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炯眼のリアン  作者: 霧雨
第三章 迫り来る魔の手
31/40

2 扱い、気持ち

移動に馬は使わない。エレメントに取り憑かれて狂われたら困るからだ。

というわけでリアンとカールは徒歩と乗り物で移動し、二時間ほどで本部付近に着いた。


「どうもありがとう」

「ありがとうございました」


乗っけてくれたおじさんにお礼を言って降りると、カールに着いて歩き出した。


かなり都会で人が多く、LEAPの場所とはえらく違う。街の様子も華やかで活気がある。

あちらこちらに食事を取る店も見られた。屋台風の店もあり、いかつい風貌の男が声を張り上げて客を呼び寄せている。だがそれに小さな子供はびくついていた。



歩みを進める内、前方に大きな建物が見えた。深みのある白基調のもので、これもまたLEAPとは随分とかけ離れている。


ふとカールのリプチャーが手首で鳴り、続いて知った男達、時々女の怒鳴り声が聞こえてきた。


「あんた、ほんとに何やってんすか!?」

「いやぁ、ごめんごめん。すぐ帰るからいいかなと……」

「そういう問題じゃないんすよ!」


あの日以来、ノイルはよく怒るようになった気がする。リアンからはリプチャーに映る彼の表情が見えなかったが、濃い隈のある目がつり上がっている様子が思い浮かばれた。


「カール!行くなら俺もつれてけよ!」

「お前が行ったら余計面倒だろうが……」

「カール!どういうつもりだ!行くなら私も……皆行くと言ったぞ!」

「だからあえて言わなかったんだよ……」


ロメストは若干拗ねているようで、セシルはノイルとロメストの声色を足して割ったような調子だった。怒ってはいるが、悲しんでもいる、そんな感じだ。

その後も遠くからガヤガヤと聞こえたが、カールは全無視して笑った。

「明日までには帰る予定だから、その間はよろしくね。何かあったら連絡頂戴。じゃ」

「ちょっ……(ブツン)」


最後は誰の声か分からなかった。カールはたまに強行突破するところがある。


カールはカールで、あの調子だとやっぱり連れてこなくて良かったと思っていた。これじゃ、いくつ問題が起こるか分かったもんじゃない。


「じゃ、行こうか」



大きな扉の前には白基調の布地に赤と金の刺繍が散りばめられた制服を来ている兵が立っていた。


「身元確認をお願いします」


カールはリプチャーを兵に見せた。

目で促され、リアンもリプチャーを差し出すと代わりにカールが操作してくれる。


二人の確認が終わった後、兵は扉を開けてくれたが、その表情は最初と変わっているように見えた。

何故だろうか、厳しく冷たいものに見える。あるいはこちらを軽蔑しているのか。


「リアン君。行くよ」


無意識に睨み返していたリアンに声をかけ、二人は中に入った。どちらも、リアンに睨まれた兵が冷や汗を拭っていることなど知らない。



入ってすぐに大きな広間に出た。LEAPの倍程の人が忙しなく行き交っている。皆統一して門番同様の制服を身に付けていた。その中で真っ赤なコートはよく目立つ。

そのせいだろうか。よく視線を感じるのだが、一様にして少し顔をしかめられるような気がした。

かなり居心地が悪い。


カールはリアンの表情を見て足を止めた。


「リアン君、一ついいかい。この建物内ではエレメントの使用はご法度だ。いいね」

「分かりました。そもそも使う時なんてないでしょう」

「……まぁ、一応ね」


苦笑いしたカールの背を再び追いながら、リアン君は内心首を傾げた。


その広間を見張るように、一段高い位置に座る女性が居た。円形の机に囲われた場所で、同じように白に赤、金の制服を着て何やら作業をしている。

近付くと女性は顔を上げた。長いブロンドの髪を耳にかけ、碧眼が覗く。ほら、またその目……二人を見ると、分かるか分からないかくらい一瞬頬がひきつった。


しかしすぐに業務用の表情に戻る。長い睫毛の瞼を伏せてお辞儀をするとカールを見た。


「お久しぶりですカール・クレイドルさん。ご用件は」

「どうも。シオに通してくれ」

「承知しました」


女性はリアンをちらっと見たが、何も言わずに電話を手に取った。


「研究班所属でここの管理を受け持っているイース・マリカマイアだ。ここで困ったことがあれば彼女に聞くといい」


電話を耳に当てながらイースが会釈したので、リアンも軽くそれに返した。


「部屋に来るようにと」

「ありがとう」


それからまたカールに着いていく。イースが座っていた台の横を抜けて、その裏にあるエレベーターへ乗った。

ガタンという小さな振動の後、体が重力に引っ張られるように重くなって、少しの浮遊感。


リアンはここに来てから向けられる視線がどうしても気になっていたが、聞かなかった。同じ組織と言えども部外者だからかもしれないし、そもそもその視線が気のせいかもしれないからだ。


