第79話 自分たちのスタンス
薄く目を開けると、東向きの窓から差し込んだ朝日が、まだ薄暗い部屋の床を細長く照らしていた。
家の中は静まり返っている。
聞こえるのは、窓の外から届く鳥の声と、時折、通りを渡っていく朝風の音くらいだった。
目を擦りながら、腹の辺りをさする。
「ふあぁ~~~~~~……っ」
あくびのついでに伸びっ。
起き上がり、家の中で動く用のチュニックとズボンをベッドの上に投げた。
寝間着を脱ぐ。
町が魔門の対処に動き始めて、数日後の朝。
モーニングルーティーンが変わるわけじゃない。
着替え終わると、扉を閉める。
階段を降り始めると、隣の部屋からモゾつく音が聞こえた。
どうやらレックスは、俺の活動音で起きる習慣が付いたらしい。
台所に行き、エプロンを被る。
ラウゼン家の伝手で、ミズホ産の和食材を買えるようになったのは本当にうれしい。
まず、卵を一つ小鍋で茹で始め、米を研いで火にかける。
炊き上がるまでの間に、鍋へ水を張って出汁を取る。
その横で漬物を切り分け、五人分の皿と椀を出しておく。
出汁を取ったあとの道具は、もう使わないものから洗って片付ける。
階段を降りてくる音。
「あ。ユーヤさん、おはようございます」
「んー、おはよー」
多分、頭を下げてくれてるんだろうけど、構ってる場合じゃない。
味噌汁の具を切って鍋へ。
煮えるのを待つ間に魚の干物を並べ、焼き始める。
裏庭から音が。
ザザッ——!
ヒュッ! ブンッ——!
奴の朝の修練だ。
空いたまな板と包丁を洗って、小鍋の卵を水差しへ移す。
これで殻が剥きやすくなる。
次に使うものだけを手元へ残す。
二階からもゴソつく音。
多分、リナ。
先に寝るのはミルなんだけど、聞いた話じゃ、よく寝る子らしい。
おっと。
——そろそろ。
魚の様子を見てひっくり返し、鍋の灰汁を取る。
米が炊き上がる頃には味噌汁もほとんど出来上がり、魚もいい具合に焼けていた。
あとは最後に、卵だ。
茹で卵を小鍋に戻し、残ってる湯だけで温め直す。
カイラ用だ。
その間に、フライパンではミル用の目玉焼き。
蒸し焼きの間に、水差しのぬるくなった水も入れ替える。
バシャァッ……!
別の水の音が裏庭から。
汗を流したようだ。
続けてリナ用のプレーンオムレツを焼く。
戸口からリナが覗いた。
「おはよう、ユーヤ。
んーお腹空く匂いー」
朝の挨拶から微笑みを作れるって、偉いよなぁ。
「おはよう。もうすぐ出来るよ」
「あ、うん。じゃあ、起こしてくるね」
俺の分は味噌汁へ溶き入れて、レックスの分は生のまま取っておく。
卵かけご飯だ。
五人で同じ朝飯を食べるのに、卵だけ五通り。
わざわざ作り分けないでいいとは言ってくれてるけど……
好きってわかっちゃってるからなぁ。
こんな共同生活になったもんだから、家を出る時も揃うようになった。
五人まとめて、クラン会館の前に着く。
掲示板の内容はこうだった。
【仕事の割り振りについて】
魔門対応の影響で、グレイヴァでの伐採仕事と、グレイヴァ―ポートリース間の輸送護衛が増えています。
しばらくは、この二つで人手が必要になる見込みです。
Dランク以下で、今受けている依頼が終わる者、次の仕事がまだ決まっていない者は、幹部まで声をかけてください。
希望や経験を確認したうえで、手の合う仕事を紹介します。
すでに予定のある者は、そちらを優先して構いません。
共援団
リナがメモる。
「建築資材の収集かぁ」
建築ねぇ。
……あ、そうだ。
「ミルが持ってるような、木工の技術って役に立たないのか?」
鼻を高くする。
「お役に立てると思いますっ。
ただ、木箱や椅子のような細かいものになりますねっ☆」
なるほど。
まぁ建築となると、専門知識が別かぁ。
「自分も力仕事ならいくらでも」
レックスの鼻息をダガーで一刀するカイラ。
声も出せずに、ガクブルする侍。
「やるなとは言わないけど、それでいいの?
力持ちさん」
役に立てそうなら、いいのでは。
リナがメモをパタンと閉じる。
「多くの冒険者が建設系の仕事に取り掛かったら、魔物を狩る人が減ってしまう。
そういうことね」
カイラはスン顔のまま、ダガーをしまった。
……なるほど。
「むしろ、ランクが高い冒険者ほど、討伐需要に応えなきゃ、か」
そうだそうだ。
思い出した。
俺たちはいつも通りやらなきゃだった。




