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第67話 全部出ちゃう子

 あれから、音旗隊の皆と相談して、ユイと同じ宿に泊まるように勧めた。

 休みも増やした。


 ミルが歌と踊りのレッスンで忙しくなるためだ。


 あの子を冒険に誘う時は、ユイの働く宿に出向くようになった。


 このまま、彼女はアイドルとして生きることになるかもしれない。

 そういう道を選ぶのなら、応援しよう。


 そういう結論になった。



 あれから数週間。

 

 ライブには欠かさず、足を運んでいる。

 音旗隊揃って。


 二人のライブは少しずつお客さんを増やし、もはや野外フェスのような熱気にまで膨らんだ。


 「ユイミル」の名はポートリースの老若男女に知れ渡っていた。


 彼女たちの提供するパフォーマンスも、一部は音楽の力。

 だから、なんだか俺まで誇らしくなって、「後列腕組みおじさん」になってしまう。


 そろそろ、ミルを冒険に誘おうと、ユイの働く宿に立ち寄った。


 客取り前の娼婦が席を立つ。


「上出来。ユイ、ありがと」


 どうやら、メイク仕事が終わったところだ。


「ユイ。おつかれ」


「あ、ユーヤ君! いらっしゃい」


「ミルは?」


「もうちょっとしたら、降りてくると思うよ」


「そっか」


 メイク道具を片付けるユイ。

 すごいバイタリティだよなぁ。


「ライブ。かなりお客さんが来るようになったね」


「うんっ! 次のライブで、最後かなー」


「えっ?!」


 唐突!!


「ど、どういうこと?」


「次の町に行く!」


「次?! あ、そういえば、旅して回ってる、とか」


「そう! だって、次の町じゃまだ誰も私のこと知らないんだよ?」


 そりゃ……そうだけど。


「そこでまた働いて、お金貯めて、楽師さん探して、歌って、踊って、衣装作って。


ちょっとずつ覚えてもらうの」


 両手を後ろで組んで、楽しそうに笑う。


「そうやって、どこの町に行っても『ユイだ!』って言ってもらえるようになったら——


すっごくアイドルっぽくない?」


 でっかい夢だ……。


 ミルは、どうするかな。



 数日後。

 ポートリースの中心は熱気でむせ返っていた。


 中央広場から溢れるほどの観客。

 二人が魅せ続けてきた結実。


 サナちゃんにしかプロマイドを受け取ってもらえなかったミルが……

 今ではこんなに愛されるようになったなんて。


 お父さんは嬉しいです!

 あー目頭の近くがキュンキュンする……鼻水出そう。


 「ユイミル」ラストライブ、開幕。


「ポートリースのみんなーっ!

今日は来てくれて、ありがとーっ!」


「ありがとなのですよーっ!」


 二人が揃って、大きく手を振る。


 歓声が返ってきた。


 うお。

 広場の後ろまで、びっしりだ。


「今日は私とミルちゃんがこの町で歌う、最後の日です!


最初から飛ばしていくよー! みんな、手拍子ーっ!」


 ユイが頭上で手を叩く。

 弦が軽快に刻まれ、笛が明るい旋律を重ねる。


 二人が左右へ分かれた。


 腕を振り上げ、一歩、二歩。

 向かい合って、くるり。


 揃ってる。

 ミルも、もうユイの動きを追いかけてる感じじゃない。


 曲が終わる。


「ねえみんな!

ミルちゃん、すっごく上手くなったと思わない!?」


 大歓声。


 ミルが両手を頬に当てる。

「えへへへ……っ。もっと褒めてもいいのですよっ?♪」


「ミルちゃーん!」

「ミルちゃーん!」


「皆さんの愛がっ、いっぱいなのですーっ!♥」


 あいつ、こういうの本当に向いてるな。

 


 曲が進むにつれ、二人の額には汗が浮かんでいた。


 ユイは変わらない。


 笑顔も。

 声も。

 観客へ振る手も。


 ミルのほうは、見るからに疲れてきた。


「はぁっ……はぁっ……」


 水を飲んで、大きく息を吐く。


「ミルちゃん、大丈夫?」


「もちろんですっ!

まだまだ元気いっぱいなのですよっ❀」


 実際、次の曲が始まれば元気に跳ね回っている。


 ……なのに。

 曲の合間。


 ユイが観客へ話している横で、ミルがふと彼女を見ていた。


 笑顔のまま客を煽るユイ。

 ミルは何か考えるように、その横顔をじっと見つめる。


「ミルちゃん?」


「――はいっ★」


 呼ばれた途端、いつもの笑顔に戻った。



「みんなー! 次が最後の曲です!」


「えーっ!」


「私もやだー!


でも最後!

だから今日一番の声、聞かせてーっ!」


 広場が揺れるような歓声。


 その隣で。

 ミルは、少しだけ寂しそうに笑っていた。


 疲れた顔なら、さっきから何度も見ている。

 でも、今のは違う気がする。


 広場を見渡して。

 ユイを見て。

 胸元で、ステッキをぎゅっと握る。


「ミルちゃん」


「……はいっ」


 ユイが手を差し出した。


 ミルはその手を見つめ――

 ほんの少しだけ、間を置いた。


 それから、いつもの笑顔で握り返す。


「最後までっ、いっぱい楽しんでもらうのですよっ♡」


「うん! いこっ!」


 最後の演奏が始まった。

 

 きっと雲まで震わせている。

 ポートリースの歓声は、そう思わせるほどに盛り上がっていた。

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