第66話 ドキッとする計画
まさかの“異世界アイドルライブ”は温かい拍手に包まれた。
「頑張ってね」
「次も楽しみにしてる」
などと声をかけて去っていく聴衆。
片付けをしながらも、“ユイ”は丁寧に礼を返していた。
人だかりの隙間が広がっていく中、目立つ姿が浮き上がる。
夕日に照らされて、ヒラヒラの光沢がキラキラする。
ミルだ。
そうか。そりゃあ、いるよな。
「ミル」
「あ、ユーヤさんっ★」
「あの子が?」
「そうなのですっ。
相変わらず、可愛かったですー♡」
片付けが終わるのを、二人で大人しく待つ。
やがて、荷物をまとめ終わると、彼女は演奏者の皆に礼金を渡した。
「へぇ。しっかりとギャラを……」
深々とお辞儀をし、見送る。
すると、やっと彼女はこちらに顔を向けた。
「ミルちゃん!」
「ユイちゃーん!」
ミルはとてとてと駆けていき、しっかと手を握った。
「とっっっっても、素敵でしたっ」
「ふふっ。ありがと!」
ミルの手を取ったまま、ユイはこちらに視線を投げ、会釈する。
当然、俺も。
ああ……日本の様式だ。
カイラやケイとは、ちょっと違う味の。
「ミルちゃんのお仲間さんなんだ!」
ユイはぱっと表情を明るくして、俺に向き直った。
「初めまして! 私、ユイ!
いろんな町を回りながら、歌ったり踊ったりしてるの」
そう言って、自分を指差す。
「一応、自称——じゃなくて、ちゃんとアイドル!」
「……おお……」
「あれ?」
きょとんとした顔が、すぐに俺を見直す。
「もしかして、ユーヤ君って転移者じゃない?」
「いや、転移者だけど」
「だよね!? よかったぁ!
久しぶりに一発で通じる相手だ!」
嬉しそうに両手を合わせる。
「改めまして。
元アイドル志望、現在は異世界で現役アイドルやってます!
ユイです。よろしくね、ユーヤ君!」
ミルで慣れたと思ってたけど……
なんというか、質が違うから、やっぱり圧倒されるなぁ。
「あ、ああ。よろしく。…はは」
なんというか、表情の切り替えにメリハリがある。
真似できない技術だ。
「ミルから聞いたよ。
この子のアイドル服、デザインから、君が作ったんだって?」
「うん! 私、裁縫師のサブジョブ持ってるから」
ユイが自分の服を摘まんでみせる。
「セルフィナにいた時にね、裁縫師ギルドでちゃんと習ったの。
アイドル服のデザインを口で伝えるより、自分で縫ったほうが思った通りのが作れるからね」
「衣装のために、裁縫師になったのか?」
「もちろん!」
びしっと指を立てる。
「ちゃんと稼いで、いい布を買って、
いっぱい動いても邪魔にならなくて、くるって回った時に可愛く見えるように作るの」
「……稼ぐって、ライブで?」
「ううん。初めて来た町じゃ、私のことなんて誰も知らないから」
ユイは指を折り始めた。
「まず宿代とご飯代がいるでしょ。
だから酒場で給仕したり、化粧の仕事したり。
私、メイク得意だから、娼館に行って『もっと綺麗にできますよー』って売り込むと、結構仕事になるんだよ」
「自分から娼館に売り込みに行くのか……」
「行く行く。
お姉さんたち、綺麗になるとすっごく喜んでくれるし!」
軽いなぁ。
「それでお金が貯まったら、楽師さんを探して、こういう曲にしたいって相談して。
演奏をお願いするなら、その分のお金も取っとかないといけないし」
「曲も毎回?」
「町によって使える楽器も、みんなが好きな曲も違うからね。
全部同じにはしないよ。
踊りは私が考えて、曲は楽師さんと相談して作る感じ」
「す、すごいな……」
「で、広場とか酒場とか、お祭りとかで歌わせてもらって――」
そこで、にっと笑う。
「そのうち『ユイ、今日は歌わないの?』って言われるようになったら、第一段階クリア!」
「第一段階なんだ」
「うん。ライブやるよーって言ったら、ちゃんと人が集まってくれるようになったら——」
胸を張る。
「よし、この町でもアイドルになれた! って」
ミルが、ほんのすこーし、伺うような笑顔で首を傾げる。
「ポートリースには、しばらく滞在するです?」
「そうねっ。今日は通りがかったお客さんだけだったもん。まだまだ!」
にへらーっと顔を崩すミル。
「じゃあ、たくさん、お話出来ますねっ♥」
しかし、ユイは何か企むように、目を細めた。
「それより、ミルちゃんも、一緒にやろ!」
おっと。
「ミルもユイちゃんみたいに?
……わ、わわわわっ?!」
一日の終わりを迎えようとする、交易都市ポートリース。
その中心で……史上最派手のアタフタキョロキョロ。
ミル、アイドルデビュー計画始動、の巻?




