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炯眼のリアン  作者: 霧雨
第二章 かつて同志だった者
24/40

9 経験から


ビーラとリアンは見た。

空中を直径三十センチ程の2つの金属盤が自由自在に飛び交い、防ぎきれなかった戦闘隊(ビクティム)の身体を切りつけ、首を飛ばすのを。

小さな男の子がすばしっこく立ち回り、短剣を叩き付けるように振るうのを。


ビーラは走りながら状況を理解した。どうやら敵は鼻からこれが作戦だったらしい。自分が遅くなったせいで、既に何人死んでしまっただろうか。カールに合わせる顔がない。


皆は不規則に動く金属盤に翻弄されているようだった。高速で回転していて元の形は分からないが、おそらくエレメントが関わっていると思われる。珍しい【殊】のエレメントかもしれない。


そしてそちらに気を奪われれば、下から鋭い一撃が襲いかかってくる。歳は十代前半の幼い子供だが、その動きは全く退けをとらない。

一撃は致命傷には至らないものの、動きが鈍くなったところをまたも円盤が襲った。


「皆落ち着け!騒ぎ立てるな!」


ビーラの掛け声に、その場の雰囲気は変わる。


「全部に集中しろ」


落ち着いて、動き回る三つの物全てに意識を向ける。それはかなり無茶苦茶な事で、傷の数は絶対的に増えた。がしかし、致命傷は必ず避ける。


戦闘隊(ビクティム)だって無駄に特訓してきた訳ではない。これくらい、乗りきってやる。

全員がそう自分を奮い立たせた。今は死んだ仲間を弔う時ではない。


「絶対に死ぬなよ!あいつらが戻ってくるまで持ちこたえ……」


ドドーーンっ


建物の方で轟音がした。誰の耳にもそれは届き、一つの結果を知らせる。


契約者(エリート)達の方で何かあった。

すぐには戻って来られない。


「ちくしょうが!」


ビーラは大剣で円盤を叩き落とす。しかしすぐにまた回転して襲ってくる。


背筋の震えに反転して斬りつけると、金属音が響いて少年が後ろに吹っ飛んでいた。

しかし小さい体をさらに丸めて空中で回転すると見事に着地し、再び地面を蹴る。


ガキーン、

ガンガン、キーン、


あちらこちらで響き渡る金属音。永遠にも思える攻撃に、戦闘隊(ビクティム)達は嫌気がさし始めた。


いつまで続くんだ。

どうしたらいいんだ。

次は自分が死ぬかもしれない。

止まってくれ。

早く、戻ってきてくれ。



戦闘隊(ビクティム)達はギリギリのところで踏ん張る状態だったが何の拍子か、空中を飛ぶ金属盤の動きが急に遅くなった。

それだけで状況は大きく変わった。まだ、いける!


