表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
炯眼のリアン  作者: 霧雨
第二章 かつて同志だった者
20/40

5 情緒不安定


ウィズは皆と離れた場所に一人、ヘタリこんで俯いている。

リアンが近付くと、ウィズの目の前にあるものが何かわかった。3つの物体が布にくるまれて並べられている。所々には赤黒い染みができていた。


「おい、ウィ……」


肩に触れようとして、ふと手を止めた。何かボソボソと聞こえる。

それがウィズの口から発せられるものだと気付き、耳を寄せた。


「何で何で何で何でどうしてクソが殺してやる殺してやる殺してやる殺す殺す殺す殺す僕が殺す皆全部殺してやる殺す殺す全部全部殺してやるあーーーあああ絶対に殺す殺す僕が殺らなきゃ僕が……」

「ウィズ!」

「!?」


肩を揺さぶり名前を呼ぶと、ウィズは我に返ったようにリアンを見つめた。


「あ、リアン」

「大丈夫か?しっかりしろ」

「僕は至って平気だよー。怪我もあまりしてないからね」

「そうか」


普通に受け答え出来たことに一先ず安心した。先程のウィズはあまりにおかしすぎる。なんたってあんなことを……しかし今も、何か違和感が


「あーあ。何で助かっちゃったかなー」

「……?」

「何でミキとエラーとマイクは死んじゃったの?何にも悪いことしてないのにさー。誰だよ殺ったの。僕は知ってるけど。目の前で見てたからねー、三人が死んじゃうとこ。何で僕は助かって三人は助けられなかったかなー」

「おい、ウィズ?」


下を向いたウィズの顔を覗き混むと、大粒の涙を流していた。目を開けたまま、ボロボロと涙が頬を伝う。


「何なんだよ!?なんで!どうして!僕は助けることができなかった!!?また!どうして!?何で死ななきゃならなかったんだよぉ!何にも悪いことしてないじゃんかぁぁあっ!!!」

「ウィズ!落ち着け!」


ウィズの発狂を聞き、皆がこちらに視線を集めていた。

そんな中、リアンが制止するとウィズは静かになる。どうも情緒不安定だ。仲間の死がよほどショックだったのだろう。


そう思い、リアンはウィズを帰らせることをカールに相談しようとして顔を上げた。


「……(ボソッ)」


呟きに再びウィズに目を向ける。ウィズは静かに立ち上がり、ゆっくりと顔を上げて空を見つめた目は……酷く冷たいものだった。


「殺してやる。僕が。よくもミキを、よくもエラーをよくもマイクをよくも皆を傷付けた奴皆殺してやるうううっ!」

「っおい、ウィズ!」


そのままウィズはスタスタと乱用者が籠城している建物がある方向へ歩き出した。慌ててリアンはウィズの腕を掴む。


「待て!一人で行くな」

「もう誰も殺させない!」


勢いよく振り向いてリアンの腕を振りほどき、肩をガッチリと掴んで詰め寄る。ウィズは泣いていて、でも無理に笑った酷い表情をしていた。


「ねぇ、リアンは行かないでしょ?自分から傷つきに行ったりしないよね?もちろん皆もここで待機だよ。カールもロメストもジルもセシルもマーグスも。ここで待っててね。あんなところに行かなければ怪我せずに済むんだからさー?ね、待ってて?」


