第89話 自由のために必要な意志
あれから一週間——。
ラウゼ分岐は撤収を終え、木柵などの名残りだけを残していた。
西門外の急造施設群も、露店についてはほとんど片付けられており、残った設備は物流関係に流用されている。
宿や食堂も一部はそのまま残り、ギルドの臨時窓口は出張所として残されるようだ。
街の東側にある大倉庫と並び、西門外の荷捌き場として、ポートリースの交易中継を強化する場所になった。
この日はたまたまBランクの依頼が無く、〈音旗隊〉は休日になった。
町の大通りを歩く。
最後のほうにはひしめくように歩いていた人々だったが、すっかり半減していた。
「なんか…人口、減ってない?」
俺と同じようにリナが見渡す。
「呼び込んだ冒険者とか、需要を見込んで来た商人たちが帰ったから、一気に減った感じはするよね」
頭を掻くレックスは違う見解のようだ。
「オルドさんから聞いた話では、実際には増えたらしいですよ。
物流量の平均が上がってる、とか」
ほう。結果的に、少し町が大きくなったのか……。
クラン会館の前を通りかかると、知った顔がゾロゾロと。
ベルトムと、〈渡り灯〉の連中だ。
近付いてみると、オルフェンがベルトムに何か言っていた。
「あいつらなら大丈夫だ。
おかしなことにはならねぇさ」
ベルトムが俺たちに気付く。
「おお、お前さんら。なんじゃ五人揃って」
「依頼が無くて、休みになったところさ」
不思議そうに、イゼルが顎に手を置く。
「Cランクの依頼を請ければいいだろう。
そもそもこの辺りじゃ、Bランク以上の依頼はひっ迫していないはずだ」
「まぁ……そういう時はのんびりしようかって感じでやってて。はは」
そのやりとりを受けて、ベルトムがオルフェンに肩を竦めてみせた。
「こういうわけじゃ」
「なるほどな」
何か腑に落ちたような二人だが、マナが目を細める。
「そういう話じゃないでしょ。
分かりづらいってことを言ってるの」
セリオが「まぁまぁ」となだめるも、こっちにはなんのこっちゃ、よくわかんないなぁ。
「いったい、何の話を?」
ベルトムは頭を掻く。
そして、諦めた様に息を吐いた。
「ユーヤ。お前さんの力はまだまだ未熟じゃが……
他のもんは冒険者ランクが実力に見合っておらん」
「え、やっぱり、そうなの?」
サムズアップするのはセリオだ。
「完全にAだ。
上位魔法バンバン撃ってて、派手だったよなー」
「じゃがな。
わしはそれでもいいと思っておったんじゃ。
平均がA近くになれば、ギルドもそういう依頼を振ってくるしのぅ」
マナが突っかかる。
「そんなもん、断りゃいいだけ……
まぁ、請けちゃいそうだけど」
「じゃろ?」
俺たちはどう答えたらいいものか、互いに顔を見合わせる。
だが、明確な答えを持ち合わせていない。
長く沈黙を保っていたオルフェンが、〈音旗隊〉に向き直る。
「聞かせろ。
お前たちの力なら救える誰かが助けを求めていた時。
“Aランクじゃないから”と、やらせてもらえないのは嫌か?」
速攻で反応したのはミルだ。
「嫌ですっ! 放っておけないですっ!」
続いてレックスが握った拳を包む。
「ぼ、僕たちにできることなら、力を尽くさないと…!」
カイラはふん、と鼻を鳴らし、そっぽを向いた。
「関係ないわね。
あたしたちを縛ることが出来るのは彼だけよ。
ギルドなんて」
すると、「はっは」と笑ったトーヴァが呆れたように、そして優しくウィンクした。
「それをスムースにしてやろうってんで、あたしらが推薦しようって話さ」
横目に、静かな息を感じる。
リナは少し不安そうだ。
多分、俺が前に語った懸念を感じているんだ。
——厳しい戦いに身を置くことで、要求し合うようになるギスギスした空気になること。
だが、目の前に、そうならなかった人たちがいる。
大事なのは、名札じゃないのかもしれない。




