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炯眼のリアン  作者: 霧雨
第三章 迫り来る魔の手
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6 コックの愛


「シオ。自分と同年代の女の子が息子のように可愛がっている男の子とイチャついている様子を目の前で見せられている僕の気持ちを少しは考えてくれないだろうか」

「女の子とか言うな。気持ち悪い」


リアンの膝の上に乗ったシオはカールを見向きもせず、素っ気なく答えた。

別にイチャついている訳ではないのだが、端から見ればそう思われても仕方ない。


リアンはまたも無表情を貫き通していたが、若干困っているのが伺えた。


「カールはいつになったら結婚するの」

「今関係なくない?それを言うならシオもだろ」

「セシルは?」

「無視かよ。セシルは大事な仲間だよ」

「その笑顔止めろ。気持ち悪い。セシル、かわいそう」

「さっきから酷いな。かわいそうなの僕じゃないの?」

「セシルかわいそう」


リアンにこの会話に入る勇気はなかった。


さすがに膝に乗ればリアンとシオの座高は並ぶ。シオはリアンの肩に頭を乗せて天井を仰いだ。

それを微笑ましく見つめるカールと、どうしていいか分からずただじっとしているリアン。


この状況に、シオはここ最近で一番くつろいでいた。

軽口を叩ける昔馴染みと、自分がこの状況に置かれてしまってから初めてタメ口をきいてきた不思議な少年。


しかし、ずっとこうしてはいられない。

それはシオが一番よく分かっていた。


コンコンコン


「あーあ」


カールが扉を開けると、受付嬢・イースが立っていた。意外なことに、彼女はその冷静さの中に"怒り"を含んでいた。


カールの横を通り過ぎ、ヅカヅカと部屋の中へ入ると、イースはリアンからシオを取り上げるように抱き上げて立たせた。


「どうして留守電なんです」

「別に」

「シオ様へ謁見が殺到しております。おそらくシオ様の先程の行動について言及するものも含まれているかと」

「……私の勝手でしょう」


イースは困ったように眉をしかめたが、それ以上何も言わなかった。


シオは一つ息を吐いた後、早足で部屋から出ていった。イースもそれに続き、カールとリアンに向かって軽くお辞儀をして扉を閉めた。


「今日はなかなか連絡入らないなと思ってたら……あいつサイレントにしてたのか」

「シオは嫌がってるんですか」

「……最初は違ったんだけどね。シオも、皆も」


大きな集団の統率には絶対的支配力がいる。

人数が多くなればなるほど、皆が皆仲良くいきましょうというわけにはいかないのだ。


ここで一つ。では、何が一番効果的な"支配力"となるだろうか。

何者からも全員を守り、且つ反抗する者を抑えつける圧倒的な戦闘力。その人間性から大多数の支持を得るカリスマ性。誰も手出しできない、無くてはならない財力、権力。

否。

手の届かない神性だと言える。

その絶対的存在に反抗するのは愚か、その考えも持つことは許されない。


そしてシオは、その役目に適任すぎた。

故にこうして、望んでもいない信仰とやらを受けている。



「「ほんと、こんなはずじゃなかったんだけど……」」



リアンとカールはシオから解放された途端に暇になり、持て余した時間を食事に使うことにした。

すぐに帰るつもりだったのだが、カールがそれを遠ざけた。というのも、きっと今帰ったらシオが拗ねる……

そう言うわけでリアンの希望に沿い、食堂へと足を運んだ。

カールはこれも気が進まなかったのだが……。



ドドドドドドドドっ


実際にこんな音は聞こえないが、食堂へ入るなり見知らぬ一人がカールとリアンへ向かって突進してきた。

その勢いに思わず足がすくんでいると、そいつはキキーーーっと(何度も言うが、実際はこんな音はしていない)目の前で急ブレーキをかけた。


「やぁやぁ元気だったかい!?」

「や、やぁ」


また嫌味を言われるのだろうと身構えていたリアンはその親しげな様子に面食らった。


「いやぁ、ほんと元気そうで何よりだよ!この赤いコートはいつでもどこでも目立って助かるよ!久しぶりだねぇ、カールさん」

「うん、ほんと、久しぶり」

「まぁそんなこんなの挨拶は一先ず全部忘れてさ!私のアリクは元気にしてるの!?」


『私の』?『アリク』!?

