第77話 落ち着けと言う声
〈共援団〉の集会。
その指定日、俺はリナと共に会館に集まっていた。
各パーティの一人二人が、一斉に顔を揃えている。
前の方にはエミルがいる。
ロウエンもいるな。
他にも知った顔が揃っている。
横から、ケイの声。
「ねぇ、あんた聞いた? 魔門ってやつ」
「ああ。やっぱ、出たのかな」
ディルがふん、と鼻を鳴らす。
「恐れているのか。
Bランクの冒険者に囲まれておきながら」
ぐっ。
嫌なとこをつく。
ただ、そういう意味じゃ、恐れはないな。
「確かに。恐れる必要はなかったみたいだな。はは」
「ちっ」
なんだよ。どう返せばいいんだ。
ケイが「しっしっ」とディルを追い払う。
「もー。あいつ、集会に出たいって聞かないのよ。
コミュニケーション弱者のくせに」
言葉強いなっ。
「でも、実際、そっちは経験者いるんでしょ?」
「ああ。ミル以外はね」
「ふーん。残念だったわね」
「え、なんで?!」
「ダンジョンは自分達で攻略法を探すのが面白いのに」
ケイって……なにげにゲーマーっぽい発言多いよな。
すると、周りの声が少し低くなる。
奥から現れたベルトムが手を広げ、ざわめきを静めた。
「みなもちょいちょい耳にしてるかもしれんが……
魔門が見つかりよった」
「場所は?」
「ラウゼ丘陵奥、黄緑谷じゃ」
「よりによって、そんな辺鄙な」
「じゃあもしかして、成長しちまってるのか」
「そうじゃ。すでに弱っちい魔物は押し出されておる」
リナに耳打ち。
「珍しいこと?」
「少ない事例とは聞いてる。
もっと目立つところで見つかることの方が多いみたい」
運が悪かった、と。
「この町の力押しでなんとかなる関は、すでに抜かれておる」
「そもそも、ポートリースに魔門が出たことなんて」
「ああ、聞いたことないぞ」
「そうじゃ。故に、今、ギルドが他支部に対処法を照会しとるところじゃ。
各クラン、町と連携し、黄緑谷周辺の立ち入り制限を設けておる」
事態の深刻さが——集会の息を静める。
エミルの声が、落ち着いた芯で響いた。
「で。俺たちはどうする」
ベルトムは「ふほっ」小さく笑い、髭を撫でつけた。
「わしらはいつも通りじゃ。
魔門の攻略は呼び込む冒険者に任せる」
「ええ? 俺たちでやんねーのかよ」
「ばーか。普段の仕事、よそもんにやらせんのか?」
「そうじゃの。わしらのほうが土地のことはわかっておる」
なるほど。
俺たちが魔門に突っ込むわけじゃないんだな。
「そのうち、あっちの手伝いもあるかもしれんが」
ひとまず、いつも通り、と。
会館を出て、辺りを見回す。
いつもの生活。
いつもの顔。
いつもの声。
ポートリースには、当たり前の日常が交わっていた。
俺たちも、いつも通りで良いらしいけど……
リナと顔を見合わせる。
気持ちはいつも通りってわけにはいかない。
が、不安な顔を、俺が見せていいってことにもならない。
「この景色、このままがいいよな」
「うん……そうだね」
「じゃあ、俺たちは俺たちの仕事をしっかりやろう!
“いつも通り”!」
リナの微笑みが戻ってくる。
「うん。いつも通り!」
ふと、鐘が鳴る。
教会の前にはエレナや人々。
中心に、華やかな二人。
結婚式という、特別な当たり前がそこにはあった。
ポートリースは、
地域同士の血みどろの争いや、
陰謀や搾取で泥沼化してるような町じゃない。
活気と笑いに満ちている。
今まで通り、この町を支えれば、きっと大丈夫さ。




