第88話 深淵に届く者たち
巨大な洞穴は、岩柱や大小の岩が点在する起伏のある地形になっている。
壁や地面を走る亀裂から淡い白色の光が滲み、洞穴全体を薄暗く照らしていた。
高い天井は光が届かず、暗がりに沈んでいる。
鎧の中から黒い靄を吐き出す首無し騎士。
人の何倍もあるその巨体から、真っ直ぐ刃が振り下ろされた。
オルフェンの掲げた盾から何重も展開された障壁が一気に叩き割られ、脆いガラス細工のように光片が飛び散った。
ガィン——!!
衝撃が全身を伝播し、地面を割る。
彼の腕と盾は重量を受け止めつつも、体が真っ二つになることは許さなかった。
「ぅおっしゃぁ!」
その瞬間、後ろにいた魔弾士——マナが狙いを定めながら声を飛ばす。
「トーヴァ、今! 属性、雷!」
マナの隣にいたイゼルが、黄色く淡光る呪符を抜き出した。
セリオが距離を取り、長剣に手を当てる。
「ライトニングエンチャント!!」
その横を、トーヴァが駆ける。
闇騎士が剣を引くと、オルフェンがすかさず突っ込んだ。
脛を斬りつけられ、再び、重装騎士に迫る首無し。
そこへ、ぶっとい光線が飛ぶ。
マナの銃から放たれたレーザー砲とでもいうような閃光が、闇騎士の盾に刺さる。
同時に一歩下がったオルフェンの背中にトーヴァが張り付いた。
光る粉を振りかけ、すかさず下がる。
入れ替わるように走り込むセリオ。
耐性と態勢を崩した闇騎士の胴が空いていた。
「おらよーっ!」
数回、斬りつける。
闇騎士の体から紫電が漏れた。
そして、欲張ることなくオルフェンとスイッチングする。
おお。
ちゃんとしてる。
それに規模感もすげぇ。
——と、最初は思った。
というのも、規模感で言えば、〈音旗隊〉も負けてなかったからだ。
もちろん、表情も言葉も、いつも通りだ。
——だが、動きはとんでもなかった。
デスコールコーンの角から連続で放たれる放電を、レックスは全て避ける。
ドラゴンボールかよ。
シュババシュババ、て。
スキを突くカイラの斬撃も、これまでのような連撃だけじゃない。
状況によっては、2,30mを一瞬で斬り抜けてる。
F1かよ。
風圧感じるぞ。
ミルの回復も、過不足ない。
全体攻撃のダメージが残ることもないし、レックスもずっと動けてる。
一番派手なのはリナだ。
闇騎士の馬らしく、こいつもかなりの巨体だ。
だが、動きが止まった時には、それを包むほどの炎を放射する。
巨体の割に素早いのに、どこへ行っても切り刻み続ける竜巻を起こす。
——ヘルファイアブレス、ヴォルテックスタイフーン。
どっちも上位魔法だと聞いたことがある。
あえて言うなら、俺がついていけてない。
楽器によってバフの種類が違うのだけど、とりあえずリュートを弾いてる。
近くで殴れそうな時はリュート、魔法が良さそうな時はミニオルガン。
敵の攻撃が激しい時はティンパニ、避けなきゃいけない時はフルート。
——なんだけど、アイテムボックス持ちなら、戦況によって持ち替えるべきなんだろうな。
バフが付けられるようになって、色々なスキルも一気に身についたんだけど、上手く使えてる気がしない。
Aランクの高難度のボス戦か……難しいな。
だがそれでも——
一番最初に沈んだのは、俺たちが相手をしてたデスコールコーンだった。
マナの指示で、まず〈夕凪〉に加勢し、最終的には三組で無言の闇騎士を追い詰める。
やがて、大きな隙が生まれ、総攻撃。
首無しは崩れ落ち、砕けた鎧と黒い靄が蒸発していく。
残された宝箱をオルフェンが開けた。
「重装騎士の全身鎧だ。
俺のより弱いな。
お前ら、要るか?」
と言っても、どっちにも重装騎士はいない。
見合って、肩を竦めた。
「じゃあ、まぁ、マーケットに流すか」
両脇には、デスコールコーンの遺骸がまだ倒れていた。
イゼルが手を叩く。
「俺たちも手伝う。
素材を剥ぎ取ってしまおう」
だが、〈夕凪〉のみんなは地面に座り込んでいた。
エミルが空笑いする。
「我々は要らないから、採ってくれるか?
その代わり、少し休ませてくれ」
セリオが頷く。
「そっか。じゃあ休んでてくれ。
むしろ、その歳でよく動いたもんだよ」
トーヴァが近付く。
すぐに頭を叩かれた。
ボス部屋の外に行き、待機する冒険者に声をかける。
戦線を維持していた冒険者たちも撤退の準備に入った。
素材を剥ぎ取り、闇騎士が背にしていた奥に向かう。
はめ込まれている核を触ると、周りの景色が蜃気楼のように霞がかっていった。
気が付くと、黄緑谷。
周りにはたくさんの冒険者。
ポートリースが二か月近く費やした魔門攻略だったが——
それが消えるのは呆気ないものだった。




