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第85話 最高値による追い上げ

 ギルドホールへ入る。

 朝の受付前には、いつものように冒険者たちの姿があった。


 依頼を請ける者。

 報告を済ませる者。

 仲間と話しながら出ていく者。


 人の数は、別に少なくない。


 なのに、なんだかすっきりして見える。


 受付前にできていた列は短く、掲示板の前にも人だかりがない。

 そして何より――。


「……あれ?」


 掲示板に貼られている依頼票が、やけに少なかった。

 Bランクの依頼はさすがにまだあったけど。


「ネラさん。なんか、依頼、少なくないですか?」


 ネラさんは台帳をチェックしながら、声を返した。

「あー……


なんか、捌けましたね。

なんででしょう?」


 俺が聞いてるんだけど。


 リナが鼻息を強くする。

「みんな、頑張ってるんだ……


私たちも頑張らなくちゃね!」


 さらに、ネラは書類をまとめながら、重ねてきた。

「でも、Bランクの依頼は誰でも出来るというわけではないので、お願いしますね!」


 うっ……!


 無視して「魔門に行こう」なんて、言えない……。


 と、とりあえず、今日はいったん、普通に依頼を請ける、か?



 “いつも通り”、討伐系の依頼を二件こなし、ポートリースに戻ってきた。


 北門は、相変わらず荷馬車の出入りが多かった。


「次、そっち入れてくれ!」

「はいよ!」


 門を抜けた馬車へすぐに声が飛び、御者が手綱を引いて脇へ寄せる。

 荷台の覆いが外される横では、荷下ろしを終えた別の馬車が、空いた場所から街道へ出ていく。


「これは東倉庫だな。こっちだ!」

「わかった!」


 到着した荷が受け取られ、運ばれ、空いたところへまた次の馬車が入る。


 人も馬車も多い。

 けれど、街道脇で所在なさげに待っている者の姿はなかった。


 な、なーんか……スムース。



 帰り道に通りがかった馴染みの宿。

 主人が店前で掃除していた。


「こんちわ。相変わらず、ギュウギュウ詰めなんですか?」


「おー、お前さんら。


そうでもねぇよ?

外から来たのが、西門のほうに少し移ったからな」


「おお。建設が進んだんですね」


「そうなんじゃねぇか?


ちょうどよく満室だ。

今んところはな」


 「そりゃ良かったですね」を言おうとしたが、「それじゃあな」と入ってしまった。


 ……最後まで言わせてよ。



 町が何か変わったような……

 変わってないような。


 ……ん?


 そういえば、前にもこんなことがあったような。


 〈前進の旗〉の時と、〈共援団〉の時。

 みんなが急に、妙に上手く動き始めて——。


 まさか。


 だって……八千人だぞ?


 なんだか、モヤモヤするのを流し込もうと、ハルトと呑みに来た。


「じゃあエールを」

「はい。二杯ね」


 お、早い。


 まぁ、さすがに覚えられた、か?


「お姉さん、煮豆」

「すぐ出せるよ」


 すぐ出てきた。


「ラッキー♪

俺たち、ちょうどいいタイミングに来たみたいだな」


 小さな幸運ってか。

 よし、ここはもうひとつ、試してみるか。


「お姉さん、煮豚」

「はーい。ちょっと待ってね」


 さすがに、か。


 すぐ出てきた。

 「ちょっと待ってね」は盛り付けの時間だけ、か。


 や、やるやん……。



 そのまま数日。


 人の動きに妙なテキパキ感を感じつつ——

 魔門の攻略について、更新情報が耳に入るようになった。


 そこに混じった噂の一言。


「魔門攻略経験のある、Aランクのパーティが到着したらしいぞ」

「普段は灰裂域に挑んだりもしてるらしい」


 〈夕凪〉とは違う、現役の——

 しかも、もしかしたらアルディンたちよりも経験豊富なAランク冒険者が、この町に。


 これで安心、かな。

 やっちゃってください!

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