。
衣食住性に不自由がなくそこそこ満足な生活を始めるリクだったが、戦の炎はすぐそこまで迫っていた。
突然だが、俺は今おっぱいを揉んでいる。
ラキュアほどではないが、ヴェルティとは比べるべくもない豊かな双丘。
衣服の上からというのが残念であるが、フニフニと形を変える素晴らしい揉み心地に、俺は大満足である。
いつか誰かが言った。
女性の体には、あらゆる『円形』が含まれていると。
だとすれば、この胸に含まれているのは花丸だろう。
感無量。天晴れである。
「そろそろご満足いただけましたか?」
だというのに、揉まれている本人の態度がこれでは興醒めだ。
スラリとした長身。
腰まで届く黒髪は、アップにして一つ結び。
いわゆるポニーテールというやつだ。
キリリとした目鼻立ちが意志の強さを物語り、キッと結ばれた桜色の唇が不快感を示している。
「嫌なら断れば良いだろう」
「出来ません。兵長の身分である私は、客将の貴方様には逆らえませんので」
と目の前のおっぱい……ではなく、俺のお目付け役、アシェイラ・ペルティオーネが言った。
俺の名誉に関わることなので、ひとつだけ言っておこう。
今の行為は、間違っても『逆らえないらしいのでおっぱい揉み放題じゃあぁ!!』ということではない。
本当に逆らえないのか。
彼女の意志をどこまで無視してしまえるのか。
この国のルールについて確認するための、仕方のない行為なのだ。
『この国』というのは、当然ロンゴ帝国のことである。
スジャルカの町をハーゼという胡散臭い男と共に脱出した俺は、その後ロンゴ帝国の帝都『バゼルナッシュリア』に辿り着いていた。
この俺を迎え入れるのだ。
当然ながら国民総出で歓待し、皇帝自ら挨拶に来るものだと思っていたのだが、そんなことはなかった。
それどころか登城すら許可されていない。
ただ引き合わされた人物。
元老院議官ナウラ・ペルティオーネに『一軒家と客将の身分を与える』と言われただけである。
髪の毛があれば全部毟り取ってやりたいくらいの無礼であるが、すでに一本もなかったので見逃してやった。
代わりに「話が違うぞ」とハーゼの前歯をもう一本折っておいたので、いくらか溜飲は下がったが。
さてこのロンゴ帝国。
町の景観などは追々として、まずはその特殊な身分制度について触れておこうと思う。
グジャ王国とは違い、この国では奴隷制度がある。
それは知っていたが、それ以上にこの国の身分制度は厳格であった。
とにかく、自分より上の身分の人間には逆らえないのだ。
少しでも逆らったり不興を買えば、即投獄されてもおかしくないのだそうだ。
前世の俺ですらそこまで横暴ではなかったと思うから、正直狂っていると思う。
まぁそれで国が回っているのだから問題はないのだろうが。
ちなみに俺の身分は『客将』だ。
国民という扱いではないので、誰に逆らってはいけないということはない。
さすがに皇帝に面と向かって『ふざけんなバーカ』と言えば投獄どころか斬首だろうけど。
そして、軍人であれば副将未満の人間を自由にする権限があるらしい。
ハーゼ曰く、異例の高待遇だという。
前歯を折ってしまってすまなかったな。
ともあれ、未だに俺はおっぱいを揉んでいる。
飽きっぽいこの俺が飽きないのだ。
この双子山は、どれだけ俺を堕落させようというのか……恐ろしい。
「では、お止めになれば良いのではないですか?」
冷めた声でアシェイラが言う。
しかし、本当に逆らいはしないのだな。
「念のために聞いておくが『ベッドの上で股を開け』と命令することも出来るのか?」
「出来ますが出来ません」
哲学かな?