少し離れた場所でも金属音が響き渡り、金属盤は完全に地面へ落ちた。

音が鳴る方を見ると、ここからは見えずらい影になった場所で二人が戦っているのが見えた。


一人はチークスの情報にあった敵の女性。そしてもう一人はよく知っている仲間、リアンだ。



リアンは横目でこちらが優勢になった状況を確認すると、目の前の女に向き直った。

彼女を攻撃して円盤が落ちたということは、契約者(エリート)で間違いない。


前髪は眉辺りで切り揃えられ、濃い紺色の髪は腰まで伸びている。何よりその感情を持たない蒼白の顔に引き寄せられた。


リアンの振るった剣は彼女の腕によって阻まれた。手の甲から肘まで真っ白の鎧が覆っている。


「あなたはLEAPの?」

「……そうだ」


小声の問いに答えると、彼女は両腕を前方に伸ばした。すかさず殺気に振り返り、まっすぐにリアン目掛けて襲ってきた2つの金属盤を弾き飛ばす。


それぞれリアンの左右に弾かれたが、女が腕を広げてリアンの元へ引き寄せるように動かすと、その手の動きに合わせて高速で戻ってくる。


「……ちっ」


繰り返し、繰り返し、リアンは見事防いでみせたが女は慌てもしない。

奥歯を噛みしめ、自分を真っ二つにしようとする二つの円盤を防ぎ続けた。




金属盤がリアンの元へ向かうと、敵は小さな男の子だけとなった。


少年は十代前半とは思えない表情をしている。幼い子供にあるはずの爆発的な感情が一切感じられないのだ。ただ淡々と両手の短剣を体の前に構え、冷たい目でビーラを見る。


「傷付いた者の手当てをしてやれ!動けない奴を安全な場所へ!」


少年を見たままそう指示すると、戦闘隊(ビクティム)達は素早く行動を始める。そちらに集中できるのも、ビーラの強さを知るが故だ。


ビーラは大剣の先を少し地面に突き刺し、柄に体重を預けた状態で笑いかけた。


「お前ちっせぇえのにやるじゃねぇか。誰に教えてもらった?」


少年は答えない。

微動だにしないのを見て、ビーラは説得という一つの方法を諦めた。


「凄いとは思うが、使う目的がいけねぇな。悪い子にはおじさんが指導してやろう」

「……悪い?」

「そうだ。強い能力をもて余して他人を傷付けちゃ駄目だろ?」


表情を一切変えず首を傾げた少年にそう言うも、反応がない。


もしやこれがいけない事だと理解していないのか。ビーラが見つめる先で、少年は一言、


「でも、あの人は喜んでくれる」


そう言った途端、消えた。

咄嗟に気配のする方へ地面に突き刺した刀を傾けると、軽快に金属音が鳴って剣が振動する。


「おいおいおい、まじか」


剣を逆さまにしたまま、ビーラは少年の斬激を受け止め続けた。が、押されているのはビーラだ。


目にもたまらぬスピードに下がるしかない。

円盤が無くなれば少年一人に手こずることはないと思っていたが、それは少年の方も同じだったらしい。

身長差も邪魔になり、ビーラは防御に徹することになった。


「ビーラっ」

「下手に手ぇ出すなよ!」


このままいって自分が死ぬことはない。人数が増えてこの小さな少年に翻弄されるよりは一人の方がやりやすい。


そう判断したビーラは声をかけた仲間にそう叫び、そいつは頷いて治療に当たった。

ビーラがそう言うなら、大丈夫だろうと。


「やっぱ、速ぇな、お前」


そして体力もある。ずっと動き続けているにも関わらず、スピードが衰える気配がない。


しかしビーラの目には少年のスピードと、動きの"癖"がようやく見え始めた。経験からくる目は多くの情報を与えてくれる。


「おじさん、そろそろ頑張っちゃうぞ」


返答が無いのは分かりきっているが、独り言のようにそう言った。


歳を取るとお喋りになるって聞いたなぁ、悲しいことだ。と思いながら、胸の前で逆さまに剣を構えた手に力を込めて、刃先を少年に突き刺した。


それは正確に少年の動きを先読みし、躊躇なく体を串刺しにする。


……はずだった。しかしそうはならなかった。

ビーラは確かに刃先が少年の胸元の服にひっかかるのを見たがその瞬間、それなくとも速かった少年の動きがさらに加速したのだ。


服は切り裂けるも少年は剣を避け、その一瞬をついてビーラの懐に潜り込む。


「うっ」

「ビーラさんっ」


飛び込んできたのはティリーだった。指示を聞かないときもしばしばある奴だが、今回はその意思の強さに助けられた。


「すまねぇ、ちょっと頼む」

「ちょっとと言わずに!」

「生意気な奴め。頼もしいぜ!」


その声は集中しているティリーには届かない。


