6 七人の使者
「ふぅー……」
ウィズはようやく泣き止んだかと思うと、いきなり顔をあげてニヘラと笑った。
「ありがとー、リアン」
「……別に」
ウィズの笑顔を見ると安心した。やはり泣き顔など似合わない。
カールはそんな二人の様子を見て安堵すると再び召集をかけた。手当ては無事に終わったようだが、皆疲れの色が見られる。これも自分があの時……そんな負の感情を吹き飛ばし、カールは気を引き締める。マーグスが言った通り、勝敗は自分にかかっていると言っても過言ではない。二度とこのような事態を引き起こさない為にも、今回こそは間違えるわけにはいかない。
「戦闘隊は今回、戦闘からは離れてもらう」
「そんなっ」
「ちょっと待て……」
「耐えてくれ」
抗議する者に向けて静かに言い放つ。カールのきっぱりとした物言いに口をつぐむが、何人かは納得できていない様子だ。
「今回の相手は人間で、それも集団でかなり使い慣れている。殺人を躊躇わない性格に、何かを隠し持っている可能性が否定できない以上、エレメント無しでどうにかなるものじゃないと判断した。それに、どうにか出来る」
カールは一度見渡して、作戦の概要を話す。
「今から中に乗り込む。戦闘隊は建物の周りを囲んで逃がさないでくれ。もし逃走者を発見した場合は極力戦闘は避けて即時に連絡するように」
全員が確かに頷いた。そりゃ納得はいかないが、理解はしている。敵は大人数で、契約者だ。こっちは一般人の負傷者で、今は与えられた任務をこなすしかないのだ。
リアンはそっと剣、九露に触れた。前にウィズが言っていたことがようやく分かった。
俺達がやらなくちゃいけない。
これはエレメントを持っている者の責任、使命、義務だ。LEAPの人達は誰一人そんなことは思っていないだろうが、契約者であるリアンはそのように感じた。
エレメントに対しては、エレメントを持つ契約者にしか出来ない事がある。
「それから、契約者諸君」
ロメスト、ジル、ウィズ、セシル、マーグス、リアンがカールを見つめる。全員、気合い十分といった表情だ。
それを見て、カールはひとつ息をつく。
「こほん、とりあえず……リアン君とウィズは留守番ね」
「「……え?」」
一瞬キョトンとし、顔を見合わせるリアンとウィズ。お互い理解できないといった表情で再びカールを見た。カールは爽やかに笑っている。
しかし本人たちには戸惑いしかない。すがるように周りを見ると、皆仕方ないというように温かい目を向けている。どうやら、カールの言ったことは本気なようだ。
「何で!?何で留守番なの!?さっきのことは謝るじゃん!連れてってよ!」
「駄目だ」
カールはウィズの懇願にも首を横に降る。
リアンはウィズの肩にそっと手を置いた。ウィズが目を向けると、珍しく優しく笑った。
「カールはウィズを心配してるんだ。さっきのこともあるけど、ほら、逃げてきた奴が皆を襲うかもしれないだろ。ここで守ってくれ。中は信じて、任せろ」
「リアン……」
二人の会話を聞いて、ロメストが呆れたように笑った。
「おいそこの奴。お前も留守番だぞ」
「よし、じゃあ行きましょう」
「だから、留守番だと言っているだろう」
「さっさと済ませよう」
「てめぇは黙って待ってりゃいいんだよ!」
「あぁ?」
「リアン君」
セシルとジルの話も聞かないリアンの両肩に手を置き、カールはニコリと笑った。
「君も留守番だ」
「嫌です」
カールは苦笑いになる。正直ここまできっぱりと拒否されるとは思っていなかった。
リアンを行かせないのにはもちろん理由があり、一つはまだLEAPに入って短いこと。一つは、エレメントを使うのを避けていること。一つは、殺人が出来るのかわからないところ。
「リアン君。君がウィズに言った通りだ、分かってるじゃないか。ここで待機して欲しい。いざというときに、頼む」
「でも……」
「君こそ!僕たちを信じているだろう?」
その言い方は、ずるい。リアンは何も言い返せなかった。
もちろん信じている。うちの奴等が負けるはずはないと思っている。しかし自分は何もしないでじっとしていることが耐えられないのだ。
そうは思うも、カールの困った顔を見て渋々頷いた。
「じゃあ、行こう」
カール一行が建物の内部へ向かった。指示された配置に付き、リアンは敵の情報を見ることにした。戦うことは無いとは思うが、暇つぶしにだ。
科学班が知らせを元に分析した情報には、相手の名前、顔写真、性格、武器の特性、事細かに書いてあった。いつもながらに流石の情報収集力である。
しかし、これはあまりに細かすぎではないか?一度の戦いで集めた情報にしては、情報量が多すぎる。喜ばしいことではあるのだが、何か違和感を感じた。人間相手になるとこおめで情報量に差が出るのだろうか。
横から覗き込んできたウィズにその疑問をぶつけると、ウィズは困ったように眉をしかめた。
「僕はあんまり覚えてないんだけど……たぶんだよ?たぶんなんだけど……たぶんだからね?」
「わかったから。何?」
