第78話 大小のスタート
日差しの差し込む裏庭では、石壁沿いの草木が風に揺れ、井戸の水面がきらきらと光を返していた。
その穏やかな空気に混じって、庭の一角からは、木槌を打ちつける乾いた音や、板を削る音が途切れ途切れに響いている。
「よし、とりあえず、ガワだけは終わったな」
元々あった物置小屋の隣で、追加の倉庫が、真新しい木肌を光らせていた。
レックスが梯子を降りてきて、首に巻いてあった布で汗を拭う。
「いやー、良い汗かきました」
落ちたら危ないから、と甲冑で作業してやがった。
もうすっかり春だもんな。
そりゃ汗もかく。
外で棚を作るミルが顔を上げた。
そして、立ち上がり、腰を90度に曲げる。
「お二人とも、ありがとうございましたっ!
細かいものはミルのほうにお任せくださいっ✿」
元々ある物置小屋は薪や炭なんかの燃料や、庭の手入れや梯子なんかの生活道具が入れてある。
そこにアイテムボックスに入りっぱなしの素材まで突っ込むわけにはいかなかった。
特にミルの木材なんかは場所を取る。
リナも練習で布を買い込んでるし。
ということで、倉庫DIY。
それ以外にも、鉱石や魔物の角とか、生もの以外は入れておけるしね。
「あー……もう昼か。
今から作るの、ちょっと面倒だな」
「じゃあ、どこか食べに行くです?☆」
「ふむ…そうするか」
その横で、レックスは木剣を掴んだ。
「自分はこのまま修練します!
干し肉で大丈夫なんでっ」
……普段のお前はマジでイケメンだな。
ミルと中央通りを歩く。
食堂や屋台へ向かう人々が行き交い、あちこちから料理の匂いが漂っていた。
そんな人波の横を、荷を積んだ荷車が通り抜け、店先では昼も構わず荷運びや作業を続ける人たちの姿がちらほら見える。
ちょっと……忙しなくなったな。
街の手伝い系の依頼をこなす冒険者の姿も多い。
普段の昼時より空いてる食堂。
入っては出て行く、客の足。
スープを飲む、俺が遅いのか。
表の人混みが二倍速で再生されているのか。
飯代を払う横で、ミルがブロマイドを渡し、ファンと交流を深めている。
それを尻目に、通りに出た。
「交通量……増えたなぁ」
人が増えたわけじゃないのに。
確か、西門だったよな。
追いついたミル。
「ユーヤさん、どうかしたです?」
「ミル、西門、ちょっと見に行かない?」
「いいですよっ♪」
フッ軽。
街門を抜け、広がる農園地帯の風を受ける。
牧草地の牛の声を後ろにやると、立ち並ぶ倉庫は出入りが多そうだ。
厩舎の先には、野営するキャラバンがいつもより多いように感じた。
そして、打ち捨てられた家屋が点在してるだけだったはずの区域には、仮設建物の骨組みが立ち始めていた。
資材置場が作られ、馬車の待機場所が設けられている。
色んな職人が行き交い、警備する冒険者もいれば、荷物運びに混じってるのもいる。
ギルドの職員もチラホラと見えた。
ミルがハンマーの音に合わせて、両手を振る。
「わー。ここでもトントンやってるですっ★」
「人も荷物も、入れるにゃ場所が必要だもんな」
町が……拡張していく。
“いつも通り”は、知らないところで、いつもじゃなくなり始めていた。