そう言ってまた歩き出す。


一体どうしたんだ?何がなんだかさっぱり分からない。いつものウィズと違いすぎてどうすればいいのか……


すると、リアンの隣を誰かが通りすぎた。ウィズの後ろを着いていくジルは、ウィズを止めるつもりなどさらさらない。近くに居た誰かが咄嗟に叫んだ。


「おい、どこ行くんだよ!?」

「あぁ?決まってんだろ。そいつらぶっ殺しに行くんだよ」

「なっ……」

「今回は殺せばいいんだろ?簡単じゃねぇか」


そう言い残して歩いていく後ろを、今度はロメストが着いていく。


「今度は負けねーよ!一発かましてくるわー」

「ロメスト……」

「はははっ」


三人それぞれ纏った異様な雰囲気に誰も何も言うことが出来ない。

周りが呆然として見送ってしまう中、次にリアンの足元を通りすぎたのは三本の蔦だった。


シュルシュルシュルッ


「お?」

「あぁ!?」

「っ!」


自分勝手に歩いていった三人それぞれの方足にぐるぐると巻き付くと、強い力で引っ張ってくる。

ロメストはこけないように踏ん張るもそのまま引きずられる。ジルはその蔦の勢いに一度転倒し、仰向けに上半身を起こした状態で引き摺られてきた。ウィズはと言うと一番勢いよく引っ張られたらしく、ズドーンッとうつ伏せに倒れて顔面を地面にそのままズルズルと引き摺られてきた。


こんな状況だが皆の目にはかなり間抜けに見えた。


「まったく……」


三人が引き摺られた場所に居たのは、カールとマーグスだった。

顔をしかめて三人を見るカールの隣で、呆れたマーグスは手に持った柄を一振りして三本の蔦を引き戻す。それはただの刃渡り10センチ程の短剣に変わった。


「世話をかけます。寓奴(グード)


剣にお礼を言って鞘に戻すマーグスの隣でカールはと息を吐くと、ものすごい形相で息を吸った。


「お前達は一体何をしてるんだっ!!!」


リアンは初めてカールの怒鳴り声を聞いた。

周りが一瞬にして硬直し静まり返った中、ロメストとジルもピタッと動きを止めてカールを見上げ、それから目を泳がせる。


それを見たマーグスが笑って顎に手を当て、淡々と呟く。


「血の気の多い方たちですねぇ。あなた達が十分に強いことはカールも皆も分かっています。しかし今の行動はいただけない。自分の感情に身を任せて皆の信用を裏切るようなことをしないでください。いくら強くとも複数相手にしようと思えば確実に勝つことが難しくなるからこうしてここに集まったのでしょう。今もしこちらが負けるようなことがあれば戦力低下、相手の士気上昇、メリットが何一つ無い状況で行こうとするあなた達の気持ちが理解できませんね。相手が何かを隠し持っている状況も想定してください。全体的にもう少し頭を使っていただけますか?まさか自分の頭が全ての物事を的確に判断できるような上質のものと思っていないでしょう?今までの行いを考えれば当然ですよね。それを考えることが出来るカールが今は待機を命じているのです。迷惑をかけるぐらいなら、今すぐ立ち去ってくれた方がありがたいですが」


マーグスの話が進む度、すんすんと空気が重たくなっている気がした。何故か全員が説教されているような気分になり、深々と考えさせられたからだ。

ロメストとジルも最終的には地面を見つめることになった。


「……っせぇな……」


ジルの投げやりな言いぐさにも力がない。


「……あぁ。焦っちまった。すまん」


一人だけ年上の、それもLEAPの創立者と言われるロメストが年下に説教されて落ち込む姿はなんとも情けない。周りで聞いていた者は、対象が自分でなくて良かったと心底思った。

だがマーグスの言い分は正確であり、皆を戒めると同時に士気を高めた。この悲惨な状況を見て気落ちしていた者も少なからず居たのだが、彼らに確信を持たせたのだ。そう、カールの指示に従えば負けるはずがないと。


カールはいつものように微笑んだマーグスに、苦笑いを返すしかなかった。


そんな中、ウィズだけは何も聞こえていないようにぼーっとしていた。カールに怒鳴られマーグスに説教され、ようやくその場が落ち着いたところにウィズは立ち上がった。視線が集まるのも無視してまた歩き出す。


