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第83話 届かない材料

「すまねぇ、待たせた!」

「遅ぇよ。こっちはとっくに着いてんだぞ」


 声の方では、待ちくたびれた商人がようやく荷車を動かし始めている。


「おーい! 材木持ってきたぞ!

誰か受け取りに来ねぇのか!」

「今行く! そこで待っててくれ!」


 別の馬車からも声が飛ぶ。


 荷受のペースが解消されない北門で、俺はひたすらアイテムボックスに物を詰め込んでいた。

 ナオが「ほい、ほい」と自らのアイテムボックスから荷を取り出す。


 鉱石、インゴット、金具、その他金属製品。


 地理に明るい俺たちが町内配達を行うほうが、そりゃ効率が良いよな。

 急だったからびっくりしたけど、納得できる話だ。


 清算がちょっと面倒そうだけど。


 横からリナが顔を突っ込む。

「ねぇ。カイラと分けたほうが早くない?」


 確かに。


 配達リストを書き分けて、分担することになった。

 引き渡しが終わり、ナオたちは早速、旅立つ。


「また持ってくるね!」


 働き者だねぇ……

 って、俺たちも仕事が生まれたんだった。


 さて、やりますかーっ。



 宿屋に届ける錠前とか、工房に届ける工具の替え刃とかの、細かい注文。

 そういうのはリナに任せて……


 まず一件目。

 鍛冶工房だ。


 工房へ足を踏み入れると、炉から流れてくる熱気が肌を撫で、鉄と煤の匂いが鼻についた。

 奥では赤く焼けた鉄を打つ甲高い音が規則正しく響き、壁際には工具や加工途中の武具が所狭しと並んでいる。


「すみませーん。インゴットのお届けです。


ドルガンの……」


 配達リストを見直す。

「バルネ精製所……から」


 顔を上げるも、誰も来ない。


「すみませーん!」

「あ?! なんだ!」


 怒らんでも。

 っていうか、周りの音がうるさいのか。


「インゴット! 持ってきました!」

 アイテムボックスから、ひとつ覗かせてみせる。


「おう! ラッド!」


 ……。


「ラッド!! どこ行った!」

「はいはいはいはい!!」


 お弟子さん……かな?


「バルネ精製所から、お届けです!」

「はいはいはいはい!」


 と、受け取る気配なく、キョロキョロしている。

 そして、親方らしき髭もじゃのところへ向かった。


「親方!」

「なんだ!」


「追加のインゴット来ました! こっちでいいすか!」

「バカ野郎! まだあんのが見えねぇのか!」


 食い気味で怒鳴られた。


「サーセン!」


 そして、奥へ引っ込んでしまう。


 ……。


 あれ?


 ど、どうしよう。


 親方に……声……かけづれぇ~~~。


 お弟子さんが戻ってきた。

「悪ぃね! 場所ぉー、作ってたもんで!」


 先に言ってくれよ……。


 奥の倉庫に、納品した。



 二件目は馬車工房だ。


 組みかけの荷車や外された車輪が並び、壁際には長さも太さも違う木材が立て掛けられていた。

 奥からは鋸を引く音や木槌を打つ音が絶えず響き、削られた木の匂いに、革や油の匂いが混じっている。


「すいませーん。お届け物でーす」


 振り向いたのは頭巾を被った男だ。

「おう。今、こいつをやっちまうから、ちょっと待っててくれ」


「あー、はい……」


 忙しいんだろうなぁ……

 届け先がこんな感じだと、配達やってる人も大変そうだ。


 そして、一区切り終わったのか。


 男がこっちへ来た。

「物はなんだ?」


 配達リストを読み上げる。


「そうか。悪いんだが、倉庫に直接、入れてくれるか」


「もちろん」


 裏の倉庫へ回る。


「ちっ」


 ……なんだ??


「すまねぇな。鍵を弟子に渡したままだ」


「あー……」


「ちょっくら、待っててくれ」


 う、うーん……



 三件目は西門を出る。


 建設現場では、何棟もの建物が同時に組み上げられていた。

 剥き出しの柱や梁の上を職人たちが行き交い、あちこちから槌を打つ音や、木材を挽く音が重なって聞こえる。


 地面には長さごとにまとめられた材木や石材が積まれ、その間を、資材を担いだ人夫が忙しなく行き来していた。


「そっち、一本上げるぞ!」

「待て、先にこっち留める!」


 掛け声が飛び、太い木材が何人もの手で持ち上げられていく。


 少し離れた場所では、まだ柱だけの建物の隣で地面を均す者たちがいる。

 その向こうでは、すでに壁板を張り始めた建物もあった。


 町の端に、いくつもの建物が一斉に生えようとしていた。


 こんな人数の中から、どうやって……

 手当たり次第に声をかけても邪魔になるだろうし。


 資材係なら……人夫っぽい人に聞いてみるのがいいか?

 集積されてる木材はそこにあるし。


「すいません。

ロンさん、どこにいるかわかりますか?」


「さぁ」


 さぁ、って……。


 気を取り直して。


「すいません。

資材係のロンさん、どこにいるかわかりますか?」


「ロンさんロンさん……


あぁ、あっちにいたよ」


 あっち、ね。


 そっちに来てみた。


 うーん……どれだ……?


 キラーン!!


 なんか、石の数を数えてる!

 きっと彼だ!


「すみません。資材係の」

「はいよ! 誰だい!」


「ロンさん——」

「はいよ! んで、誰だい!」


「お届けも」

「はいよ! 物は!」


「えーと、金具」

「バルネの!」


「え」

「じゃ、こっちだ!」


 全部、食い気味。

 歩きも速い。


 そして、ピタッと止まる。


 視線の先には、金具置場だ。

 ただ、足元は散乱している。


 ロンさんは動かない。

 何か……考えてる?


「カール! ちょと来い!」

 ロンの声が飛ぶ。


 反応したのは、若い作業着姿……

 大工さんかな。


「へーい」


 腰を叩きながら、ロンの元へ。

「お前だろ! 片付けろ!」


「へーい」


 若者が片付け始めると、ロンが踵を返した。

「他を見てくらぁ! すぐ戻るよい!」


 え?


 あ……。


 俺はカールの後ろ姿を眺めるしかなかった。

 下手に手伝うわけにもいかないし。


 なんか、どこ行っても待たされるなぁ。

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