少年と応戦しているティリーを横目にビーラはコートを半分脱ぐと、常備している布で刺された左腕を縛った。すぐに布は赤く染まり始め、動かせば激痛が襲う。


「くそっ、随分深くやられちまったな」


咄嗟に出したのが利き腕と逆の方でよかった。


見ると、ティリーはビーラよりは身長差が小さいためやり易そうではあったが、かなりの勢いで押されていた。

あの常識離れした速さはエレメントによるものなのだろうか。


あのままではティリーも危ないと再びビーラが足を踏み出した時、パァァァンっという音と共に少年が真横へ吹っ飛んだ。


ティリーは目の前で何が起こったのか分からず目をパチクリしている。


「ごめん!遅くなって!」


そう言ってウィズがティリーの元へ駆け寄った。交戦が始まる前の配置がここと建物を挟んで反対側だったので、来るのが遅れたのだ。


「助かったぜ、さんきゅ」

「いいえー」


ウィズはそう言いながらもしっかりと少年を目で追っていた。


弾き飛ばされた少年はゆっくりと立ち上がると、ウィズの姿を確認する。


「LEAPの契約者(エリート)?」

「そうだよー」


それを聞くと、トップスピードで駆け出した。

ウィズは少年に標準を合わせると発砲する。


連続で響き渡る銃声。ウィズが狙った場所の土は抉り返された。しかし本人には当たらず、ジグザグに走る少年を追いかけるようにして土が掘られていく。


何発か撃った後、少年が背後から斬りかかってきた。ティリーは目の前でそれを見る。


いつのまに、危ないと叫ぶ間もない時間だったが、ウィズの首が飛ぶ前に少年が後ろへ吹っ飛んだ。


ウィズは瞑芭(メルバ)の銃口を顔の横で後ろに向けて発砲したのだ。


「残念でしたー、弾切れはないんだよ。僕の方が一枚上手だったね」

「お前、カッコいいな」

「なにー今更。知ってるよー!あ、リアン!」


ウィズの視線を追って振り返ると、リアンが走ってきていた。無事だったかと微笑もうとしたが、至るところ切り傷だらけの姿に、絶句した。

顔にも、体にも、目を引くのは首筋に入ったいくつもの切り傷で、かなりの窮地を乗り越えてきたことが分かった。それに何故かコートを着ていない。


「どうした!?」

「え、終わったから来た……」


リアンが走ってきた先には、長い髪の女がうつ伏せで倒れていた。周囲に二つの金属盤が落ちている。血は出ていないので、気絶しているだけのようだ。


「聞いてるのはそれじゃねぇ!傷だらけじゃねぇか!」

「大丈夫」

「大丈夫なわけあるか!コートは!?」

「邪魔だから脱いだ」

「アホかお前!守ってくれんだから着とけっていつもいつも……」

「重い」

「こんのっ」

「まぁまぁ」


仲裁に入ったのはビーラだった。一段落してにこやかな笑みで近付いてくると、リアンの肩を叩く。


「お疲れさん。流石だなぁ」

「いえ。ビーラ、腕が」

「あぁ、こんなの平気だ。なぁんも心配いらん」

「うっわ!ビーラさんそれどうしたんすか!?俺、救急箱とってきやす!」

「いや、大丈夫……」

「じゃないですよね!?お前もじっとしてろよこの野郎!」


今度はビーラの腕を見て騒ぎ出し、リアンに釘を指すと全速力で走っていった。

本当に世話焼きな奴だとティリーを見送った後、リアンはウィズへ視線を向けた。


ウィズは向こうで倒れた少年を見つめていたが、リアンの視線に気が付くと微笑んだ。


「お疲れリアン!遅くなってごめんね。傷だらけだよ、手当てしないと」

「いや、お前は大丈夫か?」

「僕は平気」


ウィズの笑顔は少し強ばってはいるものの、再び暴れだすような気配はなかった。そちらの方も大丈夫なようだ。


その意思を読み取ってか、ウィズは少年を見ながら息を吐く。


「大丈夫。冷静にね。今は、落ち着かなきゃ。僕が感情任せになると、もっと皆が困る。冷静に戦わなきゃ」


どうやら、リアン達が思っているよりウィズは強かったようだ。

信じてやれなかったのは自分達の方だったか、とウィズの強さに触れ、リアンとビーラは微笑んだ。その姿が頼もしく、信用してやろうと思わせた。


戦闘隊(ビクティム)の皆もその様子を遠くから見て微笑む。

ウィズは幼い頃から知っていて、子供もしくは兄弟のように感じていた。一つ大人になった姿を見て、素直に嬉しく感じた。



そんな、戦闘が一段落終わって少し和やかな雰囲気が漂っている中、声がかかった。


その声は背筋を凍らせ、再びその場に緊張の糸を張らせるには十分だった。


「弱ぇなあー。どいつもこいつも」



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