「ウィズ君!」

「ウィズさん!」


カールとマーグスの呼び止めにも応じる気配がない。再びリアンの隣を通りすぎる際、ボソボソと呟きが耳に入った。


「僕が助けるんだ。僕がやらないと。僕が殺らないと。僕がみんなを助けるんだ。もう誰も殺させるもんか……」


これでは仕方ないと、皆が力ずくで止めようと踏み出そうとした時だった。


「!?……いっ!!」


リアンがウィズの首に前から腕を巻き付け、そのまま足を払って地面に投げ倒した。突然のことに呆然とする周りを置いて、リアンは片手でウィズの両頬をぐっと握る。


「さっきから何なんだ!僕が僕が僕が僕が!」


ウィズは目を丸くしてリアンの顔を見つめた。


「一体何に怯えてる。誰かが死ぬことか。そんなの皆同じだ。さっきから聞いてりゃ自分が自分がって。お前はそんなに俺や皆の力が信用できないのか?」

「!!ちがっ、そうじゃなくて……」

「よく考えろ。お前は他の奴が傷付くのが嫌で動いてるのかもしれないが、俺達も同じだ。誰も傷付けたくないし、失いたくない。その中にお前も入ってるんだよ。お前がもし死んで、誰も悲しまないと思ってるのか?」

「……」

「お前も、家族の一員だろ?」

「……ぅっ、ぅっ」


リアンがそっと手を離すと、頬に指のあとが赤く着いていた。かなり強く握ってしまっていたらしい。

ウィズはというと、最初は嗚咽を漏らしていたのだが、しばらくすると頬を押さえながらうつ伏せに踞った。


「うっ、うっ、うわああああああああああん」

「!?え、ちょ……」


あまりに突然の号泣に自分のしたこと、言った事を思い出してあわあわと慌てるリアンを見て、周りは笑った。


「あーあ、泣かせた」

「え」

「痛かったんじゃねぇの?」

「ええ」

「年下泣かせんなよ」

「えええ」

「ほらウィズ。よしよし」


セシルがウィズの背中を優しく擦るのを見て、本気で自分が悪いことをしたように思えてきたリアンはそっとその場を離れた。まずいことをしたか、と心にとてつもない不安を感じながら。


しかし冷やかした周りはというと、とても和やかな気持ちになっていた。ウィズの事情を知っているだけになかなか掛ける言葉を見つけられずにいたのだが、リアンの言葉はそうとうダメージがでかかったらしい。あんなに皆の前で号泣するウィズは久々に見た。

もちろんリアンが言った事に皆、同感である。


よしよしと皆がウィズをあやしているのを見ていたリアンの側に、マーグスが腰を下ろした。


「先程はいきなりウィズさんを頼むなどと、無責任な事をすみませんでした」

「いえ別に。失敗してしまったようで、すみません」

「ふふ、大成功じゃないですか」

「え?」

「じっくりとこの様子を見て、まだそう思いますか?」


改めてリアンは皆の様子に目を向ける。じっくりと、噛み締めるようにその場の空気を感じている。


「実はですね……」




ウィズは、元は裕福な家に住む子供だった。父と母、そして兄と共に楽しく何不自由なく暮らしていた。


しかしある日、一人のエレメント乱用者がウィズ達家族の家に強盗に入った。乱用者の頭も冷静に回っていなかったのか、バッチリはちあわせになった。

狂ったように暴れる乱用者に父も、母も、兄も、ウィズを守ろうとして、ウィズの目の前で殺された。それはそれは酷い有り様だったらしい。もはや原形を留めていない程にぐちゃぐちゃに切り刻ませた。


そんな中、ウィズの頭にはふと家宝にされていた銃が頭に浮かんだ。何度も見たことがあるわけでもないし、気に入っている訳でもなかったが、唐突に頭に浮かんだのだ。


すかさず父の横腹あたりだったのであろう場所へ手を潜り込ませた。最悪の感触だった。生暖かくて、ぬるぬるで時々固いものに当たる。しかしそんなことは考えている余裕はない。かろうじて触れた金属を掴み、引っ張り、そのまま目の前で血まみれの剣を振りかざす乱用者へ発砲した。


変化がない。驚いて一瞬動きを止めた乱用者は再び笑い、ぐにゃぐにゃと変形する刀を振り下ろそうとした時だ。


乱用者の腹が凹んだかと思うと、後ろに吹っ飛ばされた。どてーん、と転げる乱用者に呆然とするウィズだっが、すぐさま立ち上がろうとしたのを見て連発。

無音で乱用者は後ろへ弾かれ、壁に埋め込まれることになった。


報告があり、カール達が駆けつけた時にはその乱用者は地面に埋め込まれていた。いたるところから内臓が漏れている状態。


そして新たな乱用者が生まれかけているところだった。


カールはウィズをLEAPで引き取った。ウィズの精神が回復するまで時間はかかったが、家族のように接するLEAPでの生活はウィズの大きな支えとなった。



しかし、その生活に慣れ始めた頃の事だ。


一人の乱用者により、LEAPの戦闘隊(ビクティム)が4人殺される事件があった。それはウィズが任務をこなしていたところを狙われたものだった。ウィズは、助かった。共にいた4人が犠牲になることで。


