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炯眼のリアン  作者: 霧雨
第三章 迫り来る魔の手
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5 水精の乱舞


周りの視線が、痛い。


皆決まってシオへ惚けた視線を向けた後、赤いコートとその様子を見て驚愕、憤慨した……ように見える。


「そろそろ下りない?」

「下りない。もっと速く」

「はいはい……」


現在背中に背負われている彼女が年上とは到底思えなかった。精神年齢は十代だ。


何故こんな状況になったのか。原因はこの本部の長であるシオのたった一言。

『おんぶ』

面食らったが、いきなり背中に飛び付かれ、

『出発!』

と言われれば断れるはずもなく。



しかしやはり断っておくべきだったかもしれない。

今リアンが受ける非難の目はカールと居たときの比ではなかった。


それもそのはずだ。

シオはある意味、ここでは"女神"として扱われているのだから。

傷つけば皆の心を癒し、戦を導く勝利の神。

その女神と、意味嫌われている奴が一緒に居て、しかも仲良さげにおぶられているとなればそんな態度にもなるたろう。


そんな内情を知らないリアンでも雰囲気は察知し、シオを心配してどうにかしようとするが、当の本人は知らんぷりだった。


当たり前だが、皆の望みが彼女の望みではないのだ。

苦痛と言うものは、そんな当然のことを忘れさせてしまう。



「着いた」

「っ!」


今度は突然飛び下りたかと思うと、一人で駆けていってしまった。

取り残されたのはリアンと冷たい視線のみ。


「大丈夫かい?」

「わりと」


追い付いてきたカールに素っ気なく返すと、その何かが起こった現場へと向かった。



正直、想像していたのと随分雰囲気が違う。


その場に見えるのは、たまたま本部に顔を出していた契約者(エリート)戦闘隊(ビクティム)がほとんどだ。そういえば、本部に所属している契約者(エリート)はシオ以外にまだ会っていない。


それらに囲まれているのはかなり大きい蛇だった。胴体の直径が一メートルは越えており、全長は想像もつかない。


それと対峙しているのはシオただ一人だ。

これだけ多くの契約者(エリート)がいるにも関わらず。


「あれが、シオがリーダーである理由だよ」


半分独り言のようにカールが呟いた。


シオは軽快に飛び上がると、そのままエレメントの力を使って空中に止まった。

どのように使っているのか。

細身の剣を存分に振り回し、暴れる蛇の周りを優雅に飛び交いながら次々と斬りつけていく。


「これはね、ある意味儀式なんだよ」

「儀式?」

「願掛けとも言えるけど。これは皆の闘争心を掻き立てるものなんだ。『水精の乱舞』と呼ばれる。鯉という生き物を知っているかい?」

「はい」

「おや、それは意外だな。まぁ知ってるならそれをイメージしてくれ」



そう言われると、シオの回りには水のようなものが漂っているようにも見えた。しかしあまりにも透明度が高く、空気が光っているようにしか感じられない。


それ━━━にしても、美しい。


遠目でしか見ることができないが、目が離せなかった。


その輝きを身に纏い、汚れの無い純白のコートが鮮血で赤く染まる。

鯉、そう。水中を優雅に泳ぐ錦鯉だ。



心配するなど余計なお世話。

最後に剣を脳へ突き刺すと、戦いは呆気なく終わった。

今回の敵がそこまで手強くなかったというのもあるが、やはり、強い。


蛇から例の光が放たれ、空中を漂ったが、シオを前にしてはその輝きも掠れて見える。

剣についた血を払って収めたシオへ静かな歓声が上げられた。


シオはそれに何の反応も示さず、キョロキョロと辺りを見渡した。

これまでに無かったことで、皆は戸惑いを見せた。


「あの、どうかなさいましたか」


一人が声をかけたが、シオは目もくれない。

子供が宝探しをするように必死に視線を巡らせ、ふと、ある一点で動きを止めた。


「どうしたんだろーねー、シオ」

「……今こっちに来たらヤバいですよね」

「僕達刺されるだけじゃ済まないかもしれないよ」

「そんな冗談笑えない」

「いや、冗談じゃなくてわりと本気……」

「リアン。おんぶ。帰ろ」


微笑ましいという視線を向けるカールの隣で、全身に視線を感じながら、リアンはうっすら頬をひきつらせた。



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