乗ってから数分も経たない内に扉が開いた。

扉の向こうで数人がこちらを向いて立っていたが、彼らはここの制服を着ていない。全身黒い服だがリアンのように真っ黒ではなく、至るところに輝くシルバーの装飾が施されていた。

こちらを認識した途端、また顔付きが変わる。一体何だというのか。


疑問に思うリアンの隣で、カールが身動ぎしたのが分かった。見ると、あからさまに苦笑いを浮かべている。


「おやぁ?どちら様かと思えば、あの(・・)LEAPのカール・クレイドルさんじゃないですか。相変わらず大変そうですね。今度はガキの"お守り"ですか?」


そう言いながら笑ってリアンを見下ろす長身の男に、ピクリと眉を動かした。カールは何も答えずに未だ苦笑いを浮かべている。


ここが目的の階だったらしくカールの背を追って下りたが、目の前の男達はその場から動こうとしない。


「今回はお二人だけなので?」

「……まぁね」

「そうですか。あの者達に着いて来られてもお荷物なだけでしょうけど」


リアンの眉間のしわが深くなったことに気付かずに男は続けた。


「そういやいろいろあったらしいですね。今回は死人も出たと、か……おやおや、騒がしいのが来た」

「あぁー?どーもどーも、こりゃだまげたー!誰かと思えばカナートとLEAPのカールじゃねぇか。わざわざご足労なこって」


長身の男の視線の先にはきらびやかな有りとあらゆる装飾品を全身に纏った男が居た。露出が多く、少し日に焼けた肌に金色の眼と髪が映える。たくましい体の両脇には女を侍らしていた。


「どうも」

「いやぁ、私も運が良い。同じ日に二つの部隊のリーダー様に会えるなんて。あなたもご苦労様です、イワン・メアロンドさん」


カナートと呼ばれた長身の男は胸に手を当ててわざとらしく深々とお辞儀をした。

イワンはそれを軽く受け流してカールを見る。


「おうおう、まだ"ゴミ拾い"なんてしてるのかい?物好きなもんだぜ。どうせ今度のも役に立たねぇんだろ」


そう言ってイワンがリアンに視線を向けると、隣に居た一人の女がリアンの元へ来て前屈みに顔を覗き込んだ。元々身長が高いのに加えてヒールの高い靴を履いているため、それでちょうど視線が同じになった。


真っ赤な髪が腰まで伸び、胸下から腰まで布がない眼のやり場に困る服装をしているが、本人は全く気にしていない様子だ。


品定めするようにリアンを眺めた後、ニコッと笑ってリアンの頬に触れた。


「えぇー、そうかねぇ。でもかぁわいいじゃないか」

「あぁーん?何言ってんだよ」

「だってほら、こんなに綺麗な目をしてるよ?あたしはトニャーだ。僕のお名前は?」

「リアンです」

「そう、リアン。なんて無垢なんだろうねぇ、あぁー、なんか本当に可愛く思えてきたよ。うちのがムサイのばっかだからかねぇ」

「チッ、言ってろ」


ペタペタとトニャーが体を触りまくっている間、リアンはひたすらじっとしていた。


ふと何を思い付いたのか、トニャーは振り向いて満面の笑みを浮かべる。


「あんたも挨拶しなよ」

「え、あ、あたし!?……シュガー・メアロンドです」

「ここに来るのは初めてなんだ。私とイワンの娘だよ。可愛いだろ?」


カールとカナートは目を見開いて驚いていた。トニャーと似た服を着ているシュガーは母と同じ真っ赤な髪をボーイッシュ風に切り、サイドを編み込んでいる。その風貌はトニャーの若い頃を思い出させる強気で整ったものであり、あのイワンの血を引くとは考えられなかった。


