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炯眼のリアン  作者: 霧雨
第二章 かつて同志だった者
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7 敵の戦力


「天井を突き破って登場なんて、快感……」


複数の気配を感じた。カール達が警戒して見つめる中、最初に砂埃の中から姿を表したのは長身の男だった。知っている顔である。なんせ、以前捕らえたことがあるのだから。


しかし男はカール達の気も知らず、すらりと細長い体を自ら抱きしめ、くねらせながら頬を染めている。カール達は一瞬、先程までの警戒を忘れて違う意味で表情を強ばらせ、思わず一歩退いた。


それに続いて背後に新たな三人が現れる。


「もう、埃っぽ!やだわぁ。髪崩れるぅ」

「キャキャキャッ、キャキャッ」

「フシュー」


髪をいじりながら愚痴る化粧の濃い女。嫌な笑い方をするチビの男。意味のわからない音をたてるデブの男。各々話してはいるが、仲間内で会話しているようには見えない。


「どうもどうもお久しぶりでーっす。あっは!」


三人の背後から聞こえる新たな声に、カール達は我に返った。先程のマーグスの推測に「どちらも正解だ」と答えた声だったからである。


土煙が収まり、瓦礫の山が見える。声の主はその瓦礫に片足を掛け、カール達を見下ろしていた。まだ幼さが残る少年だ。

五人に共通して言えるのは、ボロボロの服に髪は乱れていながらも眼だけは生き生きとギラついている点だ。


「……どちらも正解とは、どういう意味かな?」


カールの問いに、瓦礫の上の少年は馬鹿にしたように鼻で笑う。


「そのままの意味じゃん?なになにー、もしかしておじさん達って馬鹿なの?てか久々なのになんの挨拶も無しに……」

「そんなことどうでもいいじゃない?」


女の声が少年に被さった。女は何か気に入らないような威圧的な口調だったが、その割り込みに少年もあからさまに不機嫌な表情をした。


「っせぇばばあだなぁ」

「黙れクソガキ」

「お二人とも、この快感を邪魔しないでいただけますかねぇ。これだから芸術性の無い方々は」

「キャキャッ!お前が、邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔」

「キモいのよ、お前!」

「あなたの厚化粧もなかなかですよ」

「なんですって!?」

「お前の快感ってやつもくそキモいぜ?」

「芸術を知らないガキにはわからないものですよ」

「あ?何いっちゃってんの、年中発情期」

「さっきから何ジロジロ見てんのよ!?何か言いなさいよ、デカブツ」

「……フシュー」

「キャキャキャッ、エロイ目エロイ目!」


突然始まった口喧嘩をカール達はまじまじと眺める。どうやら仲は悪いらしい。誰が誰の肩を持つこともなく、気に食わない奴に当たり散らしているようだ。

それ故、この計画された状況に納得が出来ない。もしかすると……


冷静に分析をしていたカールの側にマーグスとセシルが身を寄せる。


「カール。間違いなくデータにある奴等だ。しかし二人足りない」

「このまま一気に畳み掛けますか?状況を見る限り、コンビネーションはとれないと思われますが。もしかするとその二人は……」


ロメストとジルがつまらなさそうに伸びをしたり、あくびをしているのを見て、カールはマーグスとセシルに目を向けた。


「そうだな、じゃあここは……」

「ひゃっほーぅっ!!!」


ガキーンッ


「そろそろ出番だと思った!」

「……おじさん、邪魔しないでよ」


瓦礫の上からカールに向かって飛びかかってきた少年を、ロメストは笑って受け止めた。カールはチラッと視線を向けるが焦りもせずに向き直る。


「外で待ってる者達が心配だ。ここは……」


ガキーンッ、ガキーンッ


「ジル!!」

「分かってるよ!」


ガキーンッ、ガキーンッ


「ちっ」

「悪い、そっち行った!!」

「やれやれ、こういう時こそ頑張って下さいよ」


ガキーンッ


「……はぁ。慌ただしいね」


二人はロメスト、二人はジル、一人はマーグスに相手される。敵は僅かに笑みを浮かべながらも見方の様子を伺いつつカールを目指している。もちろん先頭に立って指示しているのがカールだと分かっているからだ。


