第82話 足早な輸送
街道を外れ、岩肌の目立つ斜面を進んだ先。
崖際に、ぽっかりと黒い坑道口が開いていた。
入口には朽ちかけた木組みが残り、その足元から、黒ずんだ木製のレールが坑道の奥へ伸びている。
少し離れた場所には、崩れた木箱や割れた鉱石籠が転がっていた。
中から流れてくる空気は、ひやりと冷たい。
数歩先までは外の光が届いている。
その向こうは、真っ暗だった。
ナオがどっしり立って、エッヘンしてる。
「ここを抜けると、二日くらいは短縮できるんだ」
レックスが踵を返そうとしている。
「でもでも、敵も強い……んですよねぇ」
「そっ。Dランクの冒険者三人じゃ、ちょっと無理なくらい」
リナが両手の指先を合わせ、気まずそうにする。
「私たちへの依頼料を払ったら、赤字になるんじゃ……」
「一応、早く届けると上乗せしてくれることもあるけど……まぁね」
ミルが強い瞳で頷く。
「ラブですねっ♥」
あ、そうか。
ポートリースのために?
自分が住んでる町でもないのに。
侍のべラックと召喚士のルクスも少し気恥ずかしそうだ。
しかし、カイラが少し冷たい表情。
「それならあたしが上乗せさせるわ。
簡単よ。歯を少しずつ削ってあげればすぐに」
「ナオの仕事が減っちゃうってっ」
早めにツッコんだつもりだけど……
あ、やっぱり引いてる。
誤魔化し笑いしつつ、リナに耳打ちする。
「俺たちの報酬ってさ、割り引いて、ナオが払う依頼料を安くすることって……」
リナ、ポカーン。
え、なに?
そして、「ふふっ」と笑う。
「わかんないけど、帰ったらネラさんに聞いてみよっ」
「あ、ああ。だね」
どちらにしろ、彼らの負担は軽く、なおかつ早く、ここを抜けたいもんだ。
俺と同じ考えだったのか、リナがフォーメーションを組んだ。
音旗隊がクリアリングして、ナオたちがついてくる形だ。
と言っても、俺はそもそも最後衛だから、ナオたちと近い位置で歩いていた。
足音が、狭い坑道の奥へ何度も反響する。
光源魔法に照らされるのは、荒く削られた岩壁と、等間隔に組まれた木の支柱。
足元には木製のレールが続き、その隙間には小石や崩れた土が溜まっていた。
ときおり天井から落ちた雫が、どこかで小さく跳ねる。
外の音はもう聞こえない。
冷えた湿った空気の中、灯りの先にある暗闇だけが、歩くたびに少しずつ後ろへ退いていった。
主に現れるのはスケルトン系やゾンビ系の魔物。
無駄なく処理していく。
そういえば、冒険者を主にやっていない転移者に出会うのは、これで二人目だな。
「冒険者は性に合わない、だったな。
どうして荷運び人に?」
「んー、最初は普通に冒険者を始めたんだ。
前で戦うのは怖かったから、精霊術士やってた」
ほぅ。じゃあ、踊り子にはジョブチェンジしたのか。
「でもだんだん、討伐しに行くっていうのが楽しくないってわかって」
わからんでもない。
俺もそんなに積極的じゃなかったもんな。
「でもね、届け物の依頼は好きだったんだ。
だから、その時のパーティは抜けたの」
「まぁ、多くの冒険者は、冒険やるために冒険者やってんだもんな」
「そうだねー。
だから、その時その時で、組んでくれる人を探したんだ。
組んでくれやすいように踊り子になって」
あ、バッファー需要ね。
「だんだんと、商家さんとも顔馴染みになって、荷運び人としてやれてる。って感じかな」
「なるほどねぇ。
べラックさんとルクスさんは……」
「荷運び人の護衛だけで楽しいっていう、レアな人たち」
にひひと笑うナオ。
べラックはフッ、と笑い、ルクスは楽し気に突っかかる。
「なんだなんだ、人を変わり者みたいに」
良い関係なんだな……。
そこへレックスの声が飛んできた。
「みなさん!
ほのかに明るいです。
月明りかもしれませんよ!」
廃坑道は呆気なく、通過点として過ぎ去ることとなった。
結果として、三日短縮した形で、ポートリースの北門に辿り着いた。
が、荷受人を探すはずが、ナオの動きが止まる。
手元にあるのは……配達票だろうか。
「うそ……」
嫌な予感。
「……どうしたんだ?」
「受け取りがポートリースの荷受人じゃなくて、各商人や大工になってる……」
リナが配達票を見せてもらう。
「え、直接……?
ほんとだ。町のあちこち」
迷子になりながら?
それはさすがに効率が。
ナオが頭を抱えた。
「んーーーーーーーーーーーーーー……」
長いシンキングタイム。
「あ!」
ぱっと顔を上げた。
にっかり、と俺を見てる。
「ユーヤ君。あとよろしく!」
……へ?
北門の外には相変わらず、馬車や荷車が連なっていた。
呼ばれるのを待つ商人や荷運び人たち。
その、ポートリースを待つ視線が俺の横を通り抜けていた。




