第80話 つまずくテンポ
ギルドの掲示板を眺めていると、カウンターから声が飛んできた。
「ユーヤさんっ、ちょっと宜しいでしょうか」
ネラさんから呼びつけるなんて、珍しい。
リナと一緒にカウンターへ向かう。
「おはようございます。なんですか?」
「おはようございます。
もう、依頼は決めてしまわれたでしょうか」
「いえ。まだ」
彼女はゆっくりと瞬きをした。
「実はお願いしたい依頼がございます」
「はい。いいですよ」
ネラさんは微笑んだまま、一拍。
「まずは、内容をお伝えしますね」
……ん?
リナが苦笑いしてる。
なんだろう。
いやそれより、ちゃんと聞かないと。
北門へ向かう音旗隊。
依然として、通りを行き交う足は速い。
「リナ。なんか、笑ってなかった?」
「だって」
「なんだよ」
「別にー?」
カイラが間に割り込む。
「イチャつくなら混ぜなさい。体も含めて」
「ミルもー!♥」
飛び込んできたミルが首に絡みついた。
ぐ、ぐるしい……。
歩きながら、レックスは頭越しにリナへ声を投げた。
「それで、どういう依頼だったんですか?」
スルー力、上がったな……。
「グレイヴァから木材を運んでる運び人さんがいたんだけど、護衛の人たちが負傷したらしいわ」
「だ、大丈夫なんですか?」
「うん。上級ポーションで間に合ったみたい。
でも休養が必要だから」
思い返してみると、傷は治るのに、疲れって絶対残ったもんなぁ。
「だから、グレイヴァまで護衛して、私たちはそのまま、霧裂沼ね」
「爬虫類系の魔物……自分、苦手です」
苦手じゃない魔物がいるのかぃ? レックス君。
そんなこんなで街門が見えてくる。
北門の外には、荷を満載した馬車や荷車が街道脇までずらりと連なっていた。
御者台や荷台の脇では、商人や荷運び人たちが門の方を何度も窺いながら立ち話をし、呼ばれるのを待つように所在なさげに時間を潰している。
……どういう状況?
「人がたくさんですっ❀」
依頼人もいる、んだよね。
「確か、依頼人は踊り子の冒険者でもあるって……」
俺たちが見渡す中、ミルは街門に群がる雑踏に突入していった。
やがて、並びのほうから声が飛んでくる。
「皆さーん! こっちですー!★」
俺たちは門を抜けた。
そして、よく目立つ姿に駆け寄っていった。
そこには、材質こそ違えど、スポーツウェアのような軽装の女性がいた。
日本人……ってことは、転移者か。
「初めまして。荷運び人のナオよ」
それぞれ名乗る。
荷運び人という割に、荷車は無いようだが。
カイラが「あー…」と頷く。
「そういうこと。
あなた、アイテムボックスを輸送に使っているのね」
なるほど?!
「そうなの。冒険って、あんまり性に合わなくてね」
素材でパンパンになることもない、と。
突然、ナオは手を合わせて、頭を下げた。
「ごめんっ。
来てくれて申し訳ないんだけど、まだ動けないのよ」
「というと?」
「伐採現場で使う縄とか金具とかを受け取るはずなんだけど……」
来ない、と。
「昨日も、荷受けの人が来ないから、なかなか渡せなかったし」
あらあら。
「宿もパンパン。三人で一人用個室に泊まったのよ」
どこもかしこも詰まり気味ってことか。
リナが町のほうへ振り返る。
「あんまり、上手く回ってないのかな……」
忙しないと感じていた町が、何やら渦に飲まれて、歪んでいるように見える。
とまでは言わないけど——
なんだか、空気が重苦しい気がしてきた。