「ちょっと、邪魔しないでくれます?」

「ちょ、俺が先に……」

「どっちも俺が相手な!」


「もう、あんたはタイプじゃない!」

「キャキャキャーッ」

「っせぇんだよ!きめぇ!」


「フシューフシューフシュー」

「あなたは静かで、嬉しいです」


ロメストとジルは二人を相手にしながらも余裕があるようだ。マーグスも軽くあしらっているようで、状況的には優勢。しかしカールは目の前の戦いを見ながら再び、何か違和感を感じていた。


この程度の相手にロメストが苦戦するだろうか?いくら見方を庇いながらと言っても考えられない。

そして何より、どうしてこうなってしまったのか。確かに奴等が過去にもエレメントを乱用していたことは間違いない。しかし人殺しに使うことなどなかったのだ。一体何があったというのか。指示する者がいるのか?今ここに居ない二人のどちらかに皆が従っているのだと言うのか。しかしその二人もこいつらが大人しく言うことを聞く奴ではない。

この状況。もしや第三者がいるのか?


冷静に思考するカールの隣で、セシルは不安に駆られていた。カールがつまらない罪悪感に捕らわれていないかということもある。

それに何か、大きな不安が胸に支える。


「カール。私は外に行こうか?何だか少し嫌な感じがする」

「あぁ、僕も行こう。すまないがここは頼んだ」

「オッケーだ!そっちも任せたぜ!」


ロメストの返事に、マーグスの了解を得た表情を見てカールとセシルは背を向けた。後ろでは金属音が鳴り響いているが、一切の不安はない。


しかし二人が数歩離れたところで、金属音の中に微かな呟きを聞いた。


「なめてんじゃねーよ……」


そして背後に感じる嫌な気配に少しだけ振り向くと、目の前に、あの少年が迫っていた。ヒラリと身をかわすと、その向こうには信じられない状況を見た。


ロメストは細長い木で振動している物に巻き付かれ、拘束されている。ジルは空中に浮遊した水と土、言わば泥の塊のようなものに囲まれ、マーグスは地面に這いつくばっていた。


呆気にとられる二人の前に駆けてきた女はセシルに飛び付いた。


「あんた美人ねぇ……ムカつくわ」

「それは僻みって言うんだぞ?」


カールの驚く顔に少年は満足そうに口元を吊り上げた。


「どうだ?びびったか?びびるよなー!前はエレメント使わずともあっさり捕まってた奴等が久々に会うと超強くなってんだもんな!いやぁ、なめられたもんだぜ!」

「……確かに、少し甘く見ていたかもね」

「あなた!」


掛けられた声に振り向くと、ロメストを拘束している細い男が少年を睨み付けている。


「抜け駆けとは卑怯な……」

「悪いね!この人は俺がもーらいっ」

「……さっさと終わらせてそちらに行きますので、変わってくださいね」

「やなこった」


細い男はどうやらロメストが相手なのが不満らしい。それを聞いたロメストは苦笑いをした。

全員がその様子にやはり驚く。性格が大きく変わってしまっているではないか。それに、こんなエレメントの使い方はしていなかった。


皆二、三属性を組み合わせたような攻撃を繰り出している。始めて見る使い方に興味深く凝視するも、今は解析することもできない。それより過程を聞く方が大切か。この技を掴んだ過程を。


「一体、何があったのかな?全員随分と強くなっているようだけど」

「照れるわー、ビックリもするよねー。やっぱりあの人の言ってた通りだ」

「……あの人?」


カールの反応を一つ一つを楽しむように少年は笑う。カールが攻撃しないことをいいことに余裕で両手を広げて仰ぎながら、少年は声を張った。


「あの人は!俺たちに"本当の"エレメントの使い方を教えてくれた!殺す機会も与えてくれたぁっ!アハハハハっ!」


それを聞いて仲間の四人も楽しそうにクスッと笑う。


「何故殺すのだ……」


セシルの独り言ともとれる呟きに、少年は敏感に反応した。


「おばさんいいこと聞くね。それはねー……殺す楽しさを知っちゃったからだよ」


少年は正面からカールをしっかりと見つめ、人指し指をペロリと舐めて不適に笑った。





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