「貴方様が私にそのような命令を下すことは出来ます。私は逆らえません。
ですので、その辱めを受ける前に、私は舌を噛み切って死にます。
己の死だけは自由が許されておりますので」
さも当然のようにアシェイラは言う。
彼女が武人であることも関係あるのだろうが、その潔さや覚悟はこの国では当たり前なのかもしれない。
それもあってか、日常でそこまで無茶な命令を下す人間はいないのだろう。
「私は父であるナウラ・ペルティオーネの命で、リク様の身の回りをお世話させて頂いております。
その役目を最後まで全う出来ないことは非常に心苦しいですが、父には娘は忠義を尽くしたと――」
「待て待て! そんな命令はしない! 早まるな!」
見切りが早すぎる!
これではうかうか変なことが言えないでは……あ、なるほど。
そういう狙いのパフォーマンスか。
「気付かれてしまいましたか」
見咎めると、ふわりとアシェイラは頬を緩めた。
だがその表情は、諦めに近い。
自分の身を守るためにうった芝居を見抜かれて、これから叱責を受ける。
いや、本当に先ほどの命令を下されることも覚悟しているのだろう。
たいした女だ。
「構わん。そういうのは嫌いではない」
だから俺は許した。
少しだけ驚いた顔をしたアシェイラは、だが次の瞬間にはまた顔を引き締めて「はっ」と短く返事をした。
こいつとは上手くやっていけそうだ。
おっぱいを揉むくらいなら許してくれるらしいしな。
そんなこんなで、今は与えられた一軒家にいる。
場所は帝都の上から数えて三段目。
この帝都バゼルナッシュリアは、城を頂点として段々畑のような構造になっている。
外敵の侵入を防ぎやすいという面もあるが、帝都そのものがこの国の身分制度を表しているのだ。
一番上が皇帝のいる城。
二段目が、各軍の将軍や副将軍。元老院の議官達。
なので、三段目というのはかなり高位であるとみて間違いない。
下に広がる町並みは雑多で、平民達が蠢いているのがよく見える。
まるでゴミのようだという感覚を覚えることから、高位の身分を持つものに優越感を与えるのに一役買っているのだろう。
その割りに俺の家は狭かった。
台所が一つ、リビングが一つ。
ベッドルームが三つだけの、最低限である。
一つは俺、一つはアシェイラが使うので、実質空き部屋は一つだけ。
まぁ掃除がしやすくて良いとポジティブに考えよう。
倒れる時でも前のめりな男リク。
さすがである。
もっとも、掃除はアシェイラに任せるがな。
武人である彼女にそんなことをさせていいのかは難しいところだが、どうせ命令には逆らえん。
第一、他に掃除などの家事を出来る人材がいないのだから仕方ない。
我がパーティーの人材不足は、今もって深刻なのだ。
と説明したが、当然のようにアシェイラは憮然としていた。
試しにラキュアとヴェルティを出して掃除をやらせてみたところ、家が倒壊しそうになったのですぐに引っ込めた。
ツタを振り回したり爪で引っかいたりして、何をどう綺麗にするつもりだったのか。
ヴェルティはともかくラキュアには少し期待したのだが、奴の女子力は夜に全振りらしい。
バランスというものを教えて差し上げたい。
だが怪我の功名というべきか、その様子をみてアシェイラは渋々ではあるがやる気になってくれた。
しかも、掃除も料理も完璧にこなしてくれる。
我がパーティーに欲しい人材である。
「私の身はこの国に捧げておりますので」
やんわりと断られてしまったが。
とにもかくにも、ロンゴ帝国での生活が始まった。
家を与えられ、身分を与えられ、当面の生活用にと金も与えられた。
監視の意味も多分に込められているとはいえ、俺好みの人材も与えられ、順風満帆である。
まぁこれだけの待遇である。
有事の際は分かっているだろうな? と暗に言われているのだろうし、それだけの力があるとハーゼから報告も受けているのだろう。
こちらとしても、グジャ軍との戦いの際は前線に出たいと思っているので、ウィンウィンの関係だ。
と思っていたのだが、俺に最初に与えられた指令は『南の森で魔物を討伐しろ』だった。
ハーゼの報告だけでは信憑性がなかったのか?
良いだろう。
俺の力を存分に見せてやる!
そう気合を入れて、俺達は南の森へと出かけるのであった。