その辺りからか、ウィズは契約者(エリート)一人で任務へ行かなくなり、他の契約者(エリート)に着いていくようになった。自分と共に居なければならない存在を無くし、他に着いていかなければならない者を守るために。




「元々家族や仲間を大切にする子だったので、自分を守って死んだのだとなるとなおさら……」

「そうですか」


ウィズの瞑芭(メルバ)はそうやってウィズの物になったのか。

何も知らずに言った自分の言葉は酷いものだったかもしれない。もし自分がそんな境遇を持っていたら、同じように動いたかもしれない。


しかし話し終わった後、マーグスはリアンを攻めることも無く笑って言った。


「リアンさん。ウィズさんを叱ってくれて、ありがとうございました。私たちはウィズさんがこれ以上壊れるのではないかと恐れて何も言えなかったのです。でもあなたの言う通りだ。ウィズさんにはもっと信用して、頼ってほしいと思います。しかしながら私達もウィズさんの強さを信用出来ていなかった。ウィズさんは私たちの言葉をしっかりと受け止めることが出来たのです。もう少し早く気付くべきでした。ですからどうも、ありがとう。あなたに頼んで良かった」


深々と頭を下げたマーグスを見るリアンは凄く困った顔をしていた。自分は自分の言動を本当に正しかったことなのかわからない。ただ先ほど自分が言ったことだ。マーグスの言葉を信じてみようと思った。これ以上自分のしたことを嫌悪し、悩むことはやめよう。


「一ヶ月しか関わってない俺が言うのもなんですけど、ウィズも皆もお互いをちゃんと信用していると思います。もちろん俺も」

「……ええ。私もそう思います」


そう、皆家族だ。信用していないはずがない。


「たぶん、お互いに優しすぎた。守ろうと傷付けないように。だから遠慮してしまった。もっと互いに甘えればいい」

「ふふ、そうですね」


マーグスは見えない目でリアンの顔を覗き混むように見ると、小首を傾げた。


「あなたはなかなか客観的な感覚をお持ちのようだ」

「……はぁ」

「いえ、お気になさらず。では私も少しリアンさんに甘えさせて頂いてよらしいですか?」


そう言うと、マーグスはリアンの返事を聞かずに立ち上がって背を向けた。


「これからは皆のことをよろしく頼みます」

「……俺の方も、よろしくされようと思います」

「ふふふ」



そして皆の元へ戻るマーグスと入れ替わるように、ウィズが俯いてやって来た。ストンと無言でリアンの隣に座ると、三角座りをして顔を埋めた。


二人とも無言で、静かに時が過ぎた。


するとウィズが顔を伏せたまま、泣いているような声でリアンに聞いた。


「僕は、どうすれば、いい?」


丸投げか!と咄嗟に突っ込もうとしたが、今がそんな雰囲気でないことはわかっている。リアンはしばし考えて、言葉を選びながらゆっくりと口を開いた。


「まずは、自分を大切にしろ」

「……うん」

「それから、一人でやろうとするな。困ったときは全員でやればいい」

「……うん」

「どうすればいいかなんてその時に考えろ。わからないなら、カールでも誰にでも聞けばいい。分からないなら、皆で悩めばいい」

「……うん」

「お前は一人じゃないんだから。な?」

「……ぐすん……うん。」


また泣かせてしまった……とまたも冷や冷やするリアンだったが、ウィズの表情を見て思い直した。

ウィズは涙で顔をぐしゃぐしゃにして泣いている。それにもかかわらず、悲しんでいるようには見えないのだ。むしろほっとしているようにも見える。


おかしいだろう。泣いているのに。


その感覚に戸惑いながらも、いつもより小さく見えるウィズの肩をポンポンと叩いてやった。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