第73話 思わぬ遭遇
夕暮れの橋を、仕事帰りの人々や荷馬車が絶え間なく行き交っている。
欄干の下では夕日を映した川がゆっくりと流れ、橋の向こうには明かりの灯り始めた酒場街が、賑やかなざわめきとともに広がっていた。
隣にはハルトが歩いている。
彼がロウエンのパーティに入って、この町に腰を据えるようになってから、ちょいちょい吞むようになった。
お互い、日本でなにやってた——なんて話は出来ないけど……
現代的な感覚は伝わるし、歳も近いから話しやすい。
ケイだと、聴くばっかりになっちゃうんだよな。
たまには俺も吐き出したい。
そんなわけで、今日もしっぽり。
「なー。ユーヤ」
「ん?」
「たまには……お姉ちゃんがいるとこで呑もうぜ」
なんだそのウィンクは。
いや……まぁ……やぶさかではない。
酒場街を進んでいくと、軒先にいくつもの灯りを吊るした、大きな二階建ての宿酒場が見えてきた。
開け放たれた窓からは笑い声と楽器の音が通りまで漏れ、入口では着飾った女が、行き交う男たちに気軽に声を掛けている。
扉を開けると、酒と焼いた肉の匂いが一気に押し寄せてきた。
卓では着飾った女たちが客の隣に腰掛け、杯を傾けながら談笑している。
奥では宿の二階へ続く階段を、女に腕を取られた男が連れ立って上っていった。
おお……。
思わず、つばを飲み込む。
……きっと、焼いた肉の匂いのせいだ。
露出にはだいぶ慣れたけど、こう、揃いも揃ってとなると、迫力が。
「お、ユーヤ。奥の方、空いてるぜ」
「ああ」
カウンターに二人の女性が座っていた。
その後ろを通りすがろうとする。
二人とも、娼婦さんか?
休憩中とかかな。
テーブルの椅子を引くハルト。
だが、俺の足は止まっていた。
振り向いて、ゆっくりと、体を横45度に傾けてみた。
「カイラ?!」
「あら」
「こ、こんなとこで何を」
と、言ってる間に、彼女は俺のほうへズンズンと踏み寄った。
「あなたこそ、こんな所で何をしているの?
あたしのことは押し倒さないくせに」
「俺は、ハルトと吞みに来ただけだよ!
別に女性を買おうとしてるわけじゃ」
と、言ってる間に、彼女は元の席へ戻った。
「そうでしょうとも」
隣に座っていた女性がプッと吹きだす。
「これが……なるほど」
む。
何か、話のタネに使われてそうだ。
「彼女はマーヤ」
それだけかよっ。
まぁ、わざわざ「娼婦の」なんて付けなくてもいいくらい、あからさまに色気を放っている。
いや、気になるのは関係値のほうだけどね?
マーヤはわざとらしく、胸を強調してきた。
「どーも」
「あ、ど、どーも」
目のやり場に困る。
マーヤはなぜか、小さく驚いた。
「あら、ほんとね」
「でしょ」
なにが?!
そこへハルトが声を投げてきた。
「おいー、いつまでそこで喋ってんだよー。
知り合いなら、一緒に呑もうぜ?」
二人が顔を見合わせる。
「あたしは構わないけど」
「そう。私も、奢りなら」
「よっしゃ!」
なんだ、この組み合わせは……。
男同士でしっぽり、どこいっちゃったんだろう。




