8 戦闘隊の男
━━━敵籠城中の建物周辺にて。
リアンは少しばかり不満を持ちながらも建物周辺の警備を続けていた。
LEAPに来て、いくつかの任務をこなして皆とし過ごしてきた。もちろん訓練も含め、何度かは修羅場も潜り抜けてきている。にも関わらず、自分は外で留守番とはどういうことか。と一度は収まった不満が再び湧き上がる。
カールはここを任せたと言ったが、少なからず力不足も心配されているだろう。確かにここに来ての経験は少ないが、しかしそれでも、連れていって欲しかったとリアンは思った。
だがきっと、カールにはリアンを連れていかなかった他の理由があったのだ。そう、今この状況がそうだろう。
「なんで、僕、留守番、……」
「片言になってるぞ」
現在は落ち着いている(拗ねているだけで問題なしだ)が、先程までの暴走っぷりを考えるとウィズを連れていくのは難しかった。敵を前にして再び暴走するかもしれない。
しかし外に放置してもおそらく、こいつは、着いてくる。リアンに見張りの役を押し付けたのだった。
「リアン。ほら、僕らも加勢した方がいいんじゃない?だって……」
「俺達はここで待機。カールに頼まれただろ」
「……。」
そして見張りをお願いしたいのは、ウィズだけではなかった。ほんの少し涙声で文句を言うウィズに目を向けた後、リアンは周囲を見渡した。
そして、呆れる。
先に応戦した戦闘隊の回復した者と、後から駆けつけた者は皆、大人しく指示に従って建物を取り囲んでいる。しかしまぁ、その態度がなんとも言えなかった。
皆どっしりと腰を下ろし、あるいは寝転んで警戒心など微塵も感じられない。本当にやる気があるのかと聞きたいものだが、実際やる気がないのだ。というか、やる気を出しても仕方ないのだ。
なんせ建物内に向かったのはエレメントを持つスペシャリスト五人。対して敵は実力はあると言っても特訓していない一般人。加えて今は守るべき足手まとい(自虐)もおらず全力でやれる状況……一人でも逃すなんてありえなかった。
そういうわけで、戦闘隊諸君&ウィズは拗ねていた。
「リアン君は大人だねぇ」
リアンの近くにいた戦闘隊の一人が声をかけた。リアンは少し緊張して答える。
「あなたより年下じゃないですか」
「精神的なものを言ってんの、俺は」
「確かにビーラは幼いですね」
「若いんだよ!心が少年なの!」
そう言ってビーラと呼ばれた男は深く皺が刻まれた日に焼けている顔を歪ませゲラゲラ笑うと、またあからさまに肩を落とした。デカイ図体が小さくなるものである。
ビーラ・ハンブル。カールより年上のこの男は、戦闘隊の父もしくは兄貴的存在である。威厳をもったその性格はもちろん、剣の腕はロメストも一目おいている実力者だ。━━エレメントを除けば。
「あの、純粋に疑問なんですが」
「あーーん?なんだー?」
「エレメントがあればと、思ったことはありますか?」
ビーラはじっとリアンを見た。驚いたような、キョトンとしたような、何か考えているような。そしてニヤリと笑った。
「そりゃ嫌味か?」
「え、いや、そうじゃなくて……」
「ワハハハ、わかってらぁ」
半分ほど白髪の混じった金髪をかきむしり、ビーラは遠くの方に目をやった。まずいことを聴いたかと内心焦るリアンには目もくれず、陽気な声色で口を開いた。
「そりゃあお前、エレメントがありゃあ力が手に入るも同然だ。逆に無けりゃ、場合によっちゃ今みたくもどかしい思いもしなきゃならん。求めるなという方が無理があるぜ。しかしエレメントが手に入ったからと言って絶対に強くなるとも限らんし、エレメントが無いと強くなれないわけでもない。それに……」
ビーラはふっと笑ってリアンを見た。余裕があり、堂々としていて、俺はいつでも戦える状況を保っていたビーラの表情に、少し寂しそうな色が見えた。
「俺は『選ばれなかった』んだ。それを今さらどうこう嘆いても仕方ねぇだろーがよ。まぁこうやって留守番させられるにしろ、楽しいことはあるんだぜ。お前みたいな変わりもんと喋れるし」
「……そうですか」
出会って間もない頃から、ビーラはリアンのことを『変わり者』だと言う。リアンには何の心当たりもなく何故そう言われるのか不思議で仕方ないのだが、実際にはビーラにも理由は分からなかった。だがなんとなくそう感じたのだ。
そう言われると何とも言い返しようがなく、リアンはその発言に深く考えないようにしていた。
それにしても、さっきは失礼なことを聞いてしまったかもしれない。任務に当たれなかったことに多少のイラつきを感じていたが、それは皆同じだ。
戦闘隊である人はもちろん力を持っている。そしてその実力とは一般的に考えれば国の任務、例えば重要人物の護衛だとかを余裕でこなせるレベルだと聞いた。
そちらの給料も高くモテて、日の当たる職につかないのは人それぞれそれなりの理由があるわけだが、リアンには分からない。
何はともあれ、LEAPの戦闘隊には戦う理由があり、力があり、だからこそプライドがある。
だからこそ現在落ち込んでいるわけだが。そりゃ今回の事だって自分が解決したいと誰もが思っているのだ。
そんなことを考えていると、ふとビーラが視線を反らし目を細めた。小さく舌打ちをしてのっそりと立ち上がり、背中の大剣に手をかけた。
「まぁ思うことはいろいろあるが、俺達は必要なんだよ。こういう予想外の出来事ってのは百パー回避なんてできねぇからな」
「?……っ!」
そう言われてすぐ、リアンも感じた。背筋が下から撫で上げられたようなぞわっとした感覚、少しの空気の変化、五感では到底とらえられないものだ。それをいち早く察知したビーラに感心している暇はなかった。
向こうの方が何やら騒がしくなったのでビーラに続いて駆け出し、リアンは剣を抜いた。剣は暗闇でさらに深みを増したように見える。先程のビーラの話を思い出し、ふと笑った。
『選ばれる』だの選ばれないだの、馬鹿馬鹿しい。
「リアン、気ぃ引き締めろよ」
「はい」
そう返事したリアンの表情はいつも通り、気難しそうな真顔であった。今起きている事態に真剣そのもので挑んでいる。
ビーラは意識を現在の敵に戻しながらふと考えた。
また、さっきのは気のせいか?時たま感じる違和感というか微かな異変。LEAPにいる奴なんぞ訳ありばかりで裏でなに考えてるか分からないのが普通だが、リアンから感じるそれはちょっと違う気がするんだよなぁ。
だからお前は面白い。
二人の前では既に、戦闘が始まっていた。




