第69話 お似合いの中身
昼間の倉庫街には、荷を満載した馬車が行き交う。
道の両側に並ぶ大きな倉庫では、ひっきりなしに木箱や麻袋が運び込まれていた。
荷役たちの掛け声と車輪の音、馬のいななきがあちこちから響く。
交易都市らしい慌ただしさが通りいっぱいに広がっている。
休日ではあったが、朝方にノエルが来た。
ベルトムのちょっとしたお使い——
農家の祝い事で演奏してきた帰りだ。
さて、午後は何しようかな。
昼飯でも食べながら……
お。
でっかい木箱を担いだ男がいる。
力持ちー。
ん??
あの長身と茶髪。
レックスじゃん。
ていうか……お、女連れ!!
仕立ての良い服だ。
あれは……ダース砦で捕まってた……
そう、ティナだ。
ダンス教室でレックスのお相手やってた人だ。
ほぉ。
プライベートな付き合いになっていたとは。
「よぅ、レックス」
「あ、ユーヤさん」
ティナが柔らかく頭を下げる。
「これはご丁寧に」
俺もつられる。
「どしたんだ? そのバカでかい荷物」
「えーと……これは、甲冑、ですね」
歯切れが悪いな。
「お前も装備更新か。
いいじゃん。いくらぐらいだ?」
「買ったわけではなく……」
「そうなん?」
「頂きました」
「誰から」
なに、その苦笑い。
「……ティナさんの御父上から」
あぇ?!
「だって、前に"娘を助けた礼”で、刀を貰ってなかったか?」
「あはは……」
あはは、て。
見かねたように、ティナが微笑む。
「ええ。ですから、これはお礼ではないんです」
「……というと?」
「お父様がレックスさんのこと、いたく気に入りまして。
あれもこれもとあげようとするんです」
「ぼ、僕は何度もお断りしてるんですよ!?」
お前に断り力があるとは思えない。
「どうせ、押し切られてるんでしょ?」
ティナも笑う。
「ええ、そうですね」
「ていうか」
「え」
「そんなに何度も、ラウゼン家に行ってたのか」
「えーと、あのー、そのー」を繰り返すレックス。
ティナはもはや慣れたかのように、その様子を見た。
「私が皆さんに助けて頂いたあと、レックスさんをお呼び立てしました」
「ああ、代表して行かせたんだ。
ティナと知り合いだったしね。
その時に刀を貰ったって」
「ええ。お聞きになってるかもしれませんが、お父様は大のミズホ好きなんですの」
この世界における和文化エリア。ってやつだったな。
「ミズホって……侍や祈祷師の本場とか言われてる、あの?」
「そうです。よく家族で訪れていますわ。特に侍が好きで」
「それで…っ」
レックスが木箱を置いた。
「話が盛り上がっちゃいまして。はは」
侍ヲタクふたり、か。
「最近は、お父様のほうがレックスさんが来るのを楽しみにしています」
先に父親攻略って……ショートカットが強すぎ。
「ま、悪いこっちゃないよな。
なぁ、それ着てみせてくれよ」
「え、ここでですか?!」
「着て帰ったほうが楽だろ」
ティナがぱんっと手を叩く。
「それでしたら、すぐそこにうちで管理してる倉庫があります。
木箱や緩衝材はそこで回収しましょう」
良い機転だ。
品だけでなく、利発な人だな。
倉庫前の荷捌き場が、ちょうど昼時で空いていた。
そこに立つのは黒衣の侍。
静かに抜刀し、型をこなす。
ちゃっ、と刃を収めた。
綺麗だ。
甲冑同士の干渉も少なく、動きの中の音が最小限だった。
「いいじゃん」
「ええ、とても勇ましいです」
「確かに。動きやすいですよ! これなら——」
ワンッワンッ!!
「ひゃっ?!」
犬の声に、レックスは一瞬で倉庫の中に退避した。
「まぁ、鎧は、良い物になったな」
「そ、そうですね。ふふっ」
ティナは笑いをこらえている。
ほーん。
こういう感じ、気に入ってんのか。
まったく、いつの間にやら、仲良くなっちゃって。
まぁ、あんまり詮索するのも、邪魔するのも、野暮ってもんだな。
「じゃあ、俺は先に帰るわ。腹減ったし」
「え、ユーヤさんっ?」
「倉庫の人と話さなきゃ、だろ? 任せたー」
有力者の娘との繋がり……
とは、思ってないだろうな。
それこそ、似合ってない。
あの甲冑のような無骨さが、レックスには似合ってるよ。