ウィズは一人一人の情報を見つつ、ぼんやりと言った。
「この人達、全員一度捕まえてると思う」
「……どういうことだ?」
「何人かは確実に知ってるんだよねー。あともどっかで見たことあるような……」
それだけ言うと、ウィズはごろーんと寝転がって薄暗い空を見上げる。
「カールが気負ってた理由はこれか……普段エレメント乱用者はよっぽど酷い使い方をしてない限り、厳重な注意をして数日で解放するんだ。もちろんエレメント武器は回収するはずなんだけど」
つまり、今回暴れている乱用者達はカールが無害と判断して開放した人たちだということだ。なのに何故か武器は本人の元へ戻り、今に至ると。リアンはその制度についてよく分からなかったが、つまり
「カールが悪いのか?」
「違うよ!」
リアンがカールに対して嫌な感情を持つと誤解したウィズは必死に弁解を始めた。
「この人は確か、強盗にエレメントを使ったんだ。この人はゲームに。この人は、えーっと、確かセクハラだったかな?とにかく!どうでもいいことに使ってたの!特に害は無かったの!」
確かにすごくどうでもいいことに使われていた。これなら解放してやるのが普通だ。カールは決して間違ってなどいなかっただろう。もとより、リアンは疑ってなどいないが。
「でも、何で人殺しに使うようになったんだろ」
「……わからない」
使い方によっては、楽しいおもちゃから人殺しの兵器になる。それがエレメントだと分かっているのだが、使い手の彼らの心が大幅に変わってしまったことにどうしようもない悲しみを感じた。一体なにがあったというのだろうか。そして何故、武器は彼らの元にある?
「とにかく、早く終わればいいのにねー。」
「そうだな」
建物は随分と古びた別荘だった。装飾品は豪華ではあるものの、かなり年期が入っており誰かが住んでいるような気配もない。
一行は正面の入り口から中に入った。敵が事前から用意していた場所なのだとしたら、なにが仕掛けられているか分からない。離ればなれになると一人が集中して襲われる場合もあるので、辺りを警戒しながら固まって進んでいく。
中は一本道しかない。部屋は、「中に誰も居ないよ」というように扉が壊され、荒らされていた。誘われているようにしか思えない。
「随分と静かだな」
セシルの呟きは暗闇にすっと消えるように響かない。物音は聞こえないが、隠されていない殺気は感じていた。
特に問題なく進んでいた五人だが、マーグスがふと足を止めた。それにつられて止まる。
「何か、おかしいですね」
「どうしたんだ、マーグス」
カールが振り替えると、マーグスはいつになく険しい表情をしていた。
「私たちの目的は、相手の確保。しかし最悪、殺すことになるかもしれませんが……」
「そうなるね」
「仕方あるまい。相手がその気なんだ」
「それはそうですね。でも相手の目的はなんなのでしょう」
「「?」」
カールとセシルが顔を見合わせる。ジルとロメストはそんな頭を使う話には興味がないようで、回りに気をは張っていた。さすがのジルも任務中は真面目だ。
「それは、どういうことだ?」
「いえただ、ふと思いまして。少なくとも金や物を要求するようではなさそうですし」
「確かに。町での暴動を見れば明らかだな」
「あぁ。おそらく暴れたいだけなのだと思う。よくあることじゃないか?」
「私もそう思います」
カールとセシルはキョトンと首を傾げる。まだマーグスの感じる違和感がわからない。
マーグス自身、あまり明確ではないのだが、話ながら整理していくうちに言い知れない不安が募ってきた。
「今回のケースは初めてですので、何となく感じるのですが……相手の目的は暴れることですよね」
「だから、それはさっき言っただろう」
「つまり……エレメントを使いたいということなのでしょうか。それとも、人を殺したいということなのでしょうか」
その微かな疑問に、口にしたマーグスも、聞いたカールとセシルも、背筋に冷たいものを感じた。
勝手に思い込んでいたのではないだろうか。エレメントを手にした者の目的は、エレメントを使うことだけだと。実際これまでの乱用者のなかでは多く、また今回も殺すことに躊躇いは無いとは言え、目的は使うことのほうだとどこかで思っていた。しかし「人を殺す」という目的があってエレメントを使用しているのだとすれば、話は別だ。
「……もし、そうだったとしたら?」
「ここにはもう居ないかもしれない?ということかい」
「暴れたいなら、殺りがいのある私たちに向かってくるかもしれません。しかし殺したいだけなら、エレメントを持っている私たちより外にいる方達の方が殺りやすく、数も多く、確実……」
ドオオオオオオオンッ
「「!?」」
突然の轟音。廊下の屋根が崩れている。
立ち籠る砂埃の中には人影が見えた。
「正解はぁ、どっちもでしたぁー」
「エレメントを使って派手にいっぱい殺す。なぁんて快感!」
「やるか!」
「てめぇらが殺されんだよ」
現れた敵、そしてジルとロメストだけが笑みを浮かべていた。