呆けるリアンの目の前で、カールはガタガタと肩を揺さぶられて質問攻めされていた。それら全て、あのアイリークに関してのことだ。


「あの……」

「おや、見慣れない顔だね!君は?」

「……リアンです」

「そうかそうか!よろしくね、リアン。ところで君もLEAPの子のようだけど、アリクにはもう会った?あ、今はアイリークだっけか」

「はい、会いまし……」

「素敵な人でしょう!?」


なんと、今度は質問攻めの相手がリアンへと移ってしまった。あまりの迫力にカールに助けを求めるも、プルプルと首を振るだけだ。

どんだけ本部では役に立たないんだ。


「あの綺麗な肌は紛れもなくあの素晴らしい料理の腕からくるもののはずだよ!細身だけどしっかり筋肉も着いてて、赤混じりの長い金髪が首にかかるのがいやらしい……なんといってもあの冷たい目がたまらないぃ!あぁ、会いたい」


会って早々、ここまでドン引きさせられるものなのかと言うくらい自分をさらけ出してくれた。一つ分かったのは、彼女がとてつもなく彼(彼女?)を愛しているということだ。男として見ているのだろうか。


アイリークのことを誉めまくっていたが、彼女もなかなかのプロポーションをしている。

括れのある体は細いものの、身長はリアンを裕に越した。血色のいい肌に、群青色の瞳と髪がよく映える。アイリークと同じくクールな印象を受けたが、髪の方はバッサリとベリーショートに切られていた。


本当に、普通に立っていたらクールなのだ。


リアンの視線に気が付きキョトンと首を傾げると、大袈裟に分かったような顔をしてリアンの肩をバシバシと叩いた。


「ごめんごめん!私はリガリィ・シューだよ。ここでコックをしてるんだ。そして、君のよく知っているアイリークのか・の・じょ!」


リアンが勢いよくカールを振り向くと、俯いてプルプルと首を振っていた。

なるほど、『自称』か。


「さてさて冗談はさておき、ここに来たってことは食事をしに来たんだよね?なら私がふるあげよう!だからたっぷり話を聞かせてね!」









結局、彼女が出してくれた大盛りの飯を食べながらひたすら彼女の話を聞いていた。

リガリィの大きな声に何人かは視線をやったが、声の主と同席している者を確認するとすぐに視線を逸らした。と言うわけで、ここには妙なスペースが生まれていた。


その邪魔のない空間で、彼女はふとリアンの様子を見ながら大人しくなった。さっきまでの嵐のような言葉攻めが止んで、急に静かになる。


食事の手を止めて彼女を見ると、リガリィは幸せそうにリアンを見ていた。実際にはリアンを通して、あの人を見ているのだと分かった。


「ん?いやぁ、アリクが本当に幸せみたいで良かった。こんなに食べてくれる人が仲間に居て、さ!安心した!」

「……あなたもここを一人で?」

「いやいやいやいや、無理でしょ!コックはたくさんいるよ。あんな神業出来るのはアリクぐらいだって」


それだけ言うと、彼女はまた黙りこんでしまった。ちなみに今カールは便所だ。

本当に、こういうときに限って。


太陽がてっぺんを少し通り越して白から黄色に変わった光が、またも白一色の食堂に降り注いでいた。

薄いところ濃いところ、様々な影のコントラストが生まれる中、リガリィは、リアンの表情を見ていた。今度はリアン自身の。


この性格と立場故に多くの人に出会い、多くの"苦味"と"甘味"を見てきたが、ここまで『何も分からない』人は初めてかもしれない。

たとえ無表情で無愛想な人でもそれなりに何か見えるものだ。例えば女神シオ様でも、例えば、エレメントを持った動物でも。


しかしこの真っ黒の子はどうだろう。

リガリィには、空を連想させた。空と言うより天気か。

たとえ辛いことがあっても、たとえ幸せなことがあっても、どんな事があったってそれら全て同じ空の下。全てを知っていて全てを知らない。何でも感じ取って、何にも感じ取れない。

憎んでも愛しても相手は同じ人。


自分で言ってて分からなくなってきた。


「アイリークとはどういった……」


こんな少年でも好奇心というものはあるらしく、しかし聞いていいものか判断しかねて語尾を濁らせた。

そういう人間らしいところがあるだけで十分じゃないか。


「アイリークが男だったのは知ってる?」

「はい」

「たらしこんだ?……ははっ!焦らないでよ、冗談冗談ー!でもきっかけは知らないのか。アリクは看板娘で繁盛してた店のせいで女である必要性を感じて女になったんだよ。私はそこの看板娘」

「……はい。え?」


驚いて顔をあげたリアンの目の前で、リガリィは無邪気に笑った。


「私も彼の事は良く知ってたから。評判は色々あったけど、私は自分のとこよりずっと凄いと思ってたし!そういう意味で、最初はライバルとして意識してたんだけどなー。いつからだろーなーその気持ちが変わっちゃったのは!あははっ!」


人の少なくなった食堂に彼女の声が響いた。

まるでアイリークにお腹いっぱい食べさせてもらった日のよう。


「私はねぇ、彼が男か女かなんてそんなちゃちなことどうでもいいの。ただ彼のことと彼の料理を愛してるだけ。いつか必ず、必ず私の料理も認めさせて、側に置いてもらうわ。先に胃袋捕まれたのは私だけど、今度はこっちがガッチリ握ってやる!そう言っておいてね!」


彼女は無邪気にウインクした。




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