「ほら、こっち来なって」

「い、いいよ……」

「ほら!」

「……」


母、トニャーの気迫に押され、シュガーはリアンの近くにてくてくと寄った。

ヒールのある靴を履いていてもリアンより頭半個分身長が低い。だが、これはイワンの血を引く者だからか、オーラで少し大きく見えた。


「よ、よろしく」

「よろしく」


手を差し出したリアンを見て、シュガーは半歩後ずさった。それからキョロキョロと視線を動かし、頬を髪と同じくらい赤く染めた。

隣でその様子を見てケラケラと笑っているトニャーを一睨みしてから、恐る恐るといったように手を伸ばす。


そして、二人同時に後ろへ押された。

決して強くはなかったが、いきなりのことに少しよろける。シュガーはあわあわとばたつきながら尻餅をついた。


「手は出さないでもらえますかね」

「よーやく本性表しやがった」


リアンに向けられたイワンの手首をカールががっしりと掴んでいた。余程力を込めているらしく、二人の腕には筋が立っていた。


「女は良くて男は駄目なのか?……冗談だよ、そう睨むなって。俺だって問題は起こしたくない。そうカリカリしなさんな」


イワンはカールの顔を見て言葉を飲み込んだようだが、リアンからその表情は見えなかった。


後ろでその様子を見ていたカナート達は何かが気に入らなかったらしく、ふんっと腕を組んで笑うとカールとイワンの元に近付いた。


「お二人とも、穏やかにいきましょう。イワンさんも、あのような者に触れようなどとしたのがいけない。汚れます」

「まぁそうだわな!俺が悪かった悪かった!お前もほんと苦労してんなぁ、そんな奴等引き連れてよぉ」

「ちゃんと訓練はさせておられるのですか?だから簡単に殺されるのでは」

「問題も多いしなぁ!お疲れさんっだ」


笑いながらそう話す二人にカールは一切口出ししなかった。


カールは何を思っているのか。誰が聞いてもLEAP自身が馬鹿にされているのは明らかだった。加えて死者まで持ち出されたのだ。怒ってはいないのだろうか。

仲間が、それに自分も悪く言われているにも関わらず何も言い返さない。だがリアンに触れようとしたことからは守った。故に決して力で敵わないとか、そういうのが理由ではないと思う。


「何をしているのです」

「ユネア様」


カナート達が数歩退くと、その向こうから同じく黒地にシルバーの制服を着た男が歩いてきた。


「珍しい。あなたたちと会うとは」

「よう」

「どうも」

「あなた方は?」

「し、シュガー・メアロンドです」

「リアン」

「初めましてシュガーさん。ユネア・メグといいます。お二人の娘さんでいらっしゃいますか」

「そうだよ」


トニャーが呆れた様子で答えた。


リアンには一切視線を向けず、ユネアはカナート達へ眼鏡の奥に光る目を向ける。


「ここでは通行の邪魔になります。もう少し配慮しなさい」

「申し訳ありません」

「では、これにて失礼します」


そしてユネアに従い、黒服の一行はエレベーターへと乗り込んだ。その際、カナートはちらりとリアンを見下ろしてから鼻で笑った。

心底気に食わないという表情だ。


「じゃあ俺らも行くか」

「リアーン!またうちの子と仲良くしてやっておくれよ!」


トニャーはそう言うとリアンの頬に手を添え、反対側の頬に軽くリップ音を立ててキスをした。

それを見てシュガーはまた顔を赤くした。


「ほら、行くよシュガー」

「わかってる!じ、じゃあね」


遠慮がちに手を振り二人のあとを追いかけていった。



カールはそんな状況を見て、ほっと胸を撫で下ろした。


「行きますか」

「あ、ああ」


リアンの表情に特に変化はなかった。

先程のような事が起こる可能性を考えて事前にエレメントの使用禁止を伝えたのだが、要らぬ世話だったのかもしれない。他の者は絶対といっていいほどあれらの喧嘩を買って問題を起こす。だから連れてこなかったのだが。


しかしリアンが問題を起こさなかったことへに安心すると共に、少し寂しさを感じたのは否定できない。

彼は馬鹿にされたことを何とも思っていないのだろうか。しかしカールには聞けなかった。


「で、これはどういうことでしょう」

「わかってるわかってる。説明するよ」



二人は静かに話しながら、この本部の(おさ)の元へと足を向けた。



次の回でカールにちゃんと人物を整理させます。一気に出してしまってすみません。



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