12 分かれた道
━━━話は数十年前に遡る。
「見ろよカール!こいつらは全部で五属性に分類できる。これが分かれば戦闘もずっと楽になるはずだ!」
「ロメスト。それお前の戦い方に合ってねぇよ。武器本体を変えるもんがあるなら普通に刃の形変えられねぇの?」
「こいつはすげぇや。見ろよ、この前のと属性は同じなのに使い方がまるで違う。何か法則性があると思うか?」
活動を始めてから早々に四人目のメンバーが加わった。
好奇心旺盛で探求心むき出しの彼は次々と普通では思い付かないようなことを提案し、大きく貢献した。それはメンバー数が増えても変わらず、特別強くは無かったが、皆からも三人同様に尊敬されるポジションにいた。
どこから手をつけていいか何も分からない未知の存在だったエレメントに光を射したのは、彼だと言っても過言ではない。
現場に向かって自身の目で見て確かめ、自身のエレメントを使って試し、時には手助けになりそうなものを持ち帰って調べる。
彼はエレメントに魅入られていた。
それを誰もが頼りにし、誰も何も疑わなかった。
彼が考えるエレメント像がより確かなものになり、自分達を助けてくれることを期待した。
違和感を感じたのはそれからまもなくの事だ。
唐突に呼び止められ振り向くと、そこにはいつもの好奇心に輝いた眼差しは無く、何かを按じているようだった。
「このままで、エレメントの真髄なんて分かるのか」
その時はさして気にもとめず、これからも頑張ろうなどと呑気なことを言った気がする。
こいつも不安になるときがあるのかと、むしろ人間らしさを感じて安心していた。
その事があった直後から、彼は時折メンバーに頼んで検証を手伝ってもらうようになった。
それも最初は気にならなかった。
頼まれたメンバーも終わった後に興奮して状況報告をしてくれたし、確かに分かったことも多かったからだ。
しかし、その頻度と内容は徐々にエスカレートしていった。
初めて手伝いを頼まれた戦闘隊が怪我をした際、本人は「これくらい大丈夫です!」と言っていたものの、注意をした。
優先すべきは、
人をエレメントから守ることだ。
人を傷つけていては話しにならない。
この時から、彼は言い知れない不満を感じていたのかもしれない。
それからも怪我人は減るどころか増加し、酷くなっていった。
エレメントの検証を止めさせる他無かった。
彼は素直にそれに従い、現場での戦闘だけに止まった。
また数日が経ったある日のこと。
それなりに大きな事件が起き、その時は人数も少なかったため、彼と戦闘隊数名だけを残して現場へ向かった。
無事死人もなく解決し、家に帰るとそこは
━━━血の海だった。
全員が言葉を失い、呆然と突っ立っている視線の先。
血溜まりの中に彼だけが立っていた。
異様なほど綺麗な姿で、血渋き一つ浴びていない。それがさらに不気味に思わせた。
彼は皆に気付くとパッと笑顔を輝かせたが、自分を見る表情に気が付いて眉をしかめる。
「あぁ、」
納得し、血の付かない剣の柄にあるリングに指を入れてくるくると回す。
「お前……何やってんだ?」
誰かがそう発した。
彼はその答えに盛大にため息をつくと、大股でこちらに歩み寄る。
背後で後ずさる気配がする。
その反応は駄目だ。こいつは仲間だぞ……
「カール。悪いけど、犠牲無しでエレメントの全てを知ることなんて不可能だ」
その瞬間。あぁ、もう駄目なんだと思った。
どこかで間違えただろうか。
何かきっかけはあったのだろうか。
自分には、彼を止めることは出来なかったのか。
数センチ先に突きつけられた彼の表情は、自分を酷く非難していた。もしかしたら自分も、彼に向けて同じ表情をしていたのかもしれない。
しかし、彼のように自分の意思を固く告げることはできなかった。
唯一己の口から発せられたのは
「何て事したんだ」
という何の捻りもない本年だった。
だがそれを彼は心底気に食わなかったらしい。声を荒げて掴みかかってきた。
「俺が間違ってるって言いたいのか!?はっ、そうさ、俺は犠牲を出したからな。じゃあ自分がしてることは全部正しいって言えんのかよ?ただ助けるだけ、それで被害は減るのか?それだけでエレメントが何か少しでも分かったのかよ!?俺は犠牲を出したことで多くの事が分かった。それによってこれからの被害は減る。なぁカール。俺だけが間違ってんのか!?」
「それが人を殺していい理由にはならない!際重要視される目的を見失うな、アロガン。助けていく中で些細なことでも理解していくしかないんだよ!」
沈黙。
アロガンは数歩距離をとると、刀を前に突き出した。
「危ない!」
「マーグ……す……」
「ぐううっ」
マーグスは周りの雰囲気や気配に敏感な奴ではあった。
それが今回、カールの命を助け、自身の世界を黒く染める結果となった。
「ほら、俺たちは同じ時間を過ごしたのに、俺の方がよく理解して、俺の方が強い。お前が俺と同じやり方を選んでいたら、今マーグスがお前を庇って傷付くことは無かったんだよ」
目の前で踞るマーグスに寄り添い、肩を揺すった。おい、と言う呼び声を聞いて、マーグスは顔を上げる。
「無事ですか?カール……」
マーグスはキョロキョロと首を降る。顔は真っ赤に染まり、耳は聞こえているが目が見えていないらしかった。
「どうなるかな。エレメントは契約者の傷を回復させられるか。聞かせてくれよ、マーグス」
その言葉に、カールは剣を抜いて駆け出した。それに後ろの皆も続く。
結果から言えば、引き分けだろうか。
カール達は契約者を中心にアロガンに斬りかかり、彼は逃走した。
しかしアロガンは傷一つ負っていなかったかもしれない。そして長時間大多数を相手に耐えたというのも事実だ。
アロガンが新しいエレメントの使い方に慣れていなかったのが幸いだった。もし完璧に使いこなせていれば、どうなっていたか分からない。
彼は去り際に一言残した。
『なぁ、カール』
過去の声と、現在の声が重なる。
アロガンはカールに思い出させるように、数十年前と同じような口調で言った。
「お前のその偽善に満ちた考えで、誰か助けられたか?」




