終話 問題児たちの朝
会館前の話し合いは、俺たちの回答を待っていた。
いや、正確には最後の一人、リナの回答を。
上を目指さなくなったリナはきっと、戦っていない時の空気感に居場所を感じている。
だから、ランクがAになって、依頼内容もAになった時……
やがて心が摩耗していくことを恐れているんだ。
でも多分、その不安は俺が解消できる。
要は、マナが言った通り。
ストレスになりそうな依頼は、断ればいいんだ。
俺が安請け合いを改めることで、俺たちの空気は守れる。
俺はリナに向き直って、肩に手を添えた。
「リナ。
俺、気を付けるよ。
大丈夫」
彼女は、少し驚いた表情で見つめ返してきた。
やがて、眉間から力が抜けていく。
「うん」
小さく、柔らかく、頷いた。
〈渡り灯〉がポートリースを発ってから、何日経ったっけ。
なんだか早くに目が覚めた俺は窓を開けた。
まだ薄暗いポートリースの軒並みが見える。
あの後、ベルトム、〈渡り灯〉、〈夕凪〉の連名による推薦が行われた。
数日後、ギルドに呼び出されると——
リナ、カイラ、ミル、レックスがAランクに昇格したことの通達だった。
ミスリル製の冒険者証を差し出し、新たな金属板を受け取った。
オリハルコンの輝きを、初めて見た。
とは言え、何か変わったかというと、何も変わっていない。
遠くから鶏の鳴き声が届き、パン屋さんの裏手では、重い物を持ち上げる吐息。
荷車の軋む音が右から、箒で掃く音が左から届く。
俺はこの後、顔を洗ったら、台所で料理を始めるんだ。
すっかりお馴染みの和定食。
五通りの卵料理。
町に出れば、知った顔がいて、知らない顔が増えていて。
ギルドには見慣れない冒険者も混ざっているだろう。
そして、Aランクの依頼が貼り出されているかもしれない。
請けるも請けないも自由だ。
大事にするものを、見誤らないようにしよう。
まぶしっ。
……朝日が出てきたな。
「さて、作るか」
寝間着を脱いで、ベッドに投げた。
今日も、みんなとの一日が始まる。
